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商人の娘 ラウレッタ 学園で商売を始めました

作者: 生けもの

「契約書のここに書いてあります!」


 学園の面会室に少女の声が響いた。



 幼い頃から商人の娘として、商売のイロハを教えられた。

 商人なら口約束を信じるな。 契約書を交わして、初めて約束できるのだ。と


 

 私は学園に入る時に父親と契約書を交わした。それは…


 学園を卒業するまでに貴族と婚姻を約束する事。

 もし出来なければ、父親の命令した相手に嫁ぐ事、たとえそれがどんな()()()だとしても。


 父親は自分の商会を大きくすることにしか興味がない。実の娘もそのための道具としてしか見ていない。


 流石は生粋の商売人、娘との約束ですら『契約書』を交わした。

 娘が婚姻から投げない様にと、『在学中は父親の指示に従うこと』と明記されている。


 指示というのがいかにも商人らしい。



 商人はお金が全て、しかしそれを逆手に取り、契約書の最後の条文に"父親からの解放"に繋がる一文を追加させてやった。


『なお、学園在籍中に100,000,000コル(1億コル)を売り上げたら、上記の内容を無かったものとする』



 途方もない内容に思えるが、私はすでに目標達成への足がかりを見つけていた。


 学園の寮で同室のメリアースさん。彼女のお父様が(メリアースさんは何故か師匠と呼んでいますが)実は凄腕の魔術具職人なのです。


 以前メリアースさんのお父様が作ったと言っていた魔術具を見た瞬間、その魔術具には革命をもたらす可能性を私は感じました。



 ー≪心理の泉学園 談話室≫ー


「ねえ、メリアースさん、()()の販売許可をお父様に取っていただけますか」

 私はメリアースさんとの出会いの時に見た"チョットガン"を指差して販売許可のお願いをしてみた。


「やだ」

「そんなぁ~」


  なんて事でしょう、私の希望が一瞬で砕け散りました。


 しかし商人は()()()()()()、簡単には引き下がりません。OKを頂くまでアタックあるのみです。


 私の熱意が通じたのかメリアースさんが()()、別の魔術具で許可を取ってくれました。


「ん-とこれは起きない相手の顔に熱くした風を当てて無理やり"目を覚まさせる”奴で、これは込めた魔力の属性によって”色んな色で”落書き”をするヤツで…」


「ほぉ――、ちょっと見せて下さい。へぇ――なるほどぉ」


 メリアースさんから渡された魔術具を受け取って眺めてみたり、動かしたり、舐めたりしてみました。


 メリアースさんが"目を覚まさせる”魔術具と言っていたものを、髪を乾かす道具として学園で何人かに試してもらった。予想通り、女子学生の間であっという間に広がった。


 敢えて平民の女子学生だけに試してもらったのが功を奏したようで、貴族のご令嬢はプライドの高さだけお金にも糸目は付けないようで、予約だけでもかなりの数に上った。



 ー≪心理の泉学園 学生寮≫ー


 学園での商売がうまく行き、何もかも順調に進んでいると思ってると部屋のドアをノックする音がした。

「ラウレッタさん、お父様のグスタフさんが面会に来ています」



 嫌な予感は当たるもので、面会希望は父親だった。


「学園で噂になっている『髪乾燥魔術具』だが、アレの販売権利を渡しなさい」

 何処からか噂を聞いたのだろう、父の関心は”売れそうな”魔術具だけだった。私の学園生活のことなど何一つ聞いてこない。


 結局、『髪乾燥魔術具』の販売権利は父親に取り上げられてしまった。

 悔しいが、父親の方が一枚上手だったのだ。


 失敗から学ぶ。父親を商売敵として、次の商品は徹底的に情報の秘匿性を高めた。

 噂はなるべく学園の外に漏れないように気を配った。



 ー≪心理の泉学園 学生寮≫ー


 もう一つはメリアースさん曰く、落書き用のペンのような物だという。


「これは込めた魔力の属性によって”色んな色で”落書き”をするヤツで…」

「これはどんなものにも描けるんですか?」

「描ける、こうやってこんなところにも…できた!」


 メリアースさんが私の顔に髭を描いた。


「もう、ひどいです!」

「こうすればすぐ消えるから、安心」


 そう言ってメリアースさんが私の顔をそっと指でなぞると、描いた髭がきれいに消えた。


「うそっ、まったく跡がない。でもこれだと頑張って描いてもだれか他の人に消されちゃいますね」

「師匠を侮っちゃダメ、師匠は掃除も洗濯もごはんもダメダメだけど、魔術具だけはえらい! このペンに魔力を入れた人以外だとこの師匠が作ったケシケシボールでしか消えない」


 なるほど、色んな物に色んな色で描ける。使う本人なら消すのも簡単。万一のための対策もバッチリ。

「ちょっとごめんなさいね」

 そう言ってメリアースさんの唇に薄いピンクを塗り、頬に紅色をまぶした。


 メリアースさんの顔を見ていたら、同性なのになぜだか胸が高鳴ってきます。不整脈でしょうか。


「これいいですね!これで行きましょう!!」

「わっ! なにこれ。変な顔ー」

 

