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第200話 続くという終わりかたと、蛇足回。

 大聖堂、大修道院、そして大聖堂へと名を変えた大きな建築物。

 穴だらけで、立ち入り禁止の文字があちこちに並ぶ壁の向こう側で、人々が息を呑む。


「あ、悪魔だ…。悪魔が大聖堂を襲いに来た…」

「嘘…だろ?魔王は滅びたんじゃなかったのかよ」

「も…もしかして、聖霊様が仰っていた通りに」

「たったの三十年だぞ?本当は倒しきれてなかったんじゃないか?」


 内側から見れば、大聖堂の壁の穴という穴からコウモリの羽を生やした悪魔たちが見える。

 魔王は滅びた。

 誰もが自分たちの時代に復活するとは思っていなかったのだ。

 皆が立ち竦む中、悪魔たちは悠然と穴を通り抜ける。


 多くの美魔女に比べて、美魔男は少ないが、それが逆に人々の目を引く。


「おや…。もしかして眠っている間に言語が変わってしまったか?」

「ひ…。げ、猊下を呼べ!」

「と言われても、猊下は四王会議に出られているぞ」


 中央の悪魔、銀髪で同じく美青年の彼は、鷹揚に手を広げた。


「お出迎えもなしとはな。まぁ、良い。我は今、機嫌が良いのだ。鬱陶しい虫けらを殺さずにおれるくらいな。だが、我は魔王。お前達が聖霊と呼び、崇めている聖霊とやらは別だ。さっさとそいつを連れて来い」

