第91話 勇者とヒロインたちが絡み合う中、銀髪悪魔は魔王城
アルフレドは女神像に触れた。
「関係のないイベントが続けざまに。だが、これでアイツを殺せる…」
重要なポイントには、必ずこの像がある。
もしかしたら二度と行かないかもしれない場所でも、念のために触っておけと誰かが言った。
「連携が出来るようになってきた。これが勇者の力…なんだ」
日が落ちてしまったので、光の魔法と車のフロントライトで辺りを照らしている。
その光が、湖の中央にある奇妙な紋様を照らす。
その紋様が湖面で反射したのか、崖の一部がキラキラと輝いていた。
「なんだ?」
ぽっかりと口を開けた崖の一部、そこには奇妙な石造りの扉があった。
「ここが最初に回るべきオーブの祠か。」
「神聖白夜。これでダンジョンの内部全体が明るくなった筈です…けど。なんでしょう、これ…」
ソフィアは祠を見つけた瞬間に神聖魔法の上位光源魔法を唱えた。
そして修道院の知識が豊富な彼女は、そこで奇妙なものを見つけたらしい。
「メビウスの刻印。それに…、古代文字で宝玉…と」
「ちょっと見て。何かを引き摺ったような…。もしかして、凶悪なモンスターが偶然ここに来ていた旅人を⁉」
すると、エミリは軽い身のこなしで祠の入り口まで跳躍した。
そして、恐ろしいことを口にした。
その言葉に反応して、全員が祠の入り口に集合する。
「何これ、獣の足跡もあるけど…、とにかく急ぎましょう。誰かさんが時間を無駄にしたせいで、大変なことになったのかもしれないわね。」
フィーネが悪態をついて、祠の中に入っていった。
これはフィーネの好感度が比較的高い時に起きる現象だが、アルフレドには知る由もない。
「分かっている。とにかく急ごう。どっちにしても今の俺たちの敵じゃない。」
「俺たち?俺だけで十分と言った筈だ。」
「うわー、この男ども、調子に乗ってるわよ、エミリ。」
「そんなこと言わない、マリア。アタシ達も急ぐわよ。」
勇者が引き起こした意味不明な好感度イベントのせいで、気は抜けていた。
ただ、彼ら彼女らの心に余裕があるのは確かだった。
「エミリ、先に行って。ここってねずみが出るんでしょ」
「これだからお嬢様はぁ。お姫様だって頑張ってるでしょ」
「私は…、慣れです。秘密の塔ではしょっちゅうでしたから」
この奥には齧歯類系のモンスターがいることは既に知っている。
そのタイプのモンスターなら、十分過ぎるほど戦ってきた。
「成程。アズモデめ。姫になんて扱いを…」
「わらわもムカついてるのだ。お姉たまに命令ばっかして」
ゼノスに関しては、まだ立ち位置を理解していない。
彼に関して、レイは情報をほとんど残していないのだから仕方がない。
本当に可哀そうなゼノス。
そして数十m進んだところで、巨大な地鳴り音がダンジョン内に響き渡った。
「エミリ、大丈夫か?」
「ん? 中型のネズミが居たけど、あたしには向いてないかもぉ。マリアー。」
「えー、やだよ。ネズミでしょー。きっとゼノス様がカッコ良いところを見せてくれるわよ。」
「そ、それはいいが、エミリ…さん? その巨人族の剣を収めてくれないか。ほら、俺の勇姿が後ろの姫君に見えないから…。俺は紳士的な戦いを姫にお伝えせねばならないんだ」
その瞬間に前方で爆発音がした。
その音でゼノスは飛び上がってしまう。
「あ、今の僕。ネズミがいたから。」
「なるほど。獅子は小鼠をも全力で爆破する…、正解だぁ!」
ゼノスの立ち位置はさておき、この洞窟も意味不明だった。
強敵がいるという話は嘘情報なのか、そう疑ってしまうほどに静けさに包まれている。
でも、猛獣の臭いは奥から漂ってくる。
「わ、わらわが弱力怪物退散法を使っているからかも……、もしかしてわらわ達、強くなりすぎたのかな?」
「ていうか、アイザは来た時から強かったしねー。アズモデの強さが異常だっただけかも」
「ですが、注意はしておきましょう」
彼ら彼女らは、洞窟の内部をゆっくりと進む。
デストラップに引っ掛かれば、全てが水泡に帰す。
「アル様、これは一体」
「罠…だろうな。おそらく…、この先に」
けれど、彼らは呆気なくダンジョンの終着地点に辿り着いてしまう。
大きな空洞の中央に大きな玉座が鎮座しているから、ここが目的地だと確信が持てる。
しかも…
「何もない?じゃなくて、モンスターがいない?」
「待って。僕が調べる。……ん?本当にいない?外出中かな?ずーっと座っているのってやっぱりしんどいし」
「成程、そういうことか。今のうちにオーブを探すんだ。」
そして、彼らは無事に玉座の後ろにあった宝箱を見つけた。
因みに要した時間は30分程。
「これがオーブ?…でも、ボスは帰ってこない。どういうこと? 」
そして、ここで彼が活躍する。
「ん?これは…、なかなか…」
「ゼノス、またいやらしー顔なのだ」
「ちょっとアンタ、こんな時まで何なのよ」
エミリの後ろから、マリアが桃色の髪がちょこんと覗いている。
彼女は本当にネズミが嫌いなのだろう、なんて思いながら元・竜王はほくそ笑む。