 メリアースが自分の顔をみて、ゲラゲラ笑っていた。


 ー≪心理の泉学園 Aクラス≫ー


 今日はこのAクラスに来ていた。理由はとある人の協力を仰ぐためだ。

 学園でなければ、話しかけるのも憚られる相手、ノエリア侯爵令嬢。本来なら、こういった人にはあまりお近づきになりたくないけど、父親への牽制にどうしても必要なのだ。


「はっはじめました、じゃないはじめましてノエリア侯爵令嬢、私はホルム商会の商店主の娘、ラウレッタと申します」


 ちょっと噛んだと思うけど、まずまずの挨拶が出来たのではと思っていた。がノエリア様は冷ややかな目で私を見つめていた。


「ごきげんよう。ラウレッタさん、だったかしら。それで私になにかご用でしょか」


 私は、『髪乾燥魔術具』の時の事を話し、今学園に広めようとしている『落書きペン改めリップペン』について話した。


 しかしノエリア様の反応は冷ややかだった。


「なぜ私が貴女に協力しなければいけないのでしょう。貴女が考えているほど侯爵家令嬢の肩書は軽くはないのですよ」

「もっもちろん、売り上げの5%をお納めする事でどうでしょうか」

「………」

「でっでは、10%、10%をお納めします。ですからどうかお力添えを」


 しかし、ノエリアはため息をついて、ラウレッタの間違いを指摘した。


「はぁ、侯爵家も安く見られたものですわね。お金ではないのですよ」

「では、何を…」

「私が欲しいもので、貴女しか手に入らないもの、それは…」

「それは…」


「メリアースちゃんの人には言えない ヒ・ミ・ツ ですわ」

 ノエリア侯爵令嬢が恍惚の表情で、そうの賜った。


 そういえば、風の噂で聞いたことがある。ある侯爵家令嬢がメリアースさんを”ちゃん”で呼んで大層愛でていると。そーか、この(ひと)か。と妙に納得した。


 しかし逆に恐ろしくもなった。というのもノエリア様はお金を提示した時にいくら位かを聞いていないのだ。

 私が侮られているのか、それともメリアースさんの秘密とやらがとんでもない内容なのか…

 侯爵家が欲しがるメリアースさんの秘密っていったい。


 ともあれ、一時的にせよ侯爵の後ろ盾を得た。これで父もおいそれと手を出してこれなくなったので本格的に『リップペン』を売り出していこうと思う。


 まずは、機能を抑えた試作品を平民の女子生徒数人に配る。抑えた機能は主に色。巷で人気の色や赤のグラデーションの色数を抑えた。

「この色かわいいけどもう少し薄いのはないかしら」

「ピンク系がちょっときついわ、これと赤との中間がいいのに」


 こちらの予想した通りの反応にラウレッタがしめしめとほくそ笑んだ。

 平民でも買えるお手頃価格の物、発色が2倍細かい高級品、そして貴族用にはオーダーメイドで好きな発色が出る『リップペン』を用意した。


 さらにオプションで魔術具の先に刷毛を付けるとチークを塗る事も出来る。


 『リップペン』は順調に売れた。平民でも使っているとなると、貴族のご令嬢たちが買わないはずはなく、より高価なものを欲しがる。

 ただこちらはすぐには用意せず、時間がかかると言って購入までの時間を延ばす。するとすぐにでも手に入れたい令嬢がお金を上乗せしてくるのだ。


 だが、平民なら1~2本、貴族令嬢でも10本くらい揃えると売り上げが鈍った。

「もう少しで1億に届くのに」