「お、お前さんが魔王…?ワシは魔王を見たことがあるんじゃが…」

「婆さん、止めとけって。ハッサク‼会議なんてどうでもいい。扉をぶち破ってでも猊下をお呼びするんだ」


 大聖堂は大混乱に陥った。

 魔王はデスモンドにも、ここミッドバレイにも姿を現している。

 たったの二十五年で復活する魔王なんて、剣と魔法の世界でも常識外れだったらしい。


 とは言え、ここの時期がベスト。

 PC(プレイヤーキャラ)を新調するには時期が良い。

 いや、次世代が出たばかりだから、時期が悪いと言う者もいるかもしれない。


 故に旧世代も現世代も次世代も混在していた。


「父上‼母上‼アイツが魔王なんですか?」

「母上‼私はどうしたら」

「お母様——」

「お母さん、アイツが——」


 西の大公領からアルフレドとフィーネ。同じく西の王国からエミリとマリア。

 東からと言いたいが、リディアも西からやってきているが、あの時のヒーローとヒロインたちが揃い踏みする。

 アルフレド・フィーネの子以外は、女神に授かった子。処女受胎と言い張っているのだから、神の子。

 子が生まれたのは、彼らが17歳の時。

 5歳から10歳くらいの子供たちは、それぞれの孫である。


「随分と人数が多いのね。っていうか、この虫けらども、失礼じゃありません?」

「そうですよ。とりあえず、ひれ伏しなさい」

「頭が高いですー。今日は挨拶に来ただけっぽいよー」


 あれは歌姫では?なんて噂をしている年配者もいる。

 では、魔王軍は滅んでいなかったのか。

 そんな目が向けられてもおかしくない。

 真っ先に聞かれるのは


「猊下‼どういうことですか…」

「私に言われても知らぬ。母に聞いてもらわねば」


 そこで魔王は軽く目を剥いた。

 四十を過ぎた元勇者たちの紹介に、彼女はいなかったのだ。

 既に…、ってことはない。

 それに今の教皇は彼女の息子だし、一緒に生まれた子は各地で司祭を行っている。

 各地の王家はあつまっているのdかあら、ここが世界の中心に違いない。


「ぼ、僕はゆ、勇者の血を引くんだぞ」

「あ、あたしだって。女神様に選ばれたんだから。それに、すっごい斧もお婆ちゃんから貰ったし」


 そして遂に魔王に剣を向ける輩も現れる。

 声変りをしていない子供たち。おさなごも入れたら子供の人数だけで三十を越える。

 子供用ではあるが、立派な剣と盾、魔法の杖を構えていた、可愛らしい勇者の子孫たち。


「怖い怖い。こんなにもいたんじゃ、堪らないな」

「だろ…。復活して早々だけど、俺達が滅ぼして…」

「だが‼」


 たった二文字だけで、五十人程度が吹き飛ぶ。

 そして、魔王は肩を竦めた。


「元・勇者アルフレド…。いや、ドラゴニアの騎士レイモンドに聞こうか。これで足りる…と?」


 銀髪の男。老いのせいか黒のメッシュは無くなり、銀と白が入り混じった髪の毛。

 彼の後ろに立つ女王とどういう関係か、なんて邪推をするまでもない。


「レイモンド、どうなの?アレが(わたくし)たちが倒したという魔王で間違いないの?」

「それが…。各地に伝わる話と異なります」

「ですって。残念ね。ウチのレイモンドは優秀なの」

「ですが、陛下。…今すぐ退いてください。ここは私が押さえます」

「は?どういうことです。アレは魔王ではないのでしょう?」

「風貌が異なります。ですが、化け物…。人間に敵う相手ではない…。今すぐ、国に戻って備えてください‼子供たちは希望です‼」


 あのレイモンドがそこまで言えるようになった。

 これはふりょねこ現象でもなんでもなく、心を入れ替えた彼の行動によるものだ。


「あぁ。見た目は変わったんだっけ。…ってことだ。俺らは残虐だが、非道ではないんだ。最初から挨拶と言っている。かつて俺を滅ぼした者たちと、これから俺を滅ぼすかもしれない者を見に来ただけだ。まだ、この体も完全ではないし…」

