32 ミアの美貌
〇寂れた村の入り口
立ち並ぶ家々はどれも古び、活気という言葉からは程遠い。
ミアはおずおずと、馬小屋の壁に座り込んでいた男に声をかけた。
「あのぉ・・・すみません」
男は若い女の声にピクリと反応しミアを見上げてくる。
直後、信じられないものを見たという風に目を見開き、石のように固まってしまう。
「えっと・・・?」
ミアが困惑して、きょとんとした顔で首を傾げても、男は動かない。
数秒の沈黙の後、男はようやく口を開いた。
「あ、いや、スマン…エライ別嬪さんだったもんでな… お嬢さん、巡礼中のシスターさんかい?」
それを聞いて、ミアは内心でホッと胸をなでおろした。
王都からこれほど離れれば、自分の顔を見ても追放された聖女だとわかる者はいないようだ。
ならば巡礼中のシスターを装うのが一番都合が良いだろう。
「あ、はい。そうです」
ミアは女神教会の関係者だけが持つことを許される銀のクロスを、胸元から取り出して見せた。
「へ、へぇ…」
男の視線が、差し出されたクロスよりも、それを持つミアの手や、豊かな胸元へと執拗に向けられる。
男の醸し出す下品な空気に、ミアは今までに経験したことのない不快感を覚えた。
「あ、あの・・・ この村に教会はありますか? 」
男は返事をせず、食い入るようにミアの身体を上から下まで眺め回している。不気味な沈黙。この空気もミアが感じたことのないものだ。
「・・・あの?」
「…へへへ。教会だな? ああ、あるぜ。こっちだ、ついてきな」
男は下品な笑みを浮かべて歩き出した。ミアは少し違和感を感じつつも「ありがとうございます」と頭を下げて男の後をついて行く。
しかし、男が向かったのは村の中心ではなく、人気のない薄暗い森の方だった。
(教会は、少し離れた森の中にあるのかしら?)
そう考え、足元の木の根を避けようとしたその瞬間、ミアの視界が反転した。
「!!????」
何が起きたのか、理解が追いつかない。
背中に地面の硬い衝撃、直後に激痛が走る。気づいた時にはミアは男に押し倒されていた。
「うぐっ!?」
上から覆いかぶさる男の重み。手首を強引に押さえつけられる苦痛。
お城の騎士たちが自分に向ける敬意とは真逆の剥き出しのドス黒い感情。
「へへへ…!女神教会の巡礼中のシスターっつっても、全員がしっかり管理されてるわけじゃねえんだろ?
一人ぐらいどうなっても、ばれやしねえぜ!こんな上等な女、一生かかっても拝めねえ。へへ、悪いが好きにさせてもらうぜ」
「ちょっ、ちょっと・・・ やめてください!離して!!」
必死に体をくねらせて逃げようと抵抗するが、か弱いミアの腕力では男の腕は岩で固定されたかのように動かない。
男の脂ぎった顔が間近に迫り、吐息がミアの顔にかかる。
「俺のような哀れな男に、祝福を授けてくれるのもアンタらの仕事なんだろ? なあ、シスターさんよぉ!」
この世界では、お城を一歩出れば、ミアの『絶世の美貌』は、誰もが羨む女神の化身の如きオーラではなく、飢えた獣を引き寄せる最も危険な餌になり果ててしまう。
絶体絶命の窮地。ミアはこの男を撃退できるのか?
最後まで読んでいただきありがとうございます!
第三章、厳しい幕開けとなりました。ここからミアがどう切り抜けるのか、あるいは誰かが助けに現れるのか?
もしよろしければ、次もよろしくお願いいたします!




