第197話 後日談的なモノで、レイは顔を引き攣らせる。人間界編・3
眼鏡白衣、小悪魔は眼鏡を抑えて、アズモデの体も抑えつけた。
「折角、順番に話してたのに…」
「ゴメンって…。つい、流れで言いたかったんだよねぇ」
「全く…。仕方のないヤツ。ってこともあるけど、分かりやすいから先にお姫様の話に飛ぶよ」
「あ…。うん。それが良い…かも」
「何で、何も知らないレイも納得するの?」
「いや…、なんと…なく」
ということで。
『リディア姫のその後の物語』
黄金の姫様は秘密の塔に戻されていた。
ただ、彼女の記憶はそこまで失っている。
だから、当時と同じように窓から外を見下ろしていた。
「…また、配給の時間。女神様…。どうか私をお導き下さい」
思い出される辛い生活。
ただ、よく見れば全然違う。
「す、少し綺麗になっているような…。あれ…。これはどういう…」
実は塵一つない。
隅々まで掃除型スラドンが掃除をしている。
そして運ばれてくるのは…
「普通に…、美味し…そう…。え…?着替え…?…アズモデ、どういうつもりよ」
ここで一つ思い出して頂きたい。
アルフレドとフィーネ、エミリとマリア。
彼女達とリディアは、違うフィールドにいる。
アズモデが、邪神型アンデッドを持ってきたのと同じように、途中で離脱したリディアにはタイムラグが発生している。
因みに、給仕しているのは忘れてはいけないワットバーンである。
「美味しい…。一体、どういうつもり…。私を太らせて、食べようとでもしているの…。シャワー室があるのだって、同じ理由?か、快適だなんて思わないんだから」
そんな状態が約一週間ほど続く。
どう考えてもおかしい。
もしかして、魔王軍に何かがあったのではと考え始めた。
「でも、私はここで勇者様を待たなければ…。外にも出られ…、…え?」
ドアノブに何度手を掛けたことだろうか。
なんてことを考えながら、開くはずもないドアに力を籠める。
ガチャ
だが、当然のこと。
そこは力なんて必要なく、ただのドアとして開くのだ。
「私、出られる…の?出て…いい…の…ですか?」
彼女にとって、ソレは余りにもイレギュラーだった。
父は笑顔のまま死んだ。
父は部下に化けた悪魔に殺された。
「絶対に…、許せない。私から勇者様に会いに行けば…」
十年以上も閉じ込められていた。
とは言え、元々お姫様である。
ここから西に行けばエクレアの街で、そこから北へ上がれば王城があることくらい知っている。
その道中で、もしも魔物が現れたなら、命を架けて戦おう。
そう思っていたけれど…
「魔物が…いない…?やっぱり魔王軍に何かがあった…」
一人で歩く荒野。心細いけれど、芯は強いお姫様だ。
この程度では立ち止まらない。…というより
「リディア姫‼」
「お姫様だ‼」
「お戻りになられていたのですね‼」
リディアを見つけたエクレアの街の人々が彼女に声を掛ける。
だってエクレアは勇者と花嫁たちの手で、人間の街になったのだから。
それ以降、彼らは姿を見せていないのだから、駆け寄りもする。
「どういう…こと…」
そして遂に、彼女もズレを体感する。
しかもリディア姫の場合は、知っている人間が誰一人としていない。
だけど、周りは自分のことを知っている。
「ずっとお城にいらっしゃるのかと…」
「あれ。ネクタに行っていらしたのでは?」
「お城…って。皆さま、魔物はどうなったのです?」
すると、人々は首を傾げる。
「この辺りは一掃したと、勇者様に伺っておりますが」
「勇者…様が?勇者様はどちらにおられるのです?」
リディア姫も首を傾げる。
そして、恐ろしいことを思いつく。
「オーロラウェディングキャッスルに少し前まではいらしてたのでは」
「だからー、そこからミッドバレイに飛んだんだって」
「私はネクタって聞いたけど」
「オ…。オーロラウェディング…キャッスル?既に魔王の支配は終わっている…。私…、無視された…のですか?」
秘密の塔に立ち寄らなくても、魔王と戦える…かもしれない。
オーブがなくても、魔王を討ち取れたのかもしれない。
それは良いことなんだろうけれど、やはり
「そうであれば、ムカつきますわ」
「え…えと…。それは…」
「無、無視じゃない…と思いますよ。殿下はとてもお綺麗です‼」