「魔王様‼」

「真上‼」


 新生レイが目覚めるまで、魔族たちは世界の闇に蠢く存在になりかけていた。

 目覚めてからもずっと、概念への道を歩んでいた。


 だから、全員に隙があった。


 ——ドン‼


「ぐ…ぇ」


 形だけとはいえ、コウモリの羽で飛んでいたのに、衝撃で魔王が床に叩き落されたのだ。

 部下たちも、茫然と見つめるだけだった。


「魔王が落ちたぞぉおおおお‼」

「皆、かかれぇぇえええええ‼」


 先ほどの騎士レイモンドの話は立ち消え、教皇の親族である神聖騎士と、勇者の子孫と、神に選ばれた大人と子供が一斉に取り囲む。


 体はまだ本調子でないし、復活して早々、滅ぼされる…、なんて茶番は止そう。

 引っ張るのも止そう。


「母上‼一体何を‼」


 人族の力は『神話』とは程遠い存在になってしまった。

 でも、全員がそうとは限らない。

 勇者とヒロインたちは、魔王レイを忘れてしまった。

 でも、全員がそうとは限らない。

 キラリのように、一つ一つの情報を集めたら、失われた記憶に辿り着く。


 それくらい出来てしまうくらい、ゲーム世界で暮らしているのは人間は自ら考える意志を持つ。


 そして、あと一つ。


 今は魔族になったが、ロータスの民であるアイザは、ドラゴニアの血族ではないにも拘らず、黄金の器を持っていた。


 何故かを問うなんて余りにもしつこい。

 ここにも似たような場所があったではないか。

 黄金に囲まれた部屋は、あのまま維持されていた筈だ。


 だから、瞬間的な強さは当時に匹敵する。


「ぐ…。なんて…力…。でも‼」

「母上を放せ‼卑怯者‼」


 ただ、残念ながら既に世界は、黄金か白金かの二択ではない。

 基本素子でも、組み合わせが違えば、性質が変わる。

 だからか、余りにも軽い。

 それに…、ルキフェの母、フェルレのようにはならない。


「…わか…ります…か?」

「お前…。なんてことを…」


 黄金に染まるどころか、美しかったエメラルドグリーンの髪は色あせていた。

 今の人間には耐えられないのだ。

 立ち並ぶ他の仲間よりもずっと体調が悪そう。


 いや、もうその体は


「私の想像より…。ずっと優しい顔。余りに美しい姿…。でも、駄目ですね。私はこれほどに老いて、顔も皺だらけで。私だと…、お分かりになりません…よね」


 年齢を考えれば、四十を過ぎた辺り。

 でも、彼女は老婆のように見えるし、寿命も尽きようとしていた。

 無理がたたったとしか思えない。


「無理に喋るな。待ってろ。今すぐ…」

「私の最期の我が儘です…」

「何を言ってるんだ。今すぐ対処をすれば、もう少しは」


 せめて、ベッドに寝かせて。

 近くに彼女の家族だっている。

 マーサを失い、色々あったのは知っている。

 だけど、せめて最期くらいは——


「私の名を…呼んでください…。この老いぼれの名は…」


 なんて…


 人の死に諸行無常を感じる魔王レイじゃあない。


 老婆を抱えたまま、魔王は彼女の唇にキスをした。


 すると、力なく老婆の目が剥かれる。黄金の瞳ではなく、白く濁った瞳が。


「…ソフィア…だろ。俺はちゃんと覚えているよ」

「なん…て、お優しい…方。年老いた私に…どうして私は忘れて」

「何を言ってるんだ。ソフィアはソフィアだ。って、そういえば。新しい体になって初めてのキス…かも?」

「そ…、そんな…。勿体ない。それに…、アレ?私…」


 老婆は自らの体の変化に気付く前に、ささくれた長い髪が光り始めたことを驚いた。


「魔王は我が儘。で、これは依怙贔屓。人として、家族に囲まれて死ぬのもいいけど…さ」

「え…。わ、私…」

「どっちがいい?人間に戻る道も…」

「ううん!私はレイと共に‼…だって私は、聖・レイ様のお迎えをずっと待っていたんですから」


 ドヤ顔をするのも恥ずかしいこと。

 世界は単一言語なんだから、新生レイは最初から気が付いていた。

 神、悪魔、その他諸々だって、直ぐに気付いただろう。


 魔王はソフィアに自身の体液を映して、一時的ではあるが魔族に変えた。

 そんな彼女をマントで隠しつつ、


「待て‼ぼ、ぼ、僕が絶対にお前を滅ぼしてやる‼」

「あぁ。首を長くして待ってるよ。その前に人間を越えるまで強くなって来い」

「人間を越えるって…。そんなのどうやって」

「さぁな」


 未来の勇者がその血統から生まれるとは限らない。

 剣と魔法のファンタジー世界ではあるが、全く同じ話が紡がれるとは限らない。


 そして、彼は人間に最後の言葉を告げた。


「人間共よ。備えよ。そしていつの日か、我を倒して真の平和を掴みとってみせよ。ではなぁ‼脆弱な人間共ヨ!」


 いつか女神が言った事をもう一度念を押し、魔王軍は姿を消した。



 これが、今回のエピローグの終わり。

 と言っても、剣と魔法の世界はまだまだ続く。

 続くエンドを選んだのだから、当然の終わり方である。


 ただ建前上、これは綴っておこう。



                  ...Fin


     ◇


 そして、蛇足。


「私、流石に飽きました。っていうか、よく考えたらこれってハーレムゲームじゃないですか。私、今は別のゲームやりたい気分なんです。」


 レイは自室、というより地下深くに新設された魔王の間で立ち尽くしていた。

 自分の為にあしらわれた玉座に知らない女の人、いやよく見ると知っている人が座っていた。


「アズモデのお母さん…。いや、この雰囲気は女神メビウス‼」


 久しぶりすぎて、完全に忘れていた。


「よく見るも何も!なーにやってんだよ‼続くエンドの続くエンドっていう、締めくくりまで時間かかり過ぎて忘れてたわ‼そもそも、なんでしれっと他人の椅子に座ってんだよ。いや、あれだよ? 女神だから上座であっているんだけどね?それに、いきなり俺の前に現れて、何言ってんだ、こいつ…」


