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第92話 この時の為に、何度もフィールドを見ていました。

 銀髪の悪魔がデスキャッスル、いや禍々しいオーラを放つオーロラウェディングキャッスル会場を()め付けていた。


 これは大いなる賭けである。

 そして、過去の自分の意志である『この世界を壊したい』とゲームキャラ・レイモンドの意志を両立させる道でもある。


 この世界には大いなる違和感が存在する。

 勿論、ゲーム世界だから違和感なんてそこら中にある。

 もしも女神メビウスというのがいて、本当に世界を作ったのだとしたら、賞賛に値する。

 ただ、あそこはどうしようもなかった。

 もしくは、そうせざるを得なかったのか。


「いいか。城落としは俺一人でやる。俺以外、誰もついてくるなよ。」

「もうー、ご主人、ウチくらい連れて行ってもいいじゃないですか。」

「いやいや、俺っちも連れて行ってくださいよ。俺が生き残るって方に10万G賭けちゃったんすから。これでほんとに借金がチャラになるんすよ。どっちに転んでも地獄! これぞ、人生じゃないっすか?」


 頼れる相棒である二人。

 けれど、流石にそれは出来ない。


「イーリ、お前…。どんだけ自分の強運を信じてんだよ。ってか、なんで借金してんだよ‼そんな暇なかったろ‼…で、ラビも今回ばかりはダメなんだ。条件が極めて限定的すぎる。中途半端な力で中に入れば、まず死ぬ。そしたら俺の作戦の意味が無くなってしまう。俺だけ中に入れない可能性もあるし」


 ネームドは殺さない。

 例え、自分が名付けた魔物であっても、だ。

 ただ、ノーネームの命は気にしない。

 流石にこれは我が儘と言える。


「真の支配者デズモア・ルキフェことアズモデが不在中に城を落とせば、俺が世界を一時的にでも掌握できる。だから、二人とも準備までで良い。これは俺と過去の俺たち、そして全てのゲーマーと女神メビウス、そして鈴木Pの信頼関係でしか成立し得ない攻略法だ。鈴木Pとは会ったことないけどな。ま、イーリの博打が霞んで見えるほどの大博打なんだ」


 不安や焦り、それから緊張がごちゃ混ぜになっている。

 それなのに、レイはどこか楽しそうだった。

 ギャンブルで負けが混んでいるイーリの顔でも、凶悪なモンスターと対峙している勇者の顔でもない。

 ラビはこんな顔をしている主人(レイ)を見たことがない。


 今も誰かのNTR風景が頭に送り込まれているだろうに、軽やかにして爽やか、そして強かな立ち振舞い。


「ウチたちな出来ることは…」

「ま、そうだな。待っててくれたらいい」


 ネームドは待つことしか出来ない。

 それに彼が何をしようとしているかも分からない。

 だが、彼は鷹揚に手を広げて、自信たっぷりにこう言った。


「名付けて‼結婚式場破壊作戦・ぼっちの方が世の中には多いんダークネスだ‼」

「ぼっち……なんですって?ご主人!」

「聞き返すな!こっちが恥ずかしい‼」


 やはり、全く意味は分からなかったが。


 少女には魔王の座を奪わんとする彼の気持ちが、壮大すぎて理解できないのだ。

 彼の顔を頼もしいと思って良いのか、危ういと思うべきのか、それとももっと別の感情で見てあげるべきなのか分からない。

 そんな彼の口角がゆっくりと上がる。


「ラビ、イーリ。そういえばお前達にも出来ることがある。ここから指揮を取ってもらおうか」

「ええ?ウチ、ただのサキュバスバニーですよ?」

「お、俺っちもイエローコウモリんっす。指揮できる立場じゃあ……」

「なーに言ってんだ。今やただの勇者待ち状態の腑抜けになった魔王軍だぞ。その八割以上を手中に収めたんだ。鬼の居ぬ間にではあるがな。だが事実は事実だ。ほとんどの役を食った俺の直属の部下であるお前達は立派な中ボスなんだよ」


 悪魔は犬歯を鮮やかに光らせた。

 彼は脇腹をどうこうしなくても、犬歯をぎらつかせられるらしい。

 というより、野心に燃えた時にこそ、あの犬歯は鮮やかな青に光り輝くのだろう。


 そして。


 銀髪の悪魔は右腕を掲げ、それをデスキャッスルへと向ける。


「MKB全軍!特にゾンビ犬部隊、エンペラースラドン部隊、チューリッヒネズミ王国部隊、ヘラクカブトインセクトキング部隊、傾注せよ!我が名はレイ、いやラスト・オブ・レイである。知っている通り、勇者共は光の女神のオーブを二つ、既に手にしている。それにも関わらず魔王軍は一切の行動を取っていない。これは一体どういうことだ? それに……、皆の者、一度は考えたことはないか?どうして我らは勇者に殺される為に生まれるのかと。どうして経験値を食われるために存在するのかと。どうして世界の片隅で蠢かねばならないのかと。…我がここに断言しよう、そんな必要はどこにもない‼無作為に命を差し出す今のやり方は、愚行でしかないと!そして敢えて言おう!今の魔王軍はゴミクズだと‼」


