33 村のシスター
〇村はずれ・寂れた森
下品な笑みを浮かべた男の指が、服の上からミアの体に深く食い込む。
今まで他者に触れられたことすらないミアの胸が変形する…
「や、やめてぇっ!!」
「へへ、ここまで来てやめれるかよ!」
男が獣のような息を吐き、衣服の襟首を強く引っ張ろうとした、その瞬間。
「あごあっ!!」
短い、間の抜けた悲鳴と共に、男の体がびくんと跳ねた。
そのまま糸が切れた人形のように、ミアの上にどさりと倒れ込み、動かなくなる。
「はぁ、はぁ・・・っ!」
必死に男の体を押し退け、地面を這いずるようにして距離を取るミア。男は白目を剥いて気絶していた。混乱するミアが震える瞳を上げると、木漏れ日の向こうから一人の女性が歩み寄ってくるのが見えた。
「安心してください。今のは護身用の麻痺魔法です。気絶させる効果がありますから、魔獣相手にも重宝するのですよ」
そこに立っていたのは、五十歳前後と思しきシスターだった。
特別目を引く美人ではないが、目尻に刻まれた笑い皺からは、長年人々の悩みを聞き続けてきたような深い慈愛が滲み出ている。相手を包み込むような笑顔だった。
年齢的に、女神魔法を使用するには限界はとうに過ぎているように見えるが、麻痺魔法の威力や精度は的確。まだまだ現役と言う感じだった。
「あ・・・ う、うわぁぁん!」
ミアはたまらず、そのシスターの胸に飛び込んでしまった。
「あらあら、怖い思いをさせてしまいましたね… 巡礼は初めてかしら? まずは教会へ行きましょう。温かいスープもありますから」
背中を優しく撫でられるたび、ミアの目から涙が溢れ出した。
恐怖で震える身体。止められない。そもそも男性に強く触れらる事すら初めてのことだったのだ。
お城では決して触れることのなかった本物のどす黒い欲望の感触が、まだ肌に残って消えなかった。
ミアが落ち付くのを待って、シスターは教会に案内してくれた。
村のはずれにある小さな教会は、王都の大聖堂とは比べるべくもない、木造の小さく慎ましい建物だった。
十数人も入れば満員になりそうな聖堂の中には、村人の手作りだろうか、少し不格好だが温かみのある木彫りの女神像が祀られている。
奥の小部屋で出されたのは、一切れの硬いパンと、具の少ない塩味のスープ。
聖女として贅を尽くした食事を摂っていたミアにとって、それは本来質素すぎるもののはずだった。
「・・・おいしい。すごく、温かいです」
「それは良かった。何もないところですが、今夜はゆっくり休みなさいな」
温かいスープが、冷え切っていたミアの心を内側から温めてくれる。
その夜、ミアは借りた一室のベッドに横たわった。豪華な天蓋もシルクのシーツもないが、泥にまみれ、獣に怯えたここ数日の野宿に比べれば、そこは天国のような安らぎに満ちていた。
(・・・私は、何も知らなかったんだわ。守られて、ちやほやされて・・・ でも、あのシスターさんは、あんな魔法で人を助けて・・・)
お城の外では自分がいかに無知で無力であったかという現実。
自分が今まで聖女として世界の為に捧げてきた祈りの軽さを思い、胸を痛めながらも
ミアは、深い眠りに落ちていくのだった。
ここまで読んできただきありがとうございます!
ベテランのシスターに助けられたミア。
このまま旅を再開するのでしょうか?
もしよろしければ、次のお話もよろしくお願いいたします!




