102 アンナの決意
〇宿場町・教会
その日の夜。
教会の一角にある、こじんまりとした二人部屋。
使い古された木製のベッドが二つ並ぶだけの質素な部屋だが、窓から差し込む月光が、激戦を終えた二人の心を静かに癒していた。
ミアとアンナは、向かい合わせのベッドに腰を下ろして話し始めた。
「ねえ……もう少し、この街に滞在していかない?」
アンナが、シーツの端を指に巻き付けながら切り出した。
「なぜですか?」
アンナの顔を見ていれば、その理由は痛いほど分かる。
しかしミアは、聞き返してみる。
「なぜって……理由はないけどさ……」
「ないなら、先を急ぎましょう!巡礼の旅ですから」
少しだけ、意地悪を言ってみるミア。
「ま、まあ、そうなんだけどさ……!なんていうか……」
言葉を濁すアンナ。その脳裏にあるのは、間違いなくシスター・ベアトリーチェの姿だろう。
かつて王宮で首席を争い、伝説の聖女オルテンシアを支えた「本物」の実力者。
鼻水を垂らして泣いていた自分を優しく抱きとめ、魔族にも恐れず立ち向かえるベアトリーチェの姿は、
アンナにとって、新たな「目指すべき光」になったのだろう。
ミアは、自分が最初に出会った師、マーサ様に抱いたあの時の、熱い気持ちを思い出した。
心から尊敬できる誰かに出会い、その人から学びたいと願う。
自分がかつて抱いた思いを、アンナも今、同じように抱いている。
ミアは、それがなぜかとても嬉しい事のように思えた。
「私は構いませんよ。急ぐ旅でもないでしょうし……」
「……っ!そう!ありがとう!さすがミア、話がわかるじゃない!」
アンナの顔がパッとひまわりのように明るくなった。
翌日から、二人の生活は一変した。
単なる「お手伝い」ではなく、ベアトリーチェの厳しい、けれど慈愛に満ちた指導のもとでシスターとしての修行の日々だった。
アンナは、今までのわがままさが嘘のように、ベアトリーチェの前では背筋を伸ばし、熱心に作業に打ち込んでいる。
ミアは、そんなアンナの姿を横目に見ながら、自分もまた、ベアトリーチェのテキパキとした所作や、民衆への接し方を学んでいくのだった。