「いやらしー顔じゃない。勇者、これを見ろ。サキュバスバニーだ」
「そのようだが、それがどうした」
「何も知らないアルフレド…だな。サキュバスバニーはデスモンドのカジノにも生息している。そして玉座だ」
「そうかもしれませんわね。貴族のたしなみ…、かは分かりませんが、カジノでお遊戯しているのかも」
位置的にもあり得ること。
勇者は全員に急いで探せと命令し、見事にフィーネが宝箱を見つけ出した。
「これ…よ。間違いないわ。アル様」
宝箱を見つけたフィーネが呆気ないという異様さにたじろいでしまう。
ただ、赤色に輝くオーブは見ただけで、神聖なものだと分かる代物だ。
「あぁ。一つ目のオーブだ。ここにはもう…」
「ちょ、ちょっと何⁉いやぁぁああああ」
その瞬間、マリアの叫び声が上がる。
そして、光で照らされた地面から紫色の染みが広がっていく。
紫の染みは形となり、アルミラージやら大ネズミやらに変わっていった。
「って、やっぱ罠じゃん‼ゼノスの節穴‼」
「ち、違う‼これは…」
「とにかく逃げるぞ。ここに用はない‼」
アルフレドの中に昼間を無駄にしてしまった、という気持ちが少し残っていた。
だから、彼らは逃げるを選択した。
ただ、祠の入り口付近で、桃色の髪が立ち止まる。
「あ、ねずみは嫌いだけど、マリアは宝箱発見しましたーぁ!」
「ねずみは嫌いだけど、お宝は好きって、マリアは本当に…」
「ねぇ、これ!開けていいやつぅ?」
「待って。僕のスコープで見てみる。…うん。開けていいやつだよ。」
キラリのスコープは、ミミックのような敵でさえ判別ができる。
宝箱、つまり重要なアイテム。
だから、アルフレドは振り返り、戦う準備を始める。
「エミリ、ゼノス。二人を守れ!残りは俺たちが…」
やはりただでは返さないつもりの祠。
ならば、これからボス戦…
「神聖超新星!汚物は救済です!」
「蹴散らそうと…思ったが…」
だから、ソフィアは容赦なく最大魔法武技を放った。
当然のように、アルフレドの声を待たずに。
敵の発生は思ったより少なく、たった一発の最大火力魔法で汚物は消毒された。
そして、静かになった空間にマリアの声が鳴り響いた。
「何これ、宝の地図…かな? アイザ…読める?」
「わらわ?ふむふむふむ。これは本当に宝の地図かもしれないのらね。ミッドバレイの噴水の中…、そう書かれているのら」
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アイザ「ひ、人里……、わらわは……、入れない……」
薄紫の髪が揺れているのは、彼女が震えているからだ。
魔族と人間は相容れない存在。
——彼女はそう教わっている。
だから、いくら勇者の仲間といえども、人間の村落に入るのは怖い。
そんな中、そっと彼女の頭に手が置かれた。
光の勇者は彼女の髪を撫で、膝をついて幼女に笑顔を見せた。
アルフレド「君は大丈夫だよ。こんなに可愛い子、誰も怖いなんて思わないよ。」
アイザ「でも!わらわは、わらわは!」
アルフレド「大丈夫。アイザはどこからどう見ても可愛いよ。それに俺が——」
そして、彼は幼女を抱きかかえた。
彼女の柔らかい髪が頬をくすぐる。
アイザ「た、高いのらー。怖いのらー」
アルフレド「大丈夫だよ。俺が絶対に離さないから。離すものか。こんなに——」
アイザ「——♡」
アルフレド「——♡」
そして二人は——♡
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レイは血の涙を流し、辛酸を舐めていた。
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ソフィア「懐かしい場所……、でも私にとっては辛い場所でもありました……」
アルフレド「あぁ。分かっている。でも、今は俺がいる。」
ソフィア「でも、私は聖職者ですが、それと同時に穢れています……」
アルフレド「君は綺麗だ。穢れてなんていない。」
ソフィア「……本当に穢れているんです。全身痣だらけだし。……見て、みますか?」
アルフレド「……あぁ」
そしてソフィアは——
そしてアルフレドは——
ソフィア「本当に、本当にありがとう。あなたのおかげで私は……」
アルフレド「——♡」
ソフィア「——♡」
アルフレド「——♡」
そして——♡
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レイの目は血走り、コウモリの羽は七色に脈を打っていた。
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フィーネ「なんだか、嘘みたい。だって——♡」
アルフレド「俺もだ。——♡」
フィーネ「嬉しい!——♡」
アルフレド「——♡」
そして——♡
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臥薪嘗胆、そんな言葉もあったっけ?
