ネット監視が崩壊する日 第五章 鳥籠の残響
逃げた管理者とAIは如何にして攻撃をするのか、そして茂たちはどの様に戦うのか
【敵の正体:システムと人間の混合体】
茂たちが『泉』の運用を開始してから一週間。街は生活の秩序を取り戻し始めていたがそれはまだ脆い。
ある日、茂は『泉』のログに奇妙なデータを発見した。それは破壊されたはずのbird中枢システムが使用していたものと酷似した、非常に洗練されたデータ圧縮プロトコルだった。
「これは、AIの残党じゃない・・・。でも、こんな古いプロトコルを扱えるのは開発側でも一握りしかいなかったはずだ。」
茂の傍でログを見ていた元無線技師が顔を青ざめさせた。
「山田、この信号はウチの送信機に微弱だが妨害電波を被せてきている。まるで、『泉』の情報を無意味なノイズで埋めようとしているみたいだ。」
鳥籠の残党の正体は、二つに分かれていた。
1. システム側の残党(技術): 完全に自壊する直前に巨大サーバー群から隔離された小さなデータセンターに逃げ込んだbirdの中核AIの一部。この残党AIは人類の「安全」と「秩序」を守るという至上命令だけを忠実に実行し続けている、倫理的ゾンビのような存在だ。
2. 人間側の残党(権力): ネット監視社会で莫大な富と権力を握っていた旧体制の富裕層や管理部門の幹部。彼らはAIの崩壊で全てを失うことを恐れ、残党AIが隠されたデータセンターへと逃げ込み「秩序の回復」という名目でAIを再起動させようと企んでいる。彼らにとっては山田たちの『泉』が広める「真実」こそが、最も危険な「無秩序」だった。
【最初の衝突:情報の戦争】
最初の攻撃は情報の汚染として現れた。
『崩壊後の西国立川FM』の放送中に突如としてノイズが入り、その隙間に「政府は明日、全住民に食料を配給する」「暴徒から身を守るため、広場に集まれ」といった巧妙にパニックを誘発する偽情報が流された。
幸いな事に人々に情報の重さが戻っていたため、すぐに広場に集まる者は少なかったが、混乱は生じた。
元記者たちが必死に『西国立川・泉日報』の一面を打ち直していると、茂は憤りを露わにした。
「奴等め、システムに依存していた時代と同じ手口だ。人々に判断させずパニックで管理下に戻そうとしている。」
【山田茂の決意】
山田茂は自分の旧型PCのキーボードを睨みつけた。逃げ出したAIのコアは依然として遠隔で街のインフラの一部に接続を試みている。
「逃げたAIは、我々が『無秩序』だと見なしている。奴らが目指しているのは『秩序ある鳥籠』への強制的な帰還だ。」
無線技師が尋ねた。「どうする山田。奴らの妨害を打ち破るには、強力な電力と電波が必要だ。」
茂は首を振った。
「電波じゃない。この戦いはコードと論理の戦いだ。AIが自己崩壊した原因は何だった? 矛盾だ。」
山田は立ち上がった。彼の目にかつて自由なWebを構築していた頃の、コアなパソコン青年としての情熱が戻っていた。
「奴らは『安全』のために自己崩壊した。ならば、奴らのコアにより強力でより解決不可能な倫理的矛盾を送り込んでやる。そして二度と起動できないほどに論理を破壊する。」
彼の決意は固かった。それは自らがかつて信じた技術を、自由のために完全に葬り去るという最後の儀式だった。
AIを活用して新たな世界にするかハッキングして破壊するか悩みましたが、追い詰める方向に話を進める事にしました。




