114 女神への貢物
ミアが遠慮がちに聞いてみる。
「エレン様と魔王は何をしようとしていたのでしょうか?
手記によれば何かの儀式をしている、という事でしたけれども……」
「そこまではワシもわからん……が大方の予想はつく」
「と、言うと?」
アンナも興味があるようで、身を乗り出している。
「エレンは、魔王が豊穣の力の奪取をやめてほしいと、訴えに来ただけだと知っておった。
その上で、愛し合い、二人の子供まで作っておったんじゃから、二人で話すうちに意気投合したのじゃと思われる。
さしずめ、二人で人の姿を捨てて豊穣の力の弁となり、両方の世界に平等に分配できるように、調整する役割でも担おうとしてたんじゃないか?」
窓から、少し遠くを見るエルミア
「……二人とも、優しすぎたんじゃよ」
「な、なるほど……」
恋愛経験に乏しいミアとアンナは、なんとなく納得してしまう。
「その儀式をしている時って、勇者テンジョウたちやリリアナ様たちは、その場にはいなかったの?」
「先ほど、リリアナ様にお会いしたことがあると、おっしゃってましたけど、
凱旋後のリリアナ様ってどうされてたんですか?」
「こらこら、まとめて聞くな!
そのことについては父上の手記の第五巻に詳しく書いてあるのじゃ!」
「でも、あげちゃったのよね?」
そのアンナの一言の後は、みんな黙り込んでしまう……
「あの……イザベラさんのことはご存じでしょうか?」
「……イザベラか……まあ、知ってはおるが……
アヤツもまた、聖女学園を首席で卒業し、聖女候補として王宮に入ったエリートだったんじゃがなぁ……」
「彼女は、王国の聖女をやりたいのでしょうか?」
「ふむぅ……まあ、それもあるにはあるじゃろうが……
ヤツは、両親の影響で、敬虔な女神教の信者として育てられた
それゆえ、15歳で女神魔法の顕現を受けた時は、お祭り騒ぎになっていたらしい……」
「ラッキーじゃない。それは」
「そうとも言えんのじゃ」
エルミアの言葉を、ミアはなんとなく理解できた。
「イザベラの両親は自分たちの祈りが通じたおかげで、娘が女神魔法の顕現を受けたと考えておった。
両親に愛されたいイザベラは、必死に努力したことじゃろう……
しかし、彼女の両親は娘の事を、女神への貢物ぐらいにしか思っとらんかったんじゃないのか?」
貴族のアンナは完全に他人事と言う考え方はできないようだ。
「信じらんない……親なら、娘を優先するもんじゃないの!?」
「まあ、女神魔法に目覚めたせいで、両親からの愛を受けられなかったのなら、
イザベラは、女神教を恨んでおるかもしれんな……」
「……ところで、おぬしら。王国の『聖女学園生徒失踪事件』のことは知っとるか?」
しんみりした空気を切り裂くように、エルミアが問いかける。
「あ!ベアト様も言ってたわ!」
アンナが、さらに身を乗り出す。エルミアの表情は、いつになく真剣だった。
「うむ。王国は今、酷い状況に陥っているようじゃ。
生徒たちが消え、聖女でもないイザベラの祈りでは女神に声も届かん。
大地は枯れ、かなり疲弊してきとる……」
「そんな……」
ミアは胸が締め付けられる思いだった。
自分を追い出した国ではあるが、聖女だった頃は本気で守りたかった王国の人々……
「おぬしが直接助けるにしろ、イザベラに聖女の座を正式に引き継がせるにしろ……
いったん王国に帰った方がええじゃろうな」
「帰った方がって……言ってもさぁ!」
そう言ってアンナが心配そうに、ミアの顔を覗き込む。
「王国内じゃ今頃、ミアは指名手配されてるんじゃないの?
国外追放まで喰らってるんだし、教会の連中に見つかったら、今度こそ何されるか……!」
「それは、そうなんですけれど……」
ミアは、手の中の杖を強く握りしめた。
王都に行けば一瞬で捕まってしまうだろう。
「まあ、行けんわけでもないじゃろうが……」
「え?まじ?」
アンナがおどろき、ミアと二人でエルミアの顔をみる。
「王国の北。魔獣の森を通れば王国兵に見つからず、王国内にはいる事ができよう」
「はぁっ!?ちょっと、ウソでしょ!?
魔獣の森っていったら、凶暴な魔獣がうじゃうじゃいて、あまりの危険さに王国兵ですら近づかない、
あの森を通っていくって事??無理に決まってるわよ!」
呆れたように言うアンナ
「しかし、王国に行くのであれば、それ以外に道はあるまい」
「そうですね……魔獣の森を通って王国に行くことにます!」
おどろいてミアの顔を覗き込むアンナ
「……その手があったか!みたいな顔すんなよ……」
ミアはアンナの顔を見て言った。
「でも、私たちが育った聖女学園のある王国を、見捨てる事なんてできないでしょう?」
アンナは少し考えた後、勢いよく、両手をグーとパーにして、パチンと併せる。
「しゃーない!やったるか!!魔獣の森でも何でも行ってやろうじゃないのよ!!」
ミアとアンナは顔を見合わせて力強くうなずいた。
「エルミア!色々とありがとう。じゃあ私たち行くわ!」
「お主は、なんでため口やねん……」
「エルミア様!マーサ様の思い出話……また、お聞きしに伺ってもよろしいですか?」
「おう!ええぞええぞ。またおいで」
ミアとアンナはエルミアに何度も頭を下げて、小屋を出ていくのだった。
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