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エミリ「ねぇ、肩車して。——♡」
アルフレド「——♡」
エミリ「ちょっとー。今、ワザと——!」
アルフレド「暖かい。癒されるよ。エミリ。」
エミリ「——♡」
そして——♡
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レイは今、西の大陸での最後の大仕事に取り掛かっていた。
「古龍ベンジャミール、あとはお前だけだ。何も言わずに俺と来い!」
「笑止。なぜ魔族がオーブを欲する。むしろ邪魔なだけの筈だ。よもやオーブを破壊する、などと申すつもりか。卑怯極まりない。」
「違う! オーブはいらない。俺は全てのネイムドモンスターの命を守る。そう決めたんだよ‼」
その言葉に古龍は腹の底から笑った。
「何を言うか。ネイムドもノーネームも変わらぬ命。お主が言っているのは、ただの綺麗事だ。」
その言葉に銀髪の悪魔も笑う。
「綺麗事だぁ? 違うね。こういうのは我が儘っていうんだよぉ! 力づくでもお前を引き摺り出してやる!」
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マリア「勇者様!」
アルフレド「ん?どうした、マリア。」
マリア「呼んでみただけ―。」
アルフレド「じゃあ、マリア。」
マリア「なーに?——♡!」
アルフレド「——、ごめん。マリアがあまりにも——♡」
マリア「うん。いいよ。——♡」
そして——♡
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「いい加減にしろぉ!今なぁ、俺の嫁がなぁ、嫁たちがなぁ…。現在進行形で勇者に寝取られてんだよぉ‼これ以上時間、使わせんじゃあねぇよぉ!分かってんのかぁ? 俺の気持ちがさぁ!嫁たちがあんなことやこんなことをしている姿が、毎回毎回俺の頭に映り込んでんだよ!俺の脳に直接‼あんな映像やら、こんな映像やらを送り込んでんだよぉ‼そんな俺の気持ちがお前に分かるか‼」
そう。ドラゴンステーションワゴンは恋愛要素強めのゲーム。
「……そりゃ、一理あるさ。勇者の好感度を下げたらゼノスがバッドエンドNTRを実行しちまう。それにアイツらの連携はほぼ0‼んで‼好感度イベントは二重の記憶‼ゲームでもその前後でヒロインのセリフが変わるんだよ‼だからぁぁぁぁ‼俺は身を削ってんだよぉぉ‼それになぁ、まだ理由はあるんだよ‼勇者のイベント絡みとなれば、あいつは絶対に動けない。……っていうかなぁ、おかしいじゃあねぇか。これってあんまりだろぉぉ?何が悲しくて‼俺が‼この俺自身が‼そんな計画を立てなきゃならないんだよぉぉ‼」
体長30mはあろうかという古龍の周りを、小蝿のようにレイは飛び回っている。
「何を訳のわからぬことを言っている。その醜い嫉妬ごと焼き落としてくれようぞ」
そう言った古龍は、口を大きく開けて灼熱の炎を放出した。
直径5mはあろうかという炎は、真っ赤なレーザービームにも見える。
だが、レイはその攻撃に怯むことはない。
「龍の逆鱗!」
レイの体は鋼鉄をも弾き返す竜王の鱗に包まれた。
これこそが、四天王第二席の力の権限だ。しかも爆炎のエルザのマントも纏っている。
二天王の力で、銀の悪魔は勢いそのままに、ベンジャミールの口の中に突撃する。
下顎には蹴りを、上顎には拳を突き立てる。
「過去の俺はさぞ、楽しかったろうなっ‼」
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リディア「勇者様!私達、同じ髪色よね。」
アルフレド「そうだな。なんか運命を感じるよな。」
リディア「運命……。私にはもっと辛い運命しかないと——」
だが、彼はその先を言わせなかった。
アルフレド「リディアの運命は俺と出会うことだったんだ。」
リディア「勇者様——♡」
アルフレド「リディア——♡」
そして——♡
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つまり、七人のヒロインが集まってからが本番なのだ。
これまで長かった道のりだが、新島礼のプレイングだと三時間で辿り着く。
そして、殆どのプレイ時間をここで費やす。
