10 ポテチと勇者
〇王宮・聖女の間
脱力し聖女の間を退出しようとしていたミアが、ふと思い出したように足を止め、リリィに向き直る。
「聖女様。それでは私からも一つ。
勇者様が召喚されるまでポテトチップスが存在しなかったのは、そもそもこの世界に『油を溜める』という考え方がなかったからです。」
「……え?」
何を言ってるんだコイツは?と、言ったような表情のリリィにミアは続ける。
「それまでの食文化は、焼くか煮るかの二択でした。
肉を焼いた時に出る脂を利用することはあっても、植物や動物から油を抽出し、瓶に貯めて保存するという発想自体がなかったのです。
勇者様は、その抽出技術と『揚げ物』という調理体系そのものを広めた方。
剣などの刃物の整備に油を使う知識も、勇者様が伝えたと言われています」
「……っ!」
リリィは目を丸くし、ポテチを口に運ぶ手を止めて固まっている。
九年間、学園で多くの雑学を詰め込んできたミアの解説には説得力がある。
「……ふ、ふ~ん。ま、まあ、そ、それくらいアタシだって知ってたけどね!?」
リリィはあからさまに動揺しながら、なぜか対抗心を燃やして身を乗り出す。
「じゃあ、これは知ってる!?
ポテチって、普段はうすしお味がダントツに美味しいけど、お酒を飲むときは『のり塩』の方がよく合うってこと!これは知らなかったでしょ!?」
「……それは、個人の好みの問題なのでは?」
ミアの正論ストレートに顔を赤くするリリィ
「なっ……!なによアナタ、言い方が大臣みたいね!もういいわ!来週、国民の前で『新聖女』のお披露目をするから!しっかり準備しといて!!」
「……いえ、ですから、私には聖女なんて無理ですから」
「もう決めたことですー!今決めましたー!!もう変更できませんー!残念でしたー!!」
(子供か!!)
心の中でつっこむミアだったが、この人はこうなるともう誰にも止められないタイプであることは明らかだった。
もはやこれまでと諦めて、黙って部屋を後にするミアだった。
ミアが部屋を出て行った直後、リリィは「パンパン!」と激しく手を叩いた。
「あーもう、ムカつく!誰か、ポテチ持ってきて!!」
リリィの声に侍女がすぐに現れる。
「はっ。何味にいたしましょうか?」
「アタシが今食べたい味くらい、わかるでしょ!? 外したらクビにするわよ!」
ウソだとは思うが、この聖女ならやりかねない。あまりに理不尽な八つ当たり。
しかし、長年彼女に仕えてきた侍女は、微塵も動じずに淡々と答えた。
「……ではコンソメパンチ味でよろしいでしょうか?」
「!?……な、なんでそう思ったのよ?」
「リリィ様は、何か『嬉しいこと』があった時だけ、いつもコンソメパンチ味をお召し上がりになられますから」
「……っ!」
リリィは顔を真っ赤にし、バツが悪そうにポリポリと顔を掻いた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
リリィみたいなのでも、意外と理解者が多くいます。
よろしければ、次のお話もよろしくお願いします。




