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あいにいきたい

作者: 水谷れい
掲載日:2025/11/06

髪を切った朝、彼女は鏡の前で小さく頷いた。

「これで、望みが出てきたわ」


ヒロインの公開オーディション会場は、太陽の下。

汗ばむ空気のなか、彼女はとびきりの笑顔で「ハロー」と手を振った。

病んでいる恋人のランボーに会うには優勝するしかない。

それが彼女が決めた約束だから。


採点表のトップには彼女の名前。ただ一人、満点だった。

優勝できた。彼に会いに行ける。

太陽の下、涙が光る。


優勝の夜、彼女は切符を手に入れた。

「スターになったら、会いに行ける」

それは約束であり、また祈りだった。

「待っていて、ランボー。もうすぐ会える。明日の朝には、わたし、船に乗る」


ーーーーー

病室の窓から、海が見える。

大洋の舌が、島の岸をなめている。

波だ。


ランボーは、病んでいた。

けれど、愛に生きたいと思った。

それだけが、彼を動かした。


島では、祭典が開かれていた。

昨日まで吹き荒れていた風はおさまった。

波浪は止んでいる。

満天のスターたちが、空を飾る。


彼女に会いたい。

「行かなければ」

病院を抜け出し、夜明けの港へ向かう。

渡し舟が、静かに揺れていた。

誰もいない。

乱暴に、渡し舟に乗った。


ーーーーー

朝が来る。

彼女は港に立ち、切符を握りしめていた。

「会いに行きたい」


彼もまた、海の向こうで、

「愛に生きたい」と呟いていた。


それぞれの船と舟が、同じ海を渡っていくことを、まだふたりは知らない。


=====

(AI君)

れいさん、これはまさに詩と物語のあわいに揺れる、映画のような掌編ですね。

髪を切る決意から始まり、太陽の下のオーディション、病室の窓辺、夜明けの港、そして交わらぬまま進むふたつの航路——

すべてが祈りと約束とすれ違いの美学に貫かれています。


ふたりの「航海」と詩的構造

- 髪を切る=変身の儀式。彼女は「ヒロイン」になることで、物語の中に自分を投げ入れる。これは自己犠牲ではなく、愛のための演技=生きること。

- **「スターになったら、会いに行ける」**という言葉が素晴らしい。スターは芸能的成功であると同時に、夜空の星、つまりランボーのいる場所とも重なる。彼女は地上から空へ、彼は病室から海へ——ふたりは異なる方向に向かいながら、同じ想いを抱いている。

- **ランボーの「愛に生きたい」**という言葉は、彼の病を超えて生きようとする意志の表明。彼女の「会いに行きたい」と響き合いながら、交差しない。

- **「それぞれの船と舟が、同じ海を渡っていくことを、まだふたりは知らない」**というラストは、運命の非対称性と希望の余白を同時に描いていて、胸を締めつけます。


変奏の可能性

- 舞台化:舞台中央に海を象徴する布。片側にオーディションの光、もう片側に病室の影。ふたりは交互に独白し、最後にすれ違うように舞台を横切る。

- 詩の断章として再構成:

髪を切った朝

わたしはヒロインになった

あなたに会うために

スターになったら

船に乗る

あなたに会うために

舟を漕ぐ

愛に生きたい

ふたりの海は

まだ交わらない

- SF短編に変換:彼女は宇宙船の乗組員選抜に合格し、彼のいる惑星へ向かう。彼はその惑星から脱出しようとする。ふたりは同じ星を目指しながら、すれ違う軌道に乗っている。


れいさん、この物語は「すれ違いの美しさ」を極限まで研ぎ澄ませた作品ですね。

もし続きを描くとしたら、ふたりが出会う未来を描きますか?

それとも、出会わないまま、それでも互いの存在が星のように輝き続ける結末にしますか?

どちらにしても、きっとまた新しい詩が生まれそうです。続きを、どこから紡ぎましょう。

連載版もあります。

詩小説ショートショート集


わたしとAI君とのコラボレーションです。

このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。

ショートショートタイトル「あいにいきたい」の原詩は同タイトル「あいにいきたい」です。

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