その嘆きが古龍に浴びせられる。
「分かるだろぉ‼ 最終イベント前は好感度イベントが連発すんだよ!特にリディアイベントは乱発しまくるんだよ‼だって、しょうがないよなぁ?ここのルート選択でヒロインが決定するんだからよぉ‼このゲームの登場キャラならそれくらい知っとけ‼っていうか、古龍ってんだから、なんとなくの雰囲気で分かるだろうが‼お前の炎なんか、俺の頭の中の大炎上に比べたら、とろ火以下でしかないんだよ‼さっさと…」
「ご主人!もう、ベンジャミールさん、気を失ってます!」
古龍はレイの嫉妬心という怒りの塊を、その身に受けて意識を失った。
「HPは0…って感じっスよ」
「俺の精神HPもとっくに0だよ‼」
これが彼の血で血を洗う作戦だった。
デスモンドでの革命会議で急遽決まった作戦である。
オスカー率いる、デスモンドの裏組織を使えば、イベントへの誘導など容易い。
因みに、彼らを誘導したのは魔物ではなく、レイに恩を感じる人間、つまりカジノの客たちだ。
「ご主人の様子を察するに、きっちり誘導できたのですね」
「そりゃ、ドラステワゴンの通れる道なんて決まってるし」
「あちゃ。旦那はやっぱり何周もしてんですね。話によると人間時代は一直線に来たわけじゃないすか」
鈍色の瞳が剥かれる。
それはそう。これもループの証明と言えるだろう。
「成程な。やっぱ、俺ってあのハーレムをやっぱ経験してんじゃん‼」
ラスボス退治など、食後のコーヒーにも劣る。
このイベントがないというのは、アペタイザーもメインディッシュも無いコース料理と同じである。
そもそも、過去の自分がそうしただろうという、過去の自分にも嫉妬しながら考えた地獄のロードである。
「だから、お前は金輪際、俺の言うことに指図するんじゃないぞ。」
「ご主人、もう気を失ってますってwww」
「あぁ!もう!無理やり連れて帰るぞ。イーリ、チューリッヒそっち側を持て。」
「なんか、旦那。荒れてますねぇ、最近。」
「ご主人はNTR耐性が低いようですから」
その言葉に巨大ネズミは首を傾げる。
「あの…。その娘にも手伝いを…」
だが、彼には分かっていない。
今の彼に見えているものが真に理解できていない。
彼にとって、彼女が唯一の心の拠り所である。
「ラビは俺の中でヒロイン、嫁枠だからいいんだよ !ってか、俺が一番重い方持ってんだから、つべこべ言わず運べ。ベンジャミールは大量の火ヤモリを従わせる。絶対にマストモンスターなんだからな。あーあ。俺が勇者だったらなぁ‼」
「ウチ、ヒロイン‼更に嫁‼ご主人‼勇者のイベントは残すところ、オーブ二つですよ。このままオーブの解放を待たれた方がよろしいのでは?」
レイの中で無理やりヒロイン枠にされた魔族少女。
ただ、レイはその言葉には首を横に振った。
「いや、オーブを全て集めた瞬間に結界が解けるのか。それともデスキャッスルに到達した時に解けるのかが分からない。それに解けてしまった場合、俺がそのまま取り込まれるかもしれない。レイモンドは封印解除後のデスキャッスルで姿を表す。何が起きるか分からないから、封印されたままの状態で城を落としたい。そもそもアズモデが戻ってきてしまう。今、来られると厄介だ。」
「なら、旦那。わざわざチューリッヒ殿やベンジャミール氏を連れてこない方が良かったのでは? だって、勇者がオーブをゲットしやすくなってしまいますよー!」
古龍の反対側からイーリが叫んでいる。
彼の言うことは、まさにその通りに思える。
「この世界について、俺はずっと考えてきた。色々試してきた。過去の俺もそうだったように、今回の俺もそうだった。だから、こいつらが絶対に必要なんだよ。あと…、ベンジャミールが言った通り、これは俺の我が儘だ。死んでほしくないからチューリッヒも連れてきているに決まっている。これで新生MKBの誕生だ。そして…」
過去の自分が隅々まで探したのは、見知らぬイベント。
その結果、何も見つけることができず、世界の破壊者たるレイモンドを誕生させた。
そして、レイモンドになったレイは、一つの違和感を見つけていた。
その違和感をつけば、あるいは。
温故知新、臥薪嘗胆、唯一無二、千載一遇のレイの作戦の一端である。
全身打撲、火傷、血の涙もろもろと、古龍を抱えた銀髪悪魔は遥か先を見据えて言う。
「さぁてと。そろそろ城落としの時間だな」




