118 聖女ごっこと本物の奇跡
〇魔獣の森
魔獣の森にいる、この子は魔族なのだろうか……?
頭の上にネコのような耳と、腰に尻尾が生えている特徴は獣人族のものだが……
どちらにせよ、小細工は逆効果。正直に話したほうが良いだろう
「私の名前はミアと言います。王国で聖女をしています。
今すぐ私が王国に行かなければ、この大地が大変なことになってしまうの……」
ミアは誠実に真っ直ぐに訴えた。
だが、目の前の獣耳の少女は、巨大な爪を構えたままジロリとミアを睨みつける。
「なんでこの森を通るんだ?人間はみんな、南の街道を通るんだぞ!
それに、聖女には護衛の兵隊がたくさんいるはずなんだぞ!!」
予想外に鋭い正論カウンター。
「あ、あの、それは……えっと。私は聖女なんだけど、国外追放されてて……なんというか……」
ミアは思わずしどろもどろになる。その様子を見て、少女の目がジト目に変わった。
「この前、街に行ったときに聞いたぞ。
聖女はイザベラってやつだって、人間たちは言ってたぞ。ミアはイザベラなのか?」
「えーっと……イザベラは本当は聖女ではないの!
私が本物の聖女なんです!だから早く王国に行かなくてはならないの!」
ミアが必死に弁明した、その瞬間。
なぜか少女の警戒がふっと解けた。そして、その瞳は深く重い「憐れみ」へと変わった。
「……わかったわかった。ミアが『聖女様』なんだな」
少女は武器を収め、ポンとミアの肩を叩いた。
「王国側の森の外まで連れて行ってやるから、もうこんなところまで来ちゃだめだぞ。
……『聖女ごっこ』は街の中だけにしとくんだぞ。本物じゃなければ力を持っていないから、
街の外じゃ、本当に悪い奴らにやられてしまうんだぞ」
(聖女ごっこじゃないんですけど!)
反論しようとしたミアだったが、少女の顔があまりにも可哀想な子を見る目をしていたため、言葉を飲み込んだ。
このまま安全に連れて行ってもらえるのなら、それも良いのかもしれない……
ミアは、少女の小さな背中の後をついて森を進む。
「あの……お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ガオの名前か?知らないやつに、そう簡単に教えるわけにはいかないんだぞ!」
ガオと名乗った少女はイシシと牙のような八重歯を見せて笑った。
ミアはきょとんとして首をかしげるしかない。
どうやら悪い子ではなさそうだが、どこか抜けているというか、底抜けに純粋なようだ。
「あの、ガオさん。この森って、王国側に抜けるまでどれくらいの時間が――」
その問いかけが途切れたのは、前方から地響きと共に数多の影が現れたからだった。
「……っ!?」
現れたのは、巨大な牙を持つ魔獣の群れ。
ミアは思わず腰を抜かしそうになったが、すぐに違和感に気づいた。
彼らの毛並みは汚れ、あちこちに痛々しい切り傷や火傷を負っていた。
「なんだ?お前たち、どうしたんだ?」
ガオが駆け寄ると、魔獣たちは喉を鳴らして何かを伝えた。
「何?また森に王国兵がやってきたのか!?仕方がない奴らだな……
今回はこいつらが追い払ったみたいだけど、アイツら、また来るんだぞ……」
「王国兵……?この森に?」
ミアの表情が険しくなる。
彼女は黙って、一番酷い傷を負った魔獣へと歩み寄った。
「おい、ミア!近づくな、危ないんだぞ!」
ガオの制止を聞くより早く、ミアは杖をかざした。
「研鑽」によって無駄をなくした、超スピードの詠唱から繰り出される女神の癒やしの魔法。
柔らかな光の粒子が、魔獣の傷口に吸い込まれていく。
深く裂けていた肉がみるみるうちに塞がり、荒かった呼吸が静まる。
魔獣は驚いたように顔を上げ、ミアの掌にそっと鼻先を寄せた。
「すげえ!!ミア、お前……回復魔法が使えるのか!?」
目を丸くし、弾かれたように顔を輝かせるガオ。
ミアは額の汗を拭い、慈愛に満ちた笑顔を向けた。
「はい!私、聖女ですから!」
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