100 聖女オルテンシアとベアトリーチェ
〇宿場町・教会
深夜の激闘が嘘のように、朝の談話室には穏やかな光が差し込んでいた。
しかし、テーブルを挟んで座る三人の間には、王国と聖女の歴史という重い空気が流れている。
「このクロスは昔、私が王宮にいた頃の聖女様から頂いたものなのよ。
王国を出て、こちらに来るときにね……
友情の証と言ってね。ご自身のクロスと私のクロスと交換してくださったのよ。」
ベアトリーチェの柔らかな独白に、アンナが身を乗り出した。
「え!?ベアトリーチェ様って王宮にいたんですか?
……となると、学園の首席ですか?」
「ええ……私のいた学年は、とてもレベルが低い世代だったらしいけれど」
寂しそうに微笑むベアトリーチェに、
「おおおお!!」と声を上げているアンナ。
ミアも驚きを隠せない。
二人で顔を見合わせて驚く。
ただ者ではないと感じてはいたが、まさか聖女学園を首席で卒業し、
王宮で聖女を支えていたエリートだったとは。
「あの……その聖女様というのは、リリィ様というお名前ですか?」
ミアがおそるおそる尋ねると、ベアトリーチェは小さく首を振りました。
「いいえ。でも、リリィ様のこともよく知っているわ。
……私はリリィ様の一つ前、第56代聖女オルテンシア様と、その座を争っていたのよ
とは言っても、私などはあのお方の足元にも及ばなかったけれど……」
ミアは驚いた。
(リリィ様が言っていた……
全てにおいて完璧で、近年最高と言われた第56代聖女オルテンシア様。
ベアトリーチェ様は、そのお方と並び立っていた人なんだわ!)
「完璧な聖女様だったけれど、頑張りすぎてしまうところが危なっかしくてね……
私は他国の聖女への派遣依頼を断って、彼女を支えるために王宮に残ったの。
そして私が王宮を去る日、彼女が『感謝と友情の証』として、
聖女様が魔力を蓄積させたご自身のクロスと、私のものを交換してくださったの」
ミアの脳裏に、別れ際に「魔力1.5倍」のバフをかけてくれたエレナの姿が重なった。
聖女の世界は過酷で、だからこそ生まれる絆がある。
「リリィ様はね、王宮に入った頃は本当にお転婆で、魔力よりも笑顔で人を癒す子だったわ。
あの方の働きを見て、オルテンシア様はすぐに彼女を後継者に決めたのよ」
若かりし頃のリリィの姿を想像して、ミアはなんだか温かい気持ちになるのを感じていた。
しかし、その温もりを振り払うように、ミアは核心に触れる問いを投げかけた。
「ベアトリーチェ様……『イザベラ』という聖女候補生はご存じですか?」
「このバルカを捨てて行った、元・聖女……」
アンナが吐き捨てるように呟きました。
帝国の人間にしてみれば、イザベラは「聖女の使命」よりも「王国の皇太子妃」の座を選んだ、裏切り者の女なのである。
ベアトリーチェの表情から、ふっと慈愛の色が消えた。
数秒の沈黙の後、彼女は口を開いた。
「……もちろん、知っていますよ」
ミアとアンナは、つばを飲み込みベアトリーチェの話を聞くのだった。
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