 デスキャッスル前の魔物たちがざわつく。

 とは言え、その通り。現在、アズモデから何も指令が下りていない。


「いや、失礼した。ここにいるお前達は別だったな。聞け、勇敢な戦士たちよ!!だから我はここにいる。だから我は立ち上がる。しかし誤解はしないで欲しい。これは決して謀反ではない。何故なら元来魔王とは一番強い者が名乗る資格があるからだ。そして今から行われるのは神聖な戦いである‼魔王軍にとっての聖戦である!!そして創造神『鈴木P』に捧ぐ戦いである‼これ、即ち!!女神メビウスに叩きつけるゲーム愛の挑戦状である‼」


 大人になった白兎は、今も変わらず紫のマントをはためかせる悪魔の声を、一言も聞き漏らさないように、耳をぴーんと立てて聞いている。

 けれど、彼の言葉は理解できても、内容は一部理解できなかった。

 でも、彼女はちゃんと気付けた。

 彼が笑っている理由だけは伝わってくる。

 聞いている魔族にも、それはちゃんと伝わっているに違いない。


 彼は誰よりも魔王に相応しい。


 ——だってレイは、この世界(ゲーム)を世界の誰よりも愛しているのだ。


「さて、食いしん坊のお前達に朗報だ!この戦いを鼓舞するため、戦場の歌姫様がお越しくださっている。皆、今度はステージを注目せよ。彼女達は今日、MKBシスターズを結成した。そして最初のデビューソングをこの戦いの戦闘歌、ウォークライとする。配布した資料の3Pを確認するように!5秒で歌詞を覚えろ‼……では、聞いてください。MKBシスターズで、『ドラステはCS専用!』」


 謀反指揮官ラスト・オブ・レイがそう言った瞬間、闇魔法により空が暗転した。

 そして光魔法で、ステージの一箇所に光が差した。

 照らされたのは、艶やかな衣装に身を包んだマロン、カロン、ボロンの姿である。



「おお、歌姫様だ…」


 会場の食いしん坊共が魅入る中

 戦場の歌姫たちは拡張音源も無しに生声で歌い始めた。

 その旋律は美しく、その声だけで彼女達の艶やかな容姿が想起できるものであった。


『我らは~この世界に~生まれた~奇跡の種。そして~銀髪の彼は~、恋の負け犬さ~♪ 彼は~ヒロインを選ぶ資格もないし~、そんなムービーは~、一枚も作られない~♪ (ここからセリフ)でも俺は諦めない。この世界の為と思えば、勇者の好感度が上がったって気にしない。いや、本当はすごく気にしているけれど、俺、もう何千回もやったってことだよね⁉ そうだよね⁉ 俺、全然記憶に残ってないけど、やれたってことだよね? え、でも残ってる?残ってない?残ってる?残ってない?記憶に残ってないなら、ヤッテナイってこと⁉(セリフ終了)そう言った彼は~、嫉妬の心を~野心に変え~立ち上がる~♪ (ここからラップ)そう、我らは今こそ攻城戦だ!狙うは憎きあの式場だ!誰かが見えない壁があると言う!だけど言えない訳がワールドYOU‼グラボで勝負の認識変えろ!俺らは丈夫だこの野郎!ドラステはCS(家庭用ゲーム機)専用だろう!女神がそれを知らぬなら教えてやろうぜ!『描画バグ』SAY‼(ラップ部分終了)そして~上り詰めて~、不可侵領域の彼方まで~♪ その先にこそ~、語らう未来が待っている♪ これが~~、鈴木Pへ捧ぐゲーム賛歌~~~♪』


 白兎、いやラビは唖然としていた。

 歌姫様に何歌わせてんだよ!とツッコミたかった。

 ただ何故か知らないけれど、モンスターたちは号泣していた。

 そしてツッコミたくて仕方ないのに、ラビも涙が溢れていた。

 隣ではイーリが泣きすぎてコウモリんの形に戻っていた。


「皆のモノ‼今こそ行くぞ‼溜めに溜め込んだ出現する筈だったモンスターをここにポップさせろ。お前たちの力で、世界の表示限界を超えろ‼」


 もしもこの世界がゲームの世界なら、あっという間にバグが成立するだろう。

 このゲーム機は家庭用ゲーム機だ。

 ならば、表示できるグラフィックには限界がある。

 この世界が本当に普通の異世界ならば、この作戦は何の意味も持たないだろう。

 実際に人間は生きているし、魔物も自分の考えで動いている。

 だからこそ、新生MKB部隊が出来上がった。


 だからこれは、大博打?