 その瞬間、光の女神メビウスは慈悲深い笑みを浮かべた。


「あらあらあらあら!おたくはたった一本で満足するゲーマーでしたの?一年に一本もパッケージを買わないで、口だけ出すタイプのゲーム人でしたの?」

「言い方‼色々と面倒くさいから、そういうやめような?ってか、その体ってアズモデのお母さんだよな?」

「えー。これは量産型ですぅぅ」

「量産されてたんかい‼」


 ちゃっかりソフィアまで魔族になって、それから何年が、いや何百年が経ったか分からない。

 そも、魔王軍が地上に出なければ、地上は平和そのものだ。

 しかも、魔王軍がちょっとその気になれば、人間は滅んでしまう。


 だから時の概念を忘れて、ダラダラと過ごしていたわけだが。


「そもそもハーレムゲー過ぎません?どうして女の子ばっかり出てくるんですか!そもそも出生率はですね、染色体の——」

「いい、いい、いい、いい!それは俺も知ってるから!俺がそういうのに疎く見えたなら謝るけれども、大体同じレベルのサブカルオタクじゃん!ちゃんと知ってるって!なんで光の女神の分身使っているのかは置いといてもさ、久しぶりに帰ってきて、いきなり飽きたって何を言ってんの?って、俺は聞いてるんだよ!」


 すると光り輝く女神は、膝の上に乗せた両手の指でもじもじを演出し始めた。


「えっと…。その、軽い女って思って欲しくないんですけど。私、見つけちゃったんです!ドラステとは違う、それはそれで面白そうな世界を…」

「なんだよ、その軽い女って。要するに面白そうなゲームを見つけたんだろ?」

「最初はどうなの? って思ったの。これってドラゴンステーションワゴンに対する浮気じゃない? って、私、何度も何度も自分自身に言い聞かせたわ。私は軽い女じゃない。ね、そうでしょ? 私、軽い女じゃないでしょ? だから、…他の世界で遊んでも…、浮気にはならない…わよね?」


 俺は顔面が引き攣るのを感じていた。


「ち、違うゲームをやることだってあるんじゃね?だってゲームだし」

「…でもね。思ったの。最近は…、多人数の方が人気とか…。その…。浮気じゃないの‼先っちょだけなら浮気じゃないかなって」

「先っちょは完全に浮気だよ‼…って、女神じゃん‼どうしてお前が入れる側⁉」


 この女神が、時々日本に行ってゲームチェックしているのは知っている。

 でなければ、こんな狂った世界を作ったりしない。

 神ゲーだから作ったというこの世界。

 そもそも神ゲーと呼ばれていたのは、ごく一部のコアなファンの声だった。

 でも、確かに自分と彼女の趣味は似通っているというのは認める。


 それでも…、やっぱり意味が分からない。


「違うの!ただ、合体したかっただけなの‼」

「合体してんじゃん‼」

「そういう淡白な言葉が聞きたかった訳じゃないの!」

「淡白な言葉って……。いや、あ、あれだからな。その、気持ちは分かる。楽しかったゲームってさ、やっぱり誰かと共有したくなるもんだよな。まぁ、メビウスが楽しかったっていうんだから、それは良かったんじゃないかな。うんうん。良かった良か…」

「今、合体したいって言った?」

「言ってない‼共有したいって気持ちは分かるって言った」

「ほら、言ってる!」


 なんだろう。

 この、ネットリとした違和感。


「ふふ。やっぱりレイも共有したいって思ってたのね。合体したいって思っちゃったんだ…」


 そして女神は嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうにお腹を摩った。


「良かったねー。レイも楽しみたいだってー」

「メメメメ、メビウス、お前…………、突然、どうした?…………まさか?」

「うん……。デキちゃった。」

「何ができたんだよ! 俺たち、そういう関係じゃないだろ!庶民と女神……。ハッ!魔王と女神……、いや、邪神と女神だった。——って、それも全然関係ないじゃん!お前こそ、読み返してみろ。そういう行為、俺やってないから!」


 っていうか、ほんと、意味がわからない。

 それにこの流れ、最悪である。


「ええええ、ひどい!私は合体しちゃったら、出来ちゃったって言っただけなのに‼それでも貴方はこの(せかい)を認知……してくれないの?」

「俺と合体したわけじゃないだろ‼っていうか、誰と合体したんだよ‼そいつに言えって‼」

「誰だっていいでしょ?認知してくれるかって聞いてるだけなの!」


 この女神、一体何を言っているのか。

 神だから理解不能なのは、在り得ること。

 

