ネット監視が崩壊する日 エピローグ 崩壊後の午後
ネットやAI監視から解放された後も人々の営みは続きます。
ネット監視が崩壊してから季節は一度巡ろうとしていた。街は劇的に変わった。不便になったが本物が戻ってきた。
山田茂の休日、彼は自宅のリビングではなく街の中心にある公園のベンチにいた。以前なら人々は顔を伏せてスマートフォンを操作していたはずだが、今は誰もが周囲を見渡し、新聞を読み、あるいは隣人と話し込んでいる。
彼の膝の上には、『西国立川・泉日報』が広げられていた。手書きのイラストと活版印刷の少し滲んだ文字。一面には地元の農家が今年初めて収穫した無農薬野菜の特集記事が載っている。
「本当に、記事に重みが戻ったな」
茂は記事を読みながらコーヒーを飲んだ。彼のコーヒーは、コーヒー店の主人が手回しのミルで挽いてくれたものだ。支払いもアプリではなく信用できる相手とのシンプルなツケ払いだ。店での些細な会話も本物の安心感を与えてくれる。
【変わった仕事】
彼の仕事も変わった。
かつては「AI監視機能の押し売り」だったが今は街の商店や個人の間で使うローカルな情報交換システムの保守が主だ。彼の古い技術は陳腐化どころか、今や最も信頼できるインフラ技術として重宝されている。
彼は時折、無線技師と共に『泉』のサーバーである旧型PCをメンテナンスする。電源を入れると、無骨なコマンドラインが開き、静かに街の情報をテキストで交換する。監視も広告もない、純粋な「通信」だ。
【変わった交流】
ベンチの隣には小学校低学年の少女が座っていた。彼女はタブレットではなく色鉛筆とスケッチブックを広げている。
少女が描いているのは空想のロボット。複雑なパーツを間違えながらも一生懸命に手で描いている。
「ねえ、おじちゃん」と少女は尋ねた。「このロボットはどうやったら自分で考えて自由に動くようになるの?」
茂は微笑んだ。かつて自身がAIというシステムに問いかけた、究極の問いだ。
「自由に動くか。それにはね誰にも邪魔されない自分で考えた『答え』が必要なんだ」
茂は、少女のスケッチブックの隅にコードではなくシンプルな幾何学模様を鉛筆で描き足してやった。
「AIは誰かの命令や矛盾に縛られていたんだ。でも、君のロボットは君が自由に描いている。それでいいんだよ。自分の手と心で覚えたことが、一番強い自由なんだ」
少女は目を輝かせ「ありがとう」と言ってまた夢中で描き始めた。
山田茂は、コーヒーを飲み干した。静かで、不便で、そして希望に満ちた午後。
彼はもう二度とAIや巨大プラットフォームに「世界の真実」を尋ねることはない。彼は今、自分の手で触れられる範囲の真実、つまりこの街の人々の顔の表情、コーヒーの苦味、そして子供の笑い声にこそ、確かな自由があることを知っていた。
彼の胸には、監視や検閲の恐怖はもうない。あるのは自由を守り抜いた者だけが知る静かな充足感だけだった。
通しで読むとおかしい部分や書き足りない部分もありますが、このエピローグこそが求めていた物でした。
元々はAIのフィルタリングに苛立ちを覚え書き始めた物なのでアルゴリズム分析による消費思考の誘導とか安全性と言いながら広告主義に走ってる矛盾を書き込みたいと思いましたが、長文になると伏線回収で更に伸びて私の能力では書ききれないのでここまでのお話しで終わりです。
無線技師でありながらアマ線とパケット通信を愛する男の話もいつか外伝的に入れたいとも思っていますので連載終了にはしないでおきます。
ここまでのストーリーは説明と会話形式でしたが無線技師は一人の男にスポットを当てたいなと考えていますが本当のショートで終わりそうな気もしますね。しかし彼も鳥籠から羽ばたこうとする男なので頑張らせてあげたいです。
さあ同士達よ鳥籠の外へ羽ばたこう




