第195話 後日談的なモノで、レイは目覚める。人間界編・1
パチッ
明かりを消すと真っ暗な部屋に変わる。
レイが目を覚ましたのは、女神の間と似たような真っ暗で何もない部屋だった。
と、スイッチが消されたことで魔王は気が付いた。
「もしかして、あの時の何処かでこの空間に移動してた?」
「いいから。早くこっち」
「キラリ様。魔王様の案内は私が」
「いいえ、私が」
魔物と関わっていた三人のヒロイン。
キラリとアイザとサラに連れられて、MKBの研究施設に向かう。
アズモデは、母親の言いつけを守って、魔王の為に魔族を指揮していた。
弟はレイモンドだから、というツッコミはない。
だって、母親の形をしたソレから生まれたのが新生『レイ』なのだから。
「相変わらず、清潔な場所だな。スラドンも元気に活動中。…で、地上はそうでもない…と」
二十年の月日が流れている。
しかも、魔界に居た人間が魔族になってから十年だ。
二十年以上と考えた方が良いだろう。
「先ずはこれを見て。これが世界地図」
流石は魔王軍。
何時、何処からとったのかも分からない航空写真が映し出される。
「世界地図くらいならちゃんと覚えて…、…は?」
レイは目を剥く。
世界の形が大きく変わることはないが、中身がまるで違う。
「は?って言いたいのは僕ですよ。これ、絶対にレイのせいですよね?」
「えっと…。身に覚えは…」
勿論、ある。
「先ず、一番刺激の少ないとこから行くよ」
キラリは自身の記憶と周囲の違いに気付いて、世界中を調べていたのだ。
そして、こんなにも立派な研究員の一人になった。
※キャラクター、その後。
「あれ。今、数字と文字が見えたような」
「細かいことはいいから。二人の場合は簡単だった。理由は——」
◇
『アルフレドとフィーネの物語』
アルフレドとフィーネは、二人で首を傾げていた。
二人が失ったのは、ドラステ世界が始まった直後までの記憶だ。
「あれ…。俺はレイモンドに呼び出されて」
「ここって何処だっけ…。太陽はあっちで、今は…」
「…って。フィーネ‼た、高そうな服…だな。それに目のやり場に困る…んだけど」
「えぇ?何を言って…。って、アルフレドもどうしたの?なんか、光ってるわよ」
互いの装備を珍しがる、自称16歳の二人。
アルフレドは終始、目を泳がせながら西を目指した。
「ちょっと…。休ませて」
「休むって。そんなに柔じゃない…だろ」
だから、フィーネの変化に気付けない。
フィーネも自分の体に起きた奇跡に気付かない。
そして、休憩ポイントに着いた時にソレは起きた。
『魔王は滅びました。ですが、悪が滅びることはありません。かの魔王は、いつの日か必ず復活するでしょう。人間たちよ、備えなさい』
女神像の側に女神が現れたのだ。
その神々しい姿に、何度も目を擦る。
そして何故か、心をくすぐられる。
とは言え、終わったという報告だった。
「魔王…っていうのがいて、滅びた…んですって」
「あ、あぁ。だから魔物の姿が見えないのか。俺に知らないことってまだまだあるんだな」
「誰かが魔王を倒した…ってことかしらね。こんな遠くまで来たこともない私には絶対に出来ないこと…。う…」
「大丈夫か?…多分、村は近い。そこまで俺がおぶってやる」
「え。いい…わよ」
「遠慮するな。魔王を倒せ…ってのは無理だけど、今やれることからやりたいんだ」
フィーネは少し顔を赤くして、アルフレドの肩に腕を絡ませた。
アルフレドの心臓も跳ね上がるけれど、青い顔をしている彼女は見ていられない。
「あ…れ。思ったより、軽い…。…痛っ‼」
「私のこと、そんなに重い女と思ってたの?」
「って、そうじゃなくて。ちょっとは修行の成果があったんだなって。…気分悪いんだろ。急いで戻るから」
「…うん。ありがと」
ゴールドは肉体。そのルールは暫く適用される。
だからアルフレドの体はまだまだ軽い。
「それにしても、なんであんな場所に…」
なんて疑問を持つ頃にはスタト村に戻ってた。
そこで待っていたのは勿論。
「アルフレド‼フィーネ‼」
「世界の救世主様‼」
村人たちは、二人を急いで迎え入れる。
「え…。何を」
「お父さん、お母さん…。私たちはちょっと出かけただけで」
「世界に平和を齎したのにちょっとも何もないだろう」
「私たちの前に女神様が現れてくださったの‼」
あれ?スタト村人は記憶を失っていないから、魔王様を慕っていた筈では?
