38 ハニトラ勇者伝説
〇名も無き村・教会
隠し部屋で見てしまった「塗りつぶされた五人目」の衝撃が引かぬまま、ミアはマーサとテーブルで向かい合っていた。
紅茶が少し冷めており、湯気が無くなっている…
「さっきの絵画にいた勇者様のパーティ『五人目』の同行者・・・ あの方が、第二十三代聖女様なのですか?」
ミアの声は、自分でも驚くほど震えていた。
視線を落として、ティーカップの淵を見つめるマーサ。
「…あの方はね、魔王を封印するために、最も残酷な『役割』を与えられたの。
それは、聖女が決してやってはいけない、女神の祝福からは程遠い行為だった…」
「???」
マーサの言葉の意味が理解できず、ミアは困惑して眉をひそめる。
「魔王討伐パーティは、異世界から召喚された勇者様を含めて四人で出発したわ。それは教科書通り。
…けれど、そこから先の事実は、この国の教科書とは少し違っているのよ…
勇者様たちは魔王軍の圧倒的な力の前に苦戦し、任務は停滞していたのよ」
「え? そんな話・・・教科書には、勇者様たちは破竹の勢いで進軍したと・・・」
「事実は物語ほど美しくないものよ。追い詰められた勇者様は、王国へパーティの追加を依頼した。
更なる回復役が必要だという事で、時の人類最高の回復手とされていた、第二十三代聖女様が抜擢され、戦地へと送り出されたわ」
「では、第二十三代聖女様を加えた五人で、力を合わせて魔王を倒したのですね?」
マーサは悲しげに首を横に振った。
「二十三代様は、魔導師としても類まれなる才を持っておられたけれど、それ以上に…
あまりに美しすぎる御方だったの。その容姿も、そして純真すぎる心もね。
…勇者様はある戦いの中で気づいてしまったの。魔王が、聖女様にだけは致命的な攻撃を避けていることに」
「それは、たまたまでは・・・ いえ、聖女様の深い慈悲のお心が通じたのでは?」
知らず知らずのうちに声のボリュームを上げてしまうミア。
「そうね。でも勇者様はそうは思わなかったわ。
そして彼は、自分のいた異世界の知識…戦術をこの世界に持ち込んだの。
それが『ハニートラップ』と呼ばれる作戦だったの。美色をもって敵を欺き、情愛を抱かせて、その心の隙を突く作戦よ」
「・・・・・・」
絶句してしまうミア。
「勇者様は聖女様に命じたわ。『魔王に近づき、その情愛を繋ぎ止め、封印の陣を完成させるための囮となれ』と。
清らかな第二十三代聖女様を、魔王を誘惑するための『道具』として使ったのよ」
ミアは自分の指先が冷たくなっていくのを感じた。
世界を救った伝説の裏側にあったのは、一人の女性の心を踏みにじった、おぞましい策略だったというのだ。
「そんな・・・ ひどい・・・」
「作戦は成功したわ。魔王は彼女を本当に愛してしまい、彼女のために剣を収め、この人間界から軍を退けたの。
その隙をついて、封印は完遂された。 …愛した者に裏切られた絶望とともにね」
マーサの語る真実は、ミアが信じてきた聖女の光り輝くイメージを、黒い闇に沈んでいくイメージへと変えていくのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ようやく、タイトル回収?しました!(;´・ω・)
ここまでお付き合いいただいて本当にありがとうございます!!
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