「分かった。分かったから!一応、お前、このゲームの光の女神なんだろ? 女神が魔王の前で泣くなって!えっと、その…、えっと…もしかして、その男の神の素性が分からない…とか?へ、へぇ、す、すごいなー。やっぱ神様のモラルって。でも、いいんじゃない?認知とか関係なく。めでたいことじゃないか」


 すると…、女神はピタッと泣き止んだ。

 そして暫く、嬉しそうに俺を見つめている。


 …確かに、神様って色んな神様同士で子作りしてるイメージあるよなぁ


 なんて思っていたら、


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」


 と、泣き始めてしまった。

 どうやら気に障ったらしい。


「ごめん、ごめんって!俺が悪かったって!もっと感情こめるから!げ、元気な子が生まれるいいですね‼俺に出来ることがあったら、いつでも言ってください。重いモノとか持ちますんで‼」


 メビウスは泣きながら、まだこちらをチラチラ見ている。


「な、なんでもやりますんで…。実際、俺は逆らえる立場にないし…」


 そしてまた泣きそうな顔に


「って、間違えましたぁぁあ‼俺がそうしたいんです。メビウス様の為に‼」


 …え?何、これ


 その瞬間、レイの背筋に何か冷たいものが流れた。

 女神メビウスはついに泣き止み、満面の笑みに変わった。

 でも、その満面の笑みが怖い。女神様の笑顔が怖い。


 泣き腫らした目が一瞬のうちに消え去り、彼女は頬を膨らませる。


「もうもうもうもう……。いぢわるしてたのねー! ほんとは欲しかったくせに、すーぐ私に全部押し付けるんだからぁ。ちゃんと信じてたよ。貴方は認知してくれるって信じてた。合体して出来た世界()として、認知して(転生して)くれるって信じてた……。本当に良かった」

「いや、なんでもありません!」


 とにかく、この場をやり過ごそう!

