21 聖女の不安
〇王宮・謁見の間
以前の澱んだ空気は消え、窓から差し込む陽光が玉座を明るく照らしている。
そこには、自らの足でしっかりと立ち、朗らかな笑みを浮かべる国王の姿があった。
「聖女ミアよ。お前の献身的な癒やしのおかげで、余の体は驚くほど軽くなった。
これならば、まだまだこの国のために踏ん張れそうだな」
「もったいないお言葉です、陛下。ご健勝な姿を拝見でき、何より嬉しく存じます」
ミアは淑やかに礼をする。
ふわりと広がるピンク色の髪が、光を纏って輝く。
その所作に、もはや『見習い』の危なっかしさは無く、
一国の聖女としての風格すら漂い始めていた。
「実はお前にまだ話していなかったのだが、留学に出ていた我が息子が、もうすぐ帰国するのだ。
余の体調が悪かった時は、帰国後すぐに王位を継がせるつもりであったが……」
国王は少し楽しそうに目を細める。
「余もこれほど快復したのだ。息子も帰ってきて早々、王冠を押し付けられては不憫であろう?
もう少し、余が老骨に鞭打って頑張ることにしたぞ。はっはっは!」
「ふふ、陛下。王子殿下も、お元気になられた陛下のお姿を見れば、何より安心されることでしょう」
ミアの優しい微笑みに、国王も満足げに頷く。
しかし、ミアの内心は穏やかではなかった。
〇聖女の間・深夜
公務を終えたミアは、贅沢な装飾が施された大きなベッドに、泥のように沈み込んでいた。
(ふぅ……王子様、かぁ…… どんな方なんだろう?リリィ様からは何も聞いてなかったな……)
天井を見つめながら、ミアは今日一日の出来事を整理する。
(陛下が元気になられたのは良いけれど、毒の『混入経路』がまだ特定できていないのが不安だわ。
解毒魔法で症状を抑え込んでいるだけで、原因を断たなければまた繰り返されてしまう……)
国王が快復すればするほど、毒を盛っていた犯人は焦りを感じているはずだ。
ミアには対応できない、新たな手を打ってくる可能性もある。
(もし王位継承を急いでいた人物がいるとしたら、陛下の快復は都合が悪いはず。
……留学から帰国なさるという王子様の周りも警戒しておいた方がいいかもしれないわね)
問題は山積みだ。
頼れるリリィ様はもういない。
「……はぁ。一人になると、余計に心細いですよ、リリィ様」
ミアは枕をぎゅっと抱きしめた。
閉じた瞳の裏に、ふとリリィのあの笑顔が浮かぶ。
『やっぱり美人は絵になるわぁ!あなたは歴史に名を残しそうね』
「……私は名なんて残さなくていい。
ただ平穏に、たまにポテチでも食べながら、ゆっくりお茶を飲んで暮らしたいだけなのに」
自嘲気味に呟き、ミアは深い眠りへと落ちていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
王子と言う新キャラクターの存在が登場しました。
この王子は、馬鹿王子なのか、ミアの力を見抜けるかしこ王子なのか……
もしよろしければ、次のお話もよろしくお願いいたします。