 いやいや、そんなことはない。

 ずっと考えていたことではないか。

 常に見てきたことではないか。


「スタトは何故、全焼した?ネクタ前の森は何故戻った?ミッドバレイ村は何をどうしたって、燃えてたんだろう?んで、どうしてエルザは傷つけられた?」


 つまり、レイには確信があった。

 この世界は異世界で間違いない。

 ただ、明らかに生物と地形とでは違いがある。

 意図してか、意図せずか、フィールドにはゲームの名残りがいくつも残っている。


「俺がデバッグしてやんよ。ぴょんぴょんしてやんよ‼」


 見えない壁ごときで、ゲーマー魂は壊れない。

 無意味な空間への突撃は当たり前、壁だと分かってる部分への突撃も当たり前。

 そこって見えない壁でいけないけども!という場所さえ、後ろ飛びしたり、斜め飛びしたり、どうにかこうにか隙間を縫って到達してしまうのは、ゲーマーあるあるだ。


 この世界はあまりにも精巧に作られている。

 だが『見えない壁』というゲーム上の設定がある限り、レイに超えられない壁はない。


「轟けおおねずみ‼唸れスラドンモンスター‼そして、点滅しろ‼内側を見せろ‼デスキャッスル‼」


 この世界に発生する筈のモンスターの、実に9割をデスキャッスル周辺に集結した。

 残る1割はカモフラージュのためにその辺りを徘徊させている。


「本来ならばランダムエンカウント、つまりモンスターは見えない世界だった筈だ。元々女神がそう作ったのか、それとも過去の俺がそうするように言ったのか。どっちでもいい。苦しいだろう、吐き出したいだろう? さぁ、どうする?フレームレートを下げてくれても文句言わない主義だぞ?解像度がSDに変更されても、致し方ないと思う人種だぞ?さぁ、カクつけ‼さぁ、点滅しろ‼」

「あ、その前にラビが失神しました。」

「やむを得ないだろう。集合体恐怖症というやつだ。イーリ、安全な場所に匿ってやれ。」

「はい。でも集合体恐怖症って言っても……アブブブブブブ」


 隣でラビを介抱する筈だったイーリも、即効で泡を吹いて倒れる状態。

 そのイーリとラビを仕方なく目覚めさせようとした時、レイの視界の中に黒い何かが横切った。


「アブブ…、虻ってこと?」


 目の前のほとんどが虫系のモンスターで埋め尽くされていた。

 さすがインセクトキング・ヘラクカブト。

 MKBシスターズのサイン色紙だけで、ここまで奮発してくれた。

 因みにゾンビ犬の成功褒賞は『ドッグラン』という、この世界にはない異世界の何かをプレゼントだ。

 その言葉だけでダックスプードラゴン(犬)は尻尾を振って喜びを表現していた。

 ただ、実のところはサイン色紙一枚で達成可能だったらしい。


「って、違うじゃん! 巨大昆虫型モンスター『大昔ゴキブリ』だよ‼ウサギとこうもりって、食べるんじゃなかったっけ⁉」


 コウモリが虫を食べることは有名だ。

 だからコウモリを食べてはいけなかったり、病原体を運んできたりする。

 それに野うさぎなら、なんでも食べてそうだ。

 海外ドキュメントでも『貴重なタンパク源』とか言って食べているではないか。


「違いますよ‼ウチはもう人型です‼この姿でゴキブリ食べてたらおかしいでしょ‼ それに小さい頃だってなるべく避けて食べてましたし……。時々混じってることもありましたけど……。プチっていう食感とジャリッていう食感が苦手で…」

「俺っちは違いの分かるコウモリんでしたからねぇ。食ったことねぇっすよ。あぁ、弱肉強食の森の頂点だった頃が、懐かしいっす」


 このGトークの中で、ソレは起きた。


「お前の仲間、モンスターに食われてるからね? ツッコミにくいボケしないでくれないかなぁ。あれは申し訳なかったけれども……、え⁉消えた!今、一匹のゴキブリが消えた。」


 世界の破壊者レイの目が大きく開く。

 もちろん、目の前の光景は気持ちが悪い。

 だが、そんなことよりも…、前に進むべき。


 この作戦は、壁ぬけバグが成功して終わりではない。

 ここからがラスト・オブ・レイ、一人だけの城攻めの始まりである。


「お前達、ここは任せた。俺が消えても驚くなよ。んで、それを確認したら全員撤収の号令を掛けてくれ…」

「ご主人‼」

「旦那ぁ‼」


 部下二人の声に背中で応えて、デバッガーは大昔ゴキブリの群れに突撃した。

 そして、見えない壁の隙間を目指す。

 ただのゴキブリではない。

 80cmを超えるサイズのゴキブリだ。


 ならば大柄とはいえ、レイも飛び込める。


「メビウスよぉ。やっぱ分かってんじゃあねぇか。カクツキも壁ぬけも表示バグも、ゲームの醍醐味の一つなんだよなぁ‼」


 そして、レイの体はデスキャッスルに吸い込まれた。

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