 女神は嬉しそうにお腹を撫で始める。

 一応言っておくが、全く膨れてなどいない。

 女神はそのくびれたお腹に向かって何かを言っている。


「良かったでちゅねー。プレイヤー(パパ)もよろこんでまちゅよー。新しく生まれてくる貴方をちゃんと育ててくれるって!もうすぐ会えるって!」


 全く意味が分からない。

 別の世界線だと、あぁそういうことね、とか思えるかもしれないけど、今回はマジで意味が消失している。


 メビウスが何かと合体して、それで子供が云々。

 プレイヤーが云々。


「メビウスさん? えっと…、認知した手前、もーーー少しだけ教えてくれると嬉しいかなぁ…って」

「ほら、パパでちゅよー。パパ、ほら、撫でてあげて!」


 完全無視。

 これは流石にどうかと思う。

 今まで姿を見せなかったのに、突然現れてこの始末。

 なんだか、だんだん腹が立ってくる。


 そこでこんな声が聞こえてくる。


『いいから旦那、彼女の言う通りにしてやってください。あとで説明しやすから』


 直接脳内に聞こえる声、それでもちゃんとキャラが誰か分かる話し方をしてくれた。


 ってことは、言うことを聞いた方が良い。


 だから仕方なく、フェルレの見た目の彼女の、細くくびれたお腹を撫でる。

 アズモデには悪いが、今は彼女にあわせる。


「えっと、義母だから血の濃さ的には問題ないし。…ってか、俺の子じゃな…。なんでもないです。ほら、パパだぞ。一緒にがんばろ…、…は⁉」


 その瞬間、光の女神メビウスはキラキラと光り始めた。

 非常に美しい金色の髪がマーベル色に変わる。

 そして生え際から、白と黒に変わっていく。つまり。


「くっくっく。約束じゃぞ、パパ(プレイヤー)さん」


     ◇


 万能の女神の隣には黄色い髪ボサボサの優男が居る。

 ここで漸く、レイはブチ切れることが出来た。


「やっぱシクロじゃん‼光の女神はどっちか分からないんだよ‼そもそも俺に何をやらせてんだ。ただでさえ、中途半端な終わり方に焦ってんだからさ」


 全能の女神シクロの方が強気でいける。

 やはり、ずっと冒険してきたという慣れがそうさせる。

 ただ、それはただの慣れ。レイはポカリと何かで殴られてしまう。


「お主は本当に忘れやすいの。その頭、本当に脳みそが詰まっとるんじゃろうな? クロが言うておったじゃろ。『光の女神』役がやりたいと。数話前の話も忘れるとはの、一回、マロンとやらに頭を調べてもらったらどうじゃ?」


 という理由らしい。


「じゃあ、今のはどういう意味なんだよ?」

「この痴れ者。合体という言葉も忘れてしもうたか?」

「ってか、そのままだろ!『出来ちゃった劇場』だったじゃん‼ほとんど意味が分からなかったけど!」


 また叩かれる。今度こそ、死んでしまう

 レイがどうでも良いことを考えていると、イーリがガチな方のため息をした。


「旦那。あの後、シクロ様はこの世界の様子を見に、日本でゲーム探しに行ってたんすよ」

「ゲーム探しって‼っていうか、世界はどうだったんだ?なんか、最後の方は俺の私情が反映されてたけど」

「その報告っすよ。シクロ様はゲームをやりながら考えていた、という訳っす。」


 ちょいちょい、ゲームの片手間に聞こえる発言がある。

 けれども、イーリはすごく真面目な顔してる。

 そしてシクロは肩を竦めた。


「良いのではないか?全てを手放そうとした時は、多少肝が冷えたがな」

「あ…、あれで良かったのか。正直、今も…」


 本当は世界を全て明け渡そうと思っていた。

 もしくは、闇に蠢く存在になり、見守ろうとも思っていた。


「いいや、そういう意味ではない。どれでも問題ない…という意味じゃ。ハイパーインフレーションで散り散りになるのも一つの形じゃろう。全てを人に委ねるのも良かろう。こうでなければならないという決まりはない」

