113 英雄ジークハルトの娘
〇エルミアの小屋
「マ、マーサ様は……ここに、いらしていたのですか!?」
ドクンドクンと激しく脈打つのがわかる……
ミアは、震える手で握りしめていた杖を、改めてエルミアの前へと差し出した。
「これ! この杖は、マーサ様が私に授けてくださったものなんです!!」
その杖を一目見た瞬間、エルミアの目が皿のように見開かれた。
「あぁっ! どこかで見たと思っとったんじゃ、その杖!
……それは、わしがマーサにやったもんじゃぞ!」
エルミアは一転して、ぷんすかと頬を膨らませて怒り出した。
「なんじゃあやつ! あんなに感謝しておったくせに、勝手に他人にやりおってからに! 恩知らずめ!」
「エルミア様……マーサ様は……亡くなられたのです」
ミアの静かな、しかし重みのある言葉に、エルミアの動きが止まった。
「……最後に、私にこの杖を託してくださったんです。
だから、マーサ様を許してあげてください。……どうか、悪く言わないでください……」
「な……なんじゃと……?……そうか……あのマーサが、死んだ、か……」
信じられないというように、エルミアは力なくその場に座り込んだ。
ミアは、マーサとの出会い、そして彼女から学んだこと、最後に見送った時のことを、一言ずつ噛み締めるように語った。
「そうか……長く魔法を使い続ける技も伝授してやったのに…無茶しおって……
……あやつ、最後までええ奴じゃったんじゃな……」
手元のお茶を飲むエルミア。
「まっず……」
「……いや、お前もまずいんかい……」
アンナのツッコミが入る。
ミアは、そっと杖を差し出す。
「……ですので、この杖はお返しします。元々は、貴女の大切な物だったのですよね?」
しかし、エルミアは静かに首を横に振った。
「いらん。わしがやったマーサが、お主にやったんじゃ。その杖はもう、お主のもんじゃ。
……お主が持っとればええ」
少し湿っぽい空気……
たまらずアンナが声をを上げる。
「しっかし、色々知ってるのねーアンタ」
「ま、年だけは取っているからな……いろいろな情報も入ってくるわい」
「そういうもんなのね……」
「なんか聞いときたい事は無いのか?ワシが知っとる事なら、何でも教えてやるぞ」
するとアンナが興味津々という感じで質問する。
「じゃあ、アナタのお父さんの事教えてよ!
伝説の英雄ジークハルト様なんでしょ?」
「お母さまはエルフの方なんですよね?」
ミアも乗っかってみる。
「まあ、父上も凱旋後は、この街に流れ着いて、聖女エレンにフラれたショックを癒しておったのじゃ……」
「えらく中学生っぽいな……」
アンナがつぶやいた。
「この街の温泉で癒されておった時に、たまたま遊びに来ていたワシの母上にばったり出会ってしまってな……一目惚れじゃと言っておったな……
ワシを見ればわかるじゃろ?ワシの母上はめちゃくちゃ美人だったんじゃよ」
「……なんかムカつくわねぇ」
「巨乳清楚系エルフじゃったしな」
「……なんで、清楚系の子供が、こんな性格になっちゃったのよ?」
アンナのツッコミにかまわずエルミアは続けた。
「ワシが生まれた後の父上は、勇者テンジョウの事をえらく怨んでおったな……
アヤツが、ハニトラ作戦さえ立案しなければ、エレンはいなくなることはなかったとな……」
「でも、エレン様は魔王の心の声が聞けたのですから、
作戦が無くても、いずれは魔王と導き合っていたのでは……?」
「かもしれんけど……父上はそうは思えんかったみたいじゃな」
「……」
ミアもアンナも言葉が出ない
「そういえば、僧侶リリアナとは、ずっと連絡を取り合っていたようじゃったなぁ……
連絡の内容までは知らんけどな……」
「え?……まさか、リリアナ様にもお会いしたことがあるとか!?」
アンナが、驚いて声を上げる。
「一回だけな…… ワシから見れば優しいオバハンという感じじゃったけどなぁ……
『これからの時代は異種族同士の交わりも大切になるから、アナタはそれを先導していきなさい』と言われた時の顔は、今でも覚えとるわ……
……ま、ワシはこうして隠居してしまったわけじゃがな……」
そこまで聞いて、ミアは一口お茶を飲む。
「まっずい!!」
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