106 温泉宿の街、ジークハルト温泉
〇ジークハルト温泉・街
「着いたー!」
街の入り口の大きなロータリーでアンナが両手を広げて歓喜の声を上げた。
道中は馬車の客の為に、休憩小屋が随所に設置されており、
その小屋にはシャワーや簡易なベッドなども完備されていた。
馬車は使っていないが、ミア達もその施設を利用することは可能で、
今までとは比べ物にならない快適さだった。
巡礼というよりは、ちょっとした女子旅のような足取りの軽さである。
「ではアンナちゃん、まずはこの街の教会に向かいましょう。
女神さまへの無事の報告と、この街のシスターの方にもご挨拶しなければ!」
ミアも上機嫌で、いつものように、襟首を引っ張りクロスを取り出しながら、アンナを誘導しようとするが……
「え?この街、教会なんてないわよ?」
「は?……な、なぜですか?」
アンナの言葉に、ピタリと動きが止まるミア。まるで時が止まったような、完璧なフリーズ。
「なぜって、ここは温泉街じゃない。
みんなリラックスしに来てるんだから、ここにいる間だけは仕事も信仰も立場も全部忘れて、
ゆったりまったりしましょうよって街なのよ。
教会のような、信仰目的の集会所とかの建設自体、禁止されてるって話だし」
「そんな!こ、この規模の街で教会がないなんておかしくないですか!?
じゃあ私たちはどうしたらいいんですか!?祈りは!?奉仕は!?教会がないと困るでしょう!ねぇ!!」
「いやいやいや、怖い怖い!
アタシに言われても知らないわよ!どんだけ教会好きなのよ!!」
鼻息荒く詰め寄るミアを、アンナは引き気味に押し返す。
ようやくふぅふぅと息を整えたミアが、肩を落としながら提案する。
「……じゃあ、早速エルミア様を探しに行きますか?」
「いやいや、ここまで来たんだし、まずは温泉でしょうが!!」
〇温泉宿・受付
「え?たっか!!この街の宿って、こんなにするものなの!?」
宿の帳場で示された宿泊費を見て、アンナが叫んだ。
予想していた金額より、ゼロが一つ多い。
「お客様、当旅館は源泉かけ流しなのは当然として、数多の大浴場に露天風呂、さらには全室にプライベート温泉まで備え付けておりますし。
最高級食材を使用した、究極のバルカ料理フルコースディナー。
明日の朝食の至高のビュッフェまで、すべて含んだ価格となっておりますゆえ……」
品の良い女将がすり寄り、アンナの耳元で妖しく囁いた……
「それに……後ろの見目麗しい方は、彼女様でしょう?
なんともうらやましゅうございます。当旅館は、カップルの皆様方の多数の愛のカタチへのサービスも万全に整えておりますので……うふふふ」
「いやいやいや、いらんいらんっ!!変なサービスしようとすんな!!」
顔を真っ赤にしたアンナが、ミアの手をひったくるように掴んで、旅館を飛び出す。
「アンナさん?さっきの女将さんは何ておっしゃっていたのですか?」
やり取りが聞こえず、キョトンとして首をかしげるミア。
「全くもう!……いいわ、温泉は後回し!さっさとエルミアを探しに行くわよ!」
「ですね!」
(やる気になってくれたんだ!)
と、ミアはキラキラした笑顔でアンナの後に続くのだった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
ミアのセリフの「・・・」を、修正するなどのリニューアル作業が全話完了しました!
少しでも読みやすくなっていればと思います。
もしよろしければ、次のお話もまたよろしくお願いします!