「そ、そうですよ。女神様のように美しい‼ゆ、勇者様はお忙しい…だけで」
しかも、エクレアの民も歯切れが悪い。
彼らに言える筈もない。
この国唯一のお姫様が、勇者の花嫁の一人でしかないなんて言える筈もない。
そしてこの状況でドラゴニアの血が騒ぎだす。
「忙しいにもほどがあります。私をお忘れになるなんて…。女神様…、私はこれからどうすれば」
「と、取り敢えず、船に乗られては…如何でしょう。ネクタに行け」
「そうね。王城が開放されているのなら、私はそこに向かいましょう。お父様とお母様にお祈りを捧げなければ…」
リディア姫は、いつものように暴走を始めようとした。
ヒロインで言うなら差し馬ポジション。ここからが彼女の──
という訳には行かない。
ここであの時を迎えるのだ。
『魔王は滅びました…』
他でも登場したフェルレの容姿の女神メビウス。
ただ、あの時レイは思ったではないか。
──リディアに少し似ている、と
「お母さま‼」
黄金に輝く眩い女の姿は、見る者によって印象が変わる…という訳ではない。
そも、アーノルドの妻、バーベラはアルフレドとリディアという、黄金の器を二つも産み落とした。
フェルレの一歩上を行っていた可能性だってある。
そも、リディアはフェルレの容姿を知らないのだ。
「お母さまが…、魔王を討伐して下さった…。私の為に…」
このリディアは勇者の容姿を知らない。
彼女にあるのは過去の設定のみ。
『──ですが、悪が滅びることはありません。かの魔王は、いつの日か必ず復活するでしょう。人間たちよ、備えなさい』
そしてエクレアの民だってフェルレを知る者は少ない。
というより…
「リディア様…は、女神様の生まれ変わり…」
「そっか。お姫様は報告にいらしたのですね」
突然訪れたリディアと、女神の姿が重なってしまった。
エクレアの民は『本編中』に見せた、リディアの勇者的能力を目の当たりにしている。
その時のリディアは、常にアルフレドと対等だった。
この街は王家のお陰で発展したようなものだ。
何処の馬の骨とも分からぬ男の勇者より、お姫様に憧れを抱いている。
「リディア様‼是非に、城へお向かい下さい‼」
「我らも共に行かせてください」
「オーロラウェディングキャッスルのバルコニーで、アーノルド様とバーベラ様のように…、…って姫?姫ぇぇえええええ‼」
経験値を失った状態で、姫は一人ここまでやってきた。
その疲れが出たのか、それとも他の理由か、リディアは倒れてしまった。
「誰か、殿下を‼」
在りし日のエクレアは、時代の最先端だった。
マリネ、カリナ、リボンの時代には、今のデスモンドと変わらない街並みが広がっていた。
ここ最近は竜人族に占拠されていただけで、潜在的な街の価値はネクタとデスモンドに並んでいる。
「私‼医療の心得があります‼」
「回復魔法には自信があります‼」
それにエクレアはドラゴニア族とロータスの民の混血が多い。
故にアイザとまでは行かないが、平均的に魔力が高い。
とは言え…
「姫…、これは」
どうして彼女が倒れたかは、直ぐに分かる。
だって、世界の常識なのだ。
「私のお腹に…」
ただし、やっぱり身に覚えがない。
それどころか。
「在り得ない…ですわ」
「ですが、殿下。これは」
これは運命か、それとも女神の悪戯か。
「お母様と同じ、双子…。分かりました」
父の心の奥に残っていた、ほんの僅かな子供たちへの恨み。
それを知ってしまい、彼女は絶望をした。
——でも、ここに居るリディアは違う。
っていうか。
忘れてしまったからと言ってしまうのは、あまりに情緒がない。
彼女はとても強い意志を持っている。
「その…。御母上の件があります。このままでは危険ですので…」
「これは母からの贈り物です」
魔王が滅び、姫が城に戻ってきたという話はエクレア中に広まっている。
だから、当時の王家を知る者が集まっていた。
「ですが…、せっかく平和な世の中になったのですぞ」
王妃は出産と共に他界した。ならば、この出産は止めさせるべきかもしれない。
だが、姫はそんな不安なんて吹き飛ばす。
しかも、その発想もあまりに突飛なモノだった。
「私…は今を以てリディアを捨てます。これより、わらわはバーベラ。クリプト、民を集めなさい」
ネクタでは、エクナベル夫妻が『魔王の呪いによる記憶喪失説』を訴えた。
