14 エレナの強化魔法
〇聖女学園・学生寮
ミアは段ボール箱に古びた魔導書や生活用品を詰め込んでいた。
卒業生は近いうちに新入生に部屋を明け渡す必要がある。
九年前、小さな体で大きなカバンを抱えて、この部屋に来た日のことを思い出す。
当時はお屋敷のロビーのように広く豪華に見えたこの部屋も、今のミアには少し手狭で、どこにでもある一般的な広さのワンルーム。
(九年かぁ…… 勇者様一行の壮行会が終わったら、すぐに安い下宿を探さないと。
貯金が底をつく前に、なんとか仕事を見つけなきゃ……)
少しセンチメンタルな気分に浸っていると、開け放していたドアが軽くノックされた。
そこに立っていたのはエレナだった。
エレナもこの寮に住んでいる。彼女は旅に出るのだから、荷物は実家にでも送るのだろうか?
「聞いたわ ……私たちが旅立つ日、あなたが祝福の儀式を受け持ってくれるそうね」
「ええ。なんだか流れでそうなっちゃって……
でも、やるからには全力を尽くさせていただくわ。
エレナちゃんたちの旅が、この世界にとってどれだけ重要な事なのかは、私も理解しているつもりだから」
ミアの曇りのない返答に、エレナは少し驚いた表情を見せた。
「……何があったのかは知らないけれど、今のあなたなら、聖女としてもやっていけそうね……」
「え?」
次の瞬間、エレナは歩み寄り、ミアの体を優しく抱きしめた。
驚くミアの耳元で、エレナが静かに、聞いたこともないほど複雑で美しい詠唱を口にする。
(高位魔法……?それに、この術式は……?)
魔法が発動した瞬間、ミアの全身を白銀の光が包み込んだ。
体が羽のように軽くなり、視界が冴え渡る。体内の魔力回路が拡張され、底知れない力が全身に満ち満ちていく感覚。
「!? これは…… 力が溢れてくる!」
「私から、あなたへの感謝の印よ。……私がここまで来れたのは、あなたがいたからだもの」
「そんな…… それはエレナちゃん自身が努力した結果だよ」
「あなたの魔力を恒常的に1.5倍程度まで底上げするバフ魔法をかけたわ。
効果は半年近く持続するはず。
これで、あなたの魔力の低さは一時的にだけれど解消されたわ。
その半年の間にあなたの聖女としての型を確立できれば、きっとすべてがうまくいくわ」
「は、半年も継続するバフなんて……!そんなの、聞いたこともないわ……!」
「それはそうでしょうね…… だって私のオリジナルの魔法だもの」
既存の魔法体系には存在しない、エレナが自己開発した女神魔法。
それがどれほど破格の贈り物であるかを語ることもなく、そっとミアの体を離した。
「……じゃあ、当日は頼んだわよ」
「……ええ。絶対に、素晴らしい門出にするから」
勇者の旅は危険で過酷だ。魔王復活の影がちらつく今、これが今生の別れになるかもしれない。
お互いにそれがよくわかっていたが、決して口には出さない……
出すと、実際にそうなってしまう気がしたからだ。
エレナは一度も振り返らずに廊下を歩み去る。
ミアはその背中が見えなくなるまで、全身に残る熱い魔力と、
抱きしめたエレナの身体の感触の残り香を感じ続けるのだった……
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
どんなバフだよ!?って思うんですけど、オリジナル魔法らしいから大丈夫ですよね?(;´・ω・)
もし、よろしければ次のお話も、よろしくお願いします。




