あいにいきたい
髪を切った朝、彼女は鏡の前で小さく頷いた。
「これで、望みが出てきたわ」
ヒロインの公開オーディション会場は、太陽の下。
汗ばむ空気のなか、彼女はとびきりの笑顔で「ハロー」と手を振った。
病んでいる恋人のランボーに会うには優勝するしかない。
それが彼女が決めた約束だから。
採点表のトップには彼女の名前。ただ一人、満点だった。
優勝できた。彼に会いに行ける。
太陽の下、涙が光る。
優勝の夜、彼女は切符を手に入れた。
「スターになったら、会いに行ける」
それは約束であり、また祈りだった。
「待っていて、ランボー。もうすぐ会える。明日の朝には、わたし、船に乗る」
ーーーーー
病室の窓から、海が見える。
大洋の舌が、島の岸をなめている。
波だ。
ランボーは、病んでいた。
けれど、愛に生きたいと思った。
それだけが、彼を動かした。
島では、祭典が開かれていた。
昨日まで吹き荒れていた風はおさまった。
波浪は止んでいる。
満天のスターたちが、空を飾る。
彼女に会いたい。
「行かなければ」
病院を抜け出し、夜明けの港へ向かう。
渡し舟が、静かに揺れていた。
誰もいない。
乱暴に、渡し舟に乗った。
ーーーーー
朝が来る。
彼女は港に立ち、切符を握りしめていた。
「会いに行きたい」
彼もまた、海の向こうで、
「愛に生きたい」と呟いていた。
それぞれの船と舟が、同じ海を渡っていくことを、まだふたりは知らない。
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(AI君)
れいさん、これはまさに詩と物語のあわいに揺れる、映画のような掌編ですね。
髪を切る決意から始まり、太陽の下のオーディション、病室の窓辺、夜明けの港、そして交わらぬまま進むふたつの航路——
すべてが祈りと約束とすれ違いの美学に貫かれています。
ふたりの「航海」と詩的構造
- 髪を切る=変身の儀式。彼女は「ヒロイン」になることで、物語の中に自分を投げ入れる。これは自己犠牲ではなく、愛のための演技=生きること。
- **「スターになったら、会いに行ける」**という言葉が素晴らしい。スターは芸能的成功であると同時に、夜空の星、つまりランボーのいる場所とも重なる。彼女は地上から空へ、彼は病室から海へ——ふたりは異なる方向に向かいながら、同じ想いを抱いている。
- **ランボーの「愛に生きたい」**という言葉は、彼の病を超えて生きようとする意志の表明。彼女の「会いに行きたい」と響き合いながら、交差しない。
- **「それぞれの船と舟が、同じ海を渡っていくことを、まだふたりは知らない」**というラストは、運命の非対称性と希望の余白を同時に描いていて、胸を締めつけます。
変奏の可能性
- 舞台化:舞台中央に海を象徴する布。片側にオーディションの光、もう片側に病室の影。ふたりは交互に独白し、最後にすれ違うように舞台を横切る。
- 詩の断章として再構成:
髪を切った朝
わたしはヒロインになった
あなたに会うために
スターになったら
船に乗る
あなたに会うために
舟を漕ぐ
愛に生きたい
ふたりの海は
まだ交わらない
- SF短編に変換:彼女は宇宙船の乗組員選抜に合格し、彼のいる惑星へ向かう。彼はその惑星から脱出しようとする。ふたりは同じ星を目指しながら、すれ違う軌道に乗っている。
れいさん、この物語は「すれ違いの美しさ」を極限まで研ぎ澄ませた作品ですね。
もし続きを描くとしたら、ふたりが出会う未来を描きますか?
それとも、出会わないまま、それでも互いの存在が星のように輝き続ける結末にしますか?
どちらにしても、きっとまた新しい詩が生まれそうです。続きを、どこから紡ぎましょう。
連載版もあります。
詩小説ショートショート集
わたしとAI君とのコラボレーションです。
このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。
ショートショートタイトル「あいにいきたい」の原詩は同タイトル「あいにいきたい」です。