ただ、船で伝わるにはあまりに時間が掛かり過ぎる。
そもそも。
アーマグでは、デスキャッスルに引き籠っていたから、勇者のハーレムをエクレアの人々は知らないのだ。
それもあり、それだけじゃないものもあり、アーマグ人は立ち上がった
「わらわはバーベラ。アーマグの民よ、聞きなさい」
過去設定しか持たない女は、その過去を歩むと決めたのだ。
「皆も聞いたであろう。女神は、母は魔王を滅ぼした」
歓声が上がる。
このバルコニーがアズモデの居場所、と決まっていたのは過去の話。
「その後、わらわの母上はこうも仰られた。悪が滅びることはない…と」
エクナベル夫妻が恐れた言葉。
それがリディア改めバーベラ二世の力に変わる。
おそらく思い込みか、シャーマニズムか。
その姿はバーベラと瓜二つであった。
「魔王は必ず復活する…。だから、わらわは勇者の子を賜った。そして今度こそ約束をしよう。わらわは必ず、真の平和を齎す女神の御子を産んでみせる、と」
「リディア様…、失礼。バーベラ様。それは危険です。もしも…、貴方様に何かがあれば…」
「何を申す。…いや、其方の心配も無理からぬこと。では今度こそ、わらわは生きて御子を育てると約束しよう‼」
そしてここにドラゴニア女王が誕生した。
半年後。
バーベラ二世は見事に双子を産み落とした。
勿論、バーベラは健在である。
それから更に半年経ったころだろうか。
オーロラウェディングキャッスルに、銀髪の男が訪ねてきた。
実際にはその三か月前にエクレアに辿り着いていたらしいが、女王への謁見の為に身辺調査が行われた。
そして、今。彼は女王の前で跪いている。
「陛下…。このような機会を賜り、誠に恐悦至極でございます」
「良い。して、わらわに名に用じゃ?」
「その…。私は…、逃亡兵の子です」
「知っておる。裏切りの刑を受けに来たのか?それともたかりに来たのか?」
初対面の二人。
だけど、互いに素性を分かっている二人。
勿論、二人の関係は従弟。年齢はレイモンドの方が上だが、父親の年齢はリディアの方が上だ。
「…どちらも違います。いえ、後者に近い…かもしれません」
レイモンドは世界の横断を果たす中、色んなものを見聞きしてここまで辿り着いた。
両親の出自も途中で辿り着いていた。
「ほう。何を欲す?わらわは世界に光を齎す、双子勇者の母ぞ」
「承知しております。私は父の汚名を雪ぐため…、貴方様の剣になりたいのです」
女王は軽く、本当に軽く目を剥いた。
アーモンド・デズモアとどこぞの女との子。
背丈を考えれば、どこぞの女とはロータスの民であろうことは想像がつく。
「依怙贔屓は出来ぬぞ」
「元々、戦わずして逃亡したのです。一兵卒として、使い捨ててください」
王国を見捨てて逃げた男の子供。
本来なら信用できない。だが。
事情は変わる。特に、今は猫の手も借りたい状況だった。
「よかろう。そもそもドラゴニアとザパンの血を引く其方の働き、期待しておるぞ」
「は‼」
◇
「え…。なんか、新たな話が始まろうとしてない…?」
「そんなことはないですよ。だって、二十年も前の話ですから」
それはそう。
とは言え、さっきから顔面の痙攣が止まらない。
っていうか、色々と穏やかではない。
ついでに、
「…余りにも女神の出現がご都合的過ぎる。確かに時間のずれはあったんだけど…」
「ということで、僕の弟は無事に…かはさておき、ドラゴニア王家に仕えることになったよ」
「それも、俺の時よりしっかり者じゃね?オートスイッチってなんだったんだよ…。っていうか、今回も思ったより長いし‼」
「あ。レイはまた、そんなこと言うんですか?」
「って、さっきからキラリばっか、目立ってる‼サラも色々話したいのに!」
「だってサラは…」
「でも…」
男の娘、という希少枠。
定期的に言わないと忘れそうになるけれど。
「でもじゃないですよ。アズモデにも力を借りましたけど、基本的には僕が調べたんですから。それに…」
そう…なのだ。
最初に見せられた世界地図。
細かいことは最後に触れたいけれど、やはり目立つ存在があった。
「ソフィア…か。なんか、胃が痛く…」
「だったら、少し休憩ですね。色んな意味で休憩です。丁度…」
ということで、最後を締めくくるのはやはり彼女で決まりである。