「ちょっといいかな、『リップペン』を10本、ウチの家紋入りのを欲しいんだが」


 学園で女の子に声をかけまくっている事で有名な貴族令息がラウレッタに声をかけてきた。

「はい?私は平民ですよ、だれかと間違えていませんか?」


 自分がナンパされたと勘違いしてそんな返しをしてしまった。


「いや、そうじゃない。女の子の間で『リップペン』が流行っているからボクから贈り物としてほしいんだ」


 これだ!と思ってさっそく仕掛けてみた。

『学園を卒業する女生徒に自分の家紋を入れたリップペンを贈ろう』と謳ったキャンペーンをやった。

 

 これが大当たりした、記念に贈るものだから安物は買わない、殿方の面子もある。オーダーメイドなので高くても納得する。


 結果、ラウレッタは1億コルを大幅に超える売り上げを達成した。




「ラウレッタさんに面会です」


 やはりというか、私が1億コルという大金を売り上げた事は父の耳に入ったようだった。

 しかし売り上げる前なら妨害に来るだろうけど、売り上げた後に来るなんて。なにかあったのだろうか。


 私は、平静を装いつつ父と面会した。


「お久しぶりです、お父様。私、約束通り1億コルの売り上げを果たしました。これで在学中も卒業後も自分の結婚相手は自分で決めさせていただきます」


 ラウレッタの強い言葉に、グスタフが苦虫を噛み潰したような顔をした。


「まぁいい、それよりちょっとトラブルがあってな、すぐに金が必要なのだ。お前の1億コルをすぐによこせ」


 もはや隠す気も無いのか言葉を取り繕う事もせず、ストレートに言ってきた。


「お父様、契約書にはどこにもそんな事は書いてありませんわ」

「何を馬鹿な事を、ほれここにしっかりと書いてあるわ『100,000,000(億)コルを売り上げたら』とな」

「ええ、ですから売り上げたお金をどうするかはどこにも書いてありませんわ」




 これで卒業後の商会の立ち上げ資金は出来ました、でもせっかくですからこの学園でもう一儲けさせていただきますか。


 学園内を晴々とした気分で歩いていると、メリアースさんが見えました。

 何やら紙になにかを書いているようです。


「こんにちわ、何をやっているんですか?」

「ん、師匠から”書いても消える”ペンと”あとから出てくる”ペンをもらったから遊んでた。


 メリアースさんの言葉に興味が出たので私もそのペンを試させていただきました。


「え?え?書いた文字がだんだん消えてしまった?こっちは書いた時は見えないのに、後から文字が出てきた?」


 メリアースさんの話ではこれもお父様の魔術具だと言います。文字が消える時間や現れる時間も調整できると言います。

 なんてことでしょう!もっと早くこのペンの事を知っていれば、契約書にあんなことやこんなことを書けたのに…


「ラウレッタ、ズルはダメ」

「…そうですね、商いは誠実さが売りですからね」



 ――おわり――

お読みいただきありがとうございました。

商人の娘『ラウレッタ』のスピンオフです。

本編を読むとさらに面白く読めますので是非そちらもお願いします。

設定や関係性など気になる点がありましたらご指摘お願いします。


また評価などリアクションがありましたら励みになりますのでお願いします。


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