20 さようならリリィ様
〇王宮・正門前
華々しい軍楽隊のラッパが鳴り響き、王宮の正門が開かれる。
そこには、リリィを故郷へと運ぶ質素ながらもしっかりとした馬車が待機していた。
すでに馬車に乗り込んでいるリリィと、馬車の横でそれを見上げるミア。
「陛下の件もあるし、本当はもう少しいっしょにいたかったのだけれど……
連絡を受けたウチの馬車がもう来ちゃったのよね」
リリィは馬車の窓から顔を出し、少し名残惜しそうにミアを見た。
「前聖女リリィ様、御退官ーー!!」
その号令と共に、ゆっくりと馬車が動き出す。
ミアは馬車を走って追いかける。
「リリィ様っ! リリィ様ーー!!」
「後は任せたわよ! 頑張ってね、ミアちゃん!」
リリィは最後まで快活に手を振り、馬車は王宮の門を抜け小さくなっていった。
馬車の中には子供の頃の自分の教育係だった執事とリリィの二人きり。
(老けたなぁ……執事 ……15年だもんね……)
揺れる馬車の中で、リリィは一人、背もたれに深く体を預けた。
彼女の脳裏には、これまでの15年間の歩みが走馬灯のように駆け巡っていた。
本当は、冒険者になりたかった……
剣を振るい、魔物を倒し、世界中の秘境を渡り歩く。そんな夢を見ていたお転婆な少女時代。
故郷の名産である「関西だししょうゆ味」のポテトチップスを頬張りながら、領地内の野山を駆け回っていた日々。
しかし、十三歳で女神の力に目覚めてしまった。
呼ばれた王都で待っていたのは、あまりに巨大な先代聖女の背中。
魔力、人徳、政治力……
すべてにおいて完璧だった先代の後を継ぐには、リリィの性格はあまりに幼く、そして力が足りていなかった。
ならばと、ミアと同じように民衆に寄り添える聖女になろうと街に出た。
けれど、自分の幼い容姿と低い魔力は、人々に安心ではなく不安を与えてしまった。
何をしても先代と比較され、空回りし続けた日々。
(あはは…… やっぱり、美人なら上手くいくんじゃん……)
同じ道をとったミアは上手くいっているのだから笑うしかない。
何度も歩いた城下町を馬車が駆け抜けていく……
(きっと、恨まれているんだろうな。何もできなかった、谷間世代の無能聖女だって……)
自嘲気味に目を閉じた、その時だった。
「聖女様ーー!!」
「リリィ様ーーーっ!!」
馬車の窓の外、城下町の住民たちが、馬車を追いかけて走ってくるのが見えた。
「ありがとうございましたーー!!」
「腰痛を治してくれたこと、忘れませんよ!!」
「どうかお元気でーー!!」
一人、また一人と、路地から現れた人々が馬車に向かって感謝の声上げて叫んでいる。
彼らは知っていたのだ。
この頼りない聖女が、自分の限界を承知の上で、もがいてきたこと…
15年間一度も投げ出さずに自分たちのために祈り続けてくれたことを。
「……リリィお嬢様。馬車を止めますか?」
向かいに座る老執事が、静かに問いかける。
リリィは目元を赤くしながらも、強く首を横に振った。
「必要ないわ…… もうこの国の聖女はミアちゃんなんだから」
「さようでございますか」
リリィは窓から身を乗り出すことはせず、ただ心の中で「ありがとう」と呟いた。
馬車は王都の喧騒を離れ、遠い故郷の田舎町へと帰っていくのだった。
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