11 主席少女と元神童
〇王都・城下町大通り
石畳の道を、ミアは当てもなく歩いていた。
王宮でのリリィとのやり取り以来、彼女の心は終始乱れている。
(やっぱり無理だよ…… 聖女なんて、国を背負うような重責。私には到底無理だ……
ニートになるのは怖いけど、村に帰ろうかな。
第一神界魔法が使えるなら、村の診療所くらいなら雇ってもらえるはずだし……)
現実逃避気味に故郷の風景を思い浮かべていると、背後から鋭く、けれどどこか懐かしい声が響いた。
「……ミア」
振り返ると、そこには旅の僧侶の衣装に身を包んだエレナが立っていた。
その佇まいは聖女学園の制服を着ていた、学生時代よりもいっそう凛々しく輝いて見える。
「あ、エレナちゃん!」
ミアが駆け寄ると、エレナは清々しい表情でかすかに笑ったように見えた。
「結局、あなたには勝てなかったわね…… 私は」
「え?……エレナちゃんは主席で私は89位。口に出して言うのも情けないわね」
そう言って自嘲気味に笑うミア。
「だけど聖女様が選んだのはあなたの方だった…… それが答えなのでしょうね」
「それは…… 聖女様の気まぐれっていうか、なんというか……」
リリィの選定理由や適当さを知るミアが言葉を濁すと、エレナは真っ直ぐにミアの瞳を見つめた。
「……あなたなら構わないわ。
11歳の私に『聖女の心構え』を教えてくれたのはあなただった。
当時の私は、同い年でこれほどまでに完成された精神を持つ子がいるのか、と本気で圧倒されたのよ」
かつて九歳の頃から、義務感ではなく純粋な憧れとして「聖女とはどうあるべきか」を学び、それを新入生のエレナに嬉々として語った日々。
ミアの脳裏にあの頃の幼い二人の姿が、昨日のことのように思い出された。
「……私なんて。今はもう、その頃の面影もないわ」
「……ええ。確かに、今のあなたに聖女は無理かもしれないわね」
「ぐっ!き、厳しい……」
ワザとらしく胸を抑えるミア。
エレナは少しだけ視線を和らげた。
「私は、勇者様のパーティに同行することになったわ」
「えっ!?……流石エレナちゃんだわ!
勇者パーティの僧侶なんて、歴史に名を連ねる偉人ばかりじゃない!」
「かつて、伝説の勇者様が封印した『魔王』が、復活しつつあるという兆候があるの。
その調査のために、最低一年は王都を離れることになるわ。
……次に会う時には、あなたが立派な聖女になれてる事を祈ってるわ」
エレナはそれだけ言い残すと、迷いのない足取りで歩き出した。
(みんな、前に進み始めてるんだなぁ……)
現代の勇者と共に魔王に立ち向かう輝かしい未来。
それに引き換え、自分は引退間際の聖女の愚痴を聞き、ポテチの歴史を語り、城に残るか逃げるかで悩んでいる。
(私は、一体どうしたいんだろう……)
立ち去るエレナの後ろ姿が小さくなるまで、ミアはただただ呆然と見送っていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
エレナは自分に対してとてもストイックなタイプです。
もし、よろしければつぎのおはなしもよろしくお願いします。




