36 勇者パーティの絵画
〇村の放牧地
「うーん、これではダメ・・・ 魔力が強すぎて、馬が逆に興奮してすぐに疲れてしまう・・・」
ミアは額の汗を拭いながら魔法に集中する。
マーサから教わった生活に活かす魔法は、学園で習う高位魔法よりも繊細な制御を必要とする。馬を疲れさせず、かつ最大限の力を引き出す魔力の『波』を操作するのは、精密機械を扱うような難しさだった。
農作物のバフにしても、ミアがやると成長を急かしすぎて苗を痛めてしまう。「きっかけを与えるだけ」というマーサの絶妙な匙加減を真似ようと、ミアは四苦八苦の毎日を送っていた。
〇教会の書庫
「はぁ・・・ なんとか、形にはなったのかしら・・・ ごめんね、いつもの人よりヘタっぴで・・・」
そうつぶやきながら、馬を馬小屋に戻す。
腰を押さえながら、ミアは本日最後の任務である教会の書庫へ向かった。
そこは聖堂の裏手にひっそりと佇む、薄暗い小部屋だった。
「あまり、使われてはいないみたいだけど、手入れは行き届いてるわね・・・ さすがマーサ様。」
てきぱきと棚の塵を払い、乱れた背表紙を整えていく。王宮での華やかな公務とは無縁の、地道で、けれど確かな手応えのある作業だ。
「これなら、思っていたよりも早く終わりそうだわ。よし!」
気合を入れ直して棚の奥へ手を伸ばした時、指先に奇妙な感触があった。
壁の一部に、魔力の「継ぎ目」がある。ミアが試しに指先から微かな魔力を通すと、カチリと乾いた音が響いた。
ゴゴゴ……
「えっ、隠し扉・・・?」
古びた本棚が重い音を立ててスライドし、人一人がようやく通れるほどの暗い隙間が出現した。
「こ・・・ここも、掃除するのかな?」
好奇心に駆られたミアは、吸い込まれるようにその奥へと足を踏み入れた。
「失礼しまーす・・・」
誰もいないのはわかっているが、なぜか小声でつぶやきながら、隙間を抜けるミア。
そこは、マーサすら立ち入っていないのではないかと思えるほど静まり返った隠し部屋だった。
壁には、大きな一枚の油絵が飾られている。
「これは・・・ 伝説の勇者様一行の・・・」
描かれているのは、数百年前、魔王を封印した四人の英雄たち。
勇者、戦士、賢者、そして僧侶。
どの教科書にも載っている、王国の誇り高き象徴だ。
しかし、ミアはその絵の前で凍りついてしまう。
勇者と戦士の間に、不自然な、そして広大な「空白」がある。
そこには、鋭い刃物で削り取られたような跡があり、その上から黒い塗料で乱暴に塗りつぶされていた。
「もう一人・・・誰かがいたの?」
通説では、勇者パーティは四人。魔王を封印し、凱旋したのも四人のはずだ。
だが、絵の構図をよく見れば、塗りつぶされた人物の「手」と思われる指先が、勇者の肩に優しく添えられているのが分かる。
「僧侶様は別に描かれている・・・ だとしたら、この人は・・・?」
英雄たちの凱旋の絵のはずなのに、漂う不気味な雰囲気に、少し怖くなってくるミア。
「ミィさん、掃除は終わったかしら?」
「みぃっ!!」
背後からマーサに声をかけられ、ミアは飛び上がった。
振り返ると、マーサは扉の隙間に立ち、穏やかな笑顔で立っている。
「あら、この絵は・・・」
ミアは、マーサにこの塗りつぶされている5人目の人物について聞いてみる事にした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ようやく伝説の勇者パーティの話が少し出てきました。
よろしければ、またお願いいたします。