「でも、そこには人間が居て、動物が居て…」

「そうじゃないっすよ。生命の誕生って奇跡じゃないっすか」

「それは…、そうかもしれないけど」


 未だにアレで良かったのかと考えていた。

 だって、あれは。特に最後のは。


「…依怙贔屓しても良いのじゃぞ。人間とはそういうものであろ?」


 肩が跳ねる。

 ただ、そこから先の女神の言葉は目を丸くさせるモノだった。


「そもそも、ワシが仕組んだのを忘れたか?」

「へ…?あ、そういえば、俺の体を顕現させたのはシクロ…」

「それだけじゃないっすよ。女神のお告げを忘れたんすか?」


 全世界で同時多発的に起きた魔王滅亡と復活のお告げだ。

 アレは女神シクロが仕組んだこと。


「そ…っか。だったら…」


 アレが無ければ、姿形が変わったレイは魔王の生まれ変わりだと気付かれなかっただろう。

 アレが無ければ、勇者とヒロインたちの行動は違っていただろう。

 そもそも、魔王軍が暗躍することもなかったかもしれない。


 女神のお告げのせいで、選択肢は殆どなかったのだ。


 それを思い出したレイは半眼で女神を睨もうとするが、既に遅い。


「…し、仕方なかろう。あぁでもせねば、お主の意志は世界の彼方に飛んでいったかもしれぬ…し」


 頬を染める女神の姿で、勝負がついている。

 彼女が言った依怙贔屓とは、レイを失わないためのシクロの行動のことだったのだ。


「そ…、そか。俺を救ってくれた…のか。お陰で、ドラステ世界は剣と魔法の世界のまま、無事に運営できそうだし」


 その瞬間、女神の口角が上がる。


「というわけで、じゃ!」

「は…い?」


 そしてレイの背中に冷たいものが流れる。


「最初に戻るとするか。認知…してくれると言うたな?」

「え…。アレって繋がってたの?言ってな…。いや、確かに言った…かも?」

「あーあ。旦那、やっちまいましたね。神との契約なんて、そう簡単に結ぶもんじゃあありませんぜ。」

「ぐふふふふ、そうじゃなぁ。お主に言われんでもワシはなんとかしとったというのに、なんでもするか……。」


 なんかもう、この流れも慣れてきた。

 どうやっても神には勝てない。

 だからレイは覚悟を決めたのだが……


「で、俺は何をすればいい? 」


 と、果敢に挑戦を受けるのだが、


「決まっておろう。ゲームのような異世界を見つけてきたんじゃ」


 シクロの悪戯な表情に頭は真っ白になった。


「あのぉ、えっと、ちょっといいかな。俺がそのゲームのような異世界に入るの?えっと良く分からないんだけど、俺、この世界のあれこれと色々……」


 だから女神シクロにお伺いを立てたのだが…


「それは大丈夫!」


 と、女神シクロが二回言った訳ではなく、シロとクロがいつの間にか二人に分かれていて、右と左からレイを引っ張る。


「ちょ……、痛い!痛いって!」


 痛がるが、スポンと音を立てて、彼の中の何かが変わった。


「俺から俺が出た!?」

「俺から俺が出た!?」

「女神のすることじゃ。お主もよう言うとったの。神はなんでもありなのじゃ。」

「女神のすることじゃ。お主もよう言うとったの。神はなんでもありなのじゃ。」


 と言いながら彼女たちは一つの体に戻った。


「ほれ、こうして仕舞えば問題ないじゃろ?」


 そして、女神はコントローラーのボタンを押す。

 すると、レイの体もじわじわと一つに戻っていく。

 もはや彼も神のおもちゃである。

 おもちゃの先輩であるイーリは肩を竦めるだけ。


「ま、旦那にも良いことがあるんすよ。っていうか、女神様が餌を撒いたんすけどね」


 ぽんぽんと肩を叩かれて、そんなことを言われた。


「ん、俺に良いこと?」


 すると女神は勝ち誇った顔をして、彼にきらりと犬歯を見せた。


「クエストじゃ。見事クリアすれば、12,504回、見殺しにした魂を救済しよう。記憶を消したところで、その因子は彷徨っておるのじゃぞ」

「うぐ…。一応、解決したと思ってたんだけど…」


 彼は12,504回、仲間を見殺しにした。

 そしてその全てで彼は憎まれていた。

 怨嗟の炎に包まれた彼女たちは、レイに罵詈雑言を浴びせていた。


 解決方法はただ記憶を消しただけ。

 でも、愚かな自分への罵倒が今でも耳に残っている。


「それは、まぁ。でも、どうしようもないし……」

「っていうことが、女神様の蒔いた種っすよ、分かりません?」


 その彼の言葉に、一瞬戸惑った。

 こんな馬鹿な話があって良いはずがないと。

 でも、一応、念の為、確認のために聞くべき話ではある。


「俺が何度も失った命、魂。全部燃やされた魂…。俺を憎みながら消えた魂。それを今から取り戻せる……?」

「当然じゃろ。全部破壊神であるワシが回収しておる。お主の好きな言葉でいう、『こんなこともあろうかと』という奴じゃ!」


 もう、何がなんやら。

 一体、何のために。

 そしてどうやって。

 そんなこと彼女に聞く方がおかしいのかもしれない。


「さすが女神様…か。俺には取り戻せないものを取り戻せる。行くしかない…」


 ただ、一応確認しておこう。女神の意志というやつを。


「でもさ、なんでシクロはそこまでしてくれるんだ?」


 神のやることに理由なんかないかもしれない。


 それでも白黒の女神は意地悪な笑みを浮かべて、こう言った。


「ワシはな、『ゲーム実況』を見るのが大好きなのじゃ!しかも、今回は他の女神が作った世界じゃぞ」

「え?それは聞いてない‼」

「合体したと言うたであろ?」


 そしてレイの体は飛ばされる。


 とは言え、それは別のお話。しかも現在構想中。

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