120 魔獣の森の隠れ家にて
〇魔獣の森
森の奥、突如として視界が開けた場所。
古びた祭壇。
その中央に鎮座していたのは、禍々しい気配で石のように固まった魔王の姿。
その顔に刻まれているのは、この世の破壊を望むような呪いと、愛した者に背かれた深い絶望。
「こ、これは……?」
ミアは膝の震えを抑えられず、その場に崩れ落ちそうになった。
だが、横にいるガオは屈託のない笑顔で胸を張る。
「魔王様だぞ!表情が格好良いだろ!?」
「ガオちゃん。格好良くはないでしょ……
」
アマネが苦笑しながら、魔王……封印されている父を見つめた。
「お父様は復活間近……
お姉ちゃんはお父様が復活したら、すべてが上手くいくと言っているけれど……
……私はそうは思わないわ」
「そうは思わないというのは、どういう意味ですか?」
問いかけるミアに、アマネは少し悲しげに笑う。
「お父様は、お母様に裏切られたと勘違いしたまま封印されてしまったわ。
もし復活すれば、まずはお母様を殺しに行くでしょう……
でも、お母様はもういない。そうなれば、次に彼が何をするか、わかるでしょ?」
(人間全体への復讐か……あるいはこの世界そのものの破壊)
ミアの背筋がゾッとなる感覚を覚えた。
そして、そんな危険な魔王の調査の旅に出た、かつての友の事を思い出した。
「……勇者パーティは、ここには来なかったのですか?魔王の調査のために」
「もちろん来たわ。
でも、私の幻影術でここへは辿り着けないようにしておいたの。
彼らにはただの『魔獣が多い森』にしか見えなかったはずよ」
アマネは少し遠い目をして続ける。
「パーティの僧侶の女性だけは、ずっと違和感があると言っていたけれど……
最後まで勇者には聞き入れられなかったみたいね
彼女の意見が受け入れられていれば、私の幻影の術も破られていたかもね……」
(エレナちゃん……)
湖畔に佇む小さな小屋へと案内された。
そこが、アマネとガオの隠れ家のようだ。
「ガオはカレン様から、アマネを守るように言われてるんだぞ!
アマネはガオの親友だしな!」
ガオの言葉を聞きながら、ミアは自分の右手の痺れを思い出していた。
五忠臣ゼニアの猛攻でさえミアの防御壁魔法にひびを入れるのは、相当な数の打撃が必要だった。
もちろん、あれからさらに研鑽されている。
それを、ほぼ一撃で粉砕したガオの拳。
このガオの攻撃力が、とてつもないのは間違いない……
なるほど、このガオはカレンが用意した、最強のアマネナイトと言ったところか……
小屋の中で、テーブルにつき、お茶を出される。
出されたお茶は、エルミアが淹れる怪しい薬草茶(?)とは違い、かつて王国で嗜んでいた懐かしくも香り高いものだった。
ミアは、自分が聖女の座を追われ、その後の巡礼の途中でカレンと出会った事。
二人で共闘し、五忠臣ヴィンセントと戦った事。
その後、バルカ帝国で五忠臣ゼニアと戦った事。
「……でも、カレンさんから、この世界に来た本当の理由は聞けなかったんです」
真剣に耳を傾けていたアマネが、何かを決心したように口を開く。
「私の力は……」
その時、アマネの足元の影が、生き物のようにゆらりと蠢いた。
影は瞬く間に立体化し、深いローブを纏った一人の老人が、ミアとアマネの間に割って入るように現れた。
「……ッ!?」
「わが名は、オウル。そこのガオ共々、魔王様の五忠臣が一人」
いきなりの自己紹介に驚くミア
つい、自分も礼儀正しく、挨拶を返してしまう。
「あ、私は王国の聖女、ミア・ルミエールと言います……」
……ガオはとてつもなく強いが、少し純粋すぎるところがある。
そこで、戦闘力だけでなく知力も高そうな、このオウルも護衛に配置しているのだろうか……
カレンが、このアマネを相当に大切にしているのがよくわかる……
思わず名乗ったミアの挨拶を無視し、オウルは厳格な面持ちでアマネに問いかけた。
「アマネ様。このミアと名乗る聖女……信じてもよろしいものでしょうか?」
アマネは一度ミアを見つめ、それから迷いのない声で答えた。
「私は……彼女を信じても良いと思っているの」
ミアは、アマネが信じても良いと言ってくれたことが、
なぜかとても嬉しいことのように感じるのだった……