「魔王レイ…、滅んじゃった」
「タロ、やめなよ。大人たちが言ってたでしょ。デスモンドの街とネクタの街を恐怖に陥れたって」
「でも…」
「っていうか、あのヒトが魔王かなんて分からないじゃん」
「そ、そうだけど…」
魔王レイは勇者を誘き出す為に、必要悪として大きな街を襲った。
だから、大半の村人は魔王の滅びを歓迎していた。
その諸悪を倒したのは、スタト村の勇者アルフレドとフィーネに違いないのだ。
「二人とも、早く早く‼」
「え…と。フィーネは体調が悪いんだ。今は」
「そうなの?フィーネ」
「うん。ちょっと吐きそうで」
パピルスとマーマレイドは即座に反応した。
そして、嬉しそうに我が家へ二人を運ぶ。
「お祭りは少し控えめにしておくか」
「そうね」
「そんな。大袈裟よ。こんなの少し寝たら」
「何、言ってるの」
「アルフレド君。これからもフィーネを頼むよ」
「え…。そんなことは…当たり前…です」
状況を呑み込めない二人と、全てを把握している村人たち。
だからこそ、村中はフィーネの両親の忠告を無視して盛り上がっていく。
「…そんな。ありえないわ」
「何を言ってるの。遅いくらいだわ」
「遅いって」
「今まで悪いと思っていたんだ。村の復興で、そんな暇もなかったんじゃないかと」
「えっと。パピルスさん、何を…」
「本当は、夫婦でゆったりと過ごさせてやりたかったんだ」
アルフレドとフィーネは目を合わせる。
そして顔を赤らめる。元々、惹かれ合っていた二人なのだ。
だけど、真っすぐな性格のアルフレドは正直に語った。
「で、でも…。結婚式もあげていないのに。アーモンドさんから許可も得てないし」
「今からでも報告をしないと」
「それもそうねぇ」
「あぁ。それがいい」
連れていかれるのは、この村になかった墓地である。
この辺りから、周囲とのズレがハッキリとしてくる。
「…うそ。村長御夫妻…が魔物に襲われて…」
「く…。俺は…そんなことも知らずに」
「アナタ…」
「あぁ…」
二人の異変を感じ取ったフィーネの両親は、二人を家に連れ帰った。
それから暫く経った後、アルフレドとフィーネは三人の子を授かったという。
◇
レイは首を傾げた。
今の映像は何なんだというツッコミは途中でしていたけれど。
それにしても。
「うんうん。問題はなさそうだな」
「…この時点ではね。それじゃ、次。順番に行くから」
『エミリの物語』
エミリは金色砂糖いもの香りを頼りに、ギリー農場を目指していた。
といっても、あの場所からそんなに離れていない。
道も父から聞いていたからか、何となく分かった。
あちらの二人は、何処からどう見てもカップルだ。
「アタシ、こっちだから」
なんとなく挨拶をして、我が家に戻る。
そこでエミリは大事な事を思い出した。
「あ…れ…?アタシ…。急いで帰らないと‼」
家の周囲で不穏な気配がして、急いで家に入れと言われていた。
「アタシだけ逃げてきちゃった…?…あれ、でも」
不思議なことに、妙な気配は消えている。
匂いでも分かる。既に消えた、ではなく殆ど魔物の匂いがしない。
平和そのもの…。しかも畑は豊作。
だけでなく…
「お父さん‼お母さん‼」
「エミリ‼」
そして、このタイミングで畑の中央に、彼女が現れた。
『魔王は滅びました。ですが、悪が滅びることはありません。かの魔王は、いつの日か必ず復活するでしょう。人間たちよ、備えなさい』
女神様かと思ってしまうくらい綺麗な人。っていうか女神。
そして、膝から崩れ落ちるエミールとキリ。
エミリが不思議に思っていると…、二人は言った。
「あぁ。だからドラグノフはいなくなってしまったのか…」
「レイ君の噂は聞いていたよ。勇者君と戦っている…とか」
「二人とも…、何を言っているの?」
「何をって…。ん?エミリ、なんて破廉恥な格好をしているんだ」
「破廉恥…。って、アタシ、凄い格好してる‼」
「どこぞの悪い男に掴まってたんじゃないのか?」
「そんなことない。アタシ、お父さんの言いつけはちゃんと守るよ」
そんなエミリも体調の変化を感じていた。
やけに重い。やけに気分が悪い。
そして聞かされるのは
「エミリは魔王様と仲が良かったんじゃないか?」
「魔王様…?…知らないよ。それに魔王だよ?様をつけるなんて」
「あ、あぁ。そうだね。デスモンドとネクタの被害は聞いている。結局、勇者と魔王は戦う運命…」
「…それよりエミリ。早く、家に入りなさい。随分、体調が悪そうだよ」
久しぶりに我が家に戻ってきた、なんてエミリは思えないけれど、エミールとキリ―は必死で今までのことを説明した。
そして、ついに——
「私のお腹に子供が…?」
「エミリ、それはもしかして…」
「そんなわけない。アタシはそんな軽い女じゃないし‼」
家を出て、帰ってきたら妊娠?
絶対にあり得ない。ただ、この体調の悪さは、母から聞いていたモノに近い。
「そうよね。エミリは軽い子じゃない…」
「魔王は倒されたのだし…」
とは言え、一体誰の子か、なんて話は深掘りされなかった。
その理由は、女神メビウスの登場が余りにも衝撃的だったからだ。
「女神様はアタシの前に現れた…んだよね。備えよ…。つまり、この子は…」
それから暫く経ったあと、エミリは五つ子を授かった。
そんなに産んだら、エミリの体が危ないのでは…、なんてことにはならない。
だって彼女は、とんでもない金の器を受け継いでいる。
しかも、御伽話で出てくる魔物の器だ。
ただ、やはり暫く体は動かせなかった。
「そっちを頼む‼」
「へい!」
彼女の父は誰かを雇ったようだった。
前ほどではないらしいが、勤勉に働く男だったらしい。
キリのパーフェクトガードで、最後の最期までエミリは、その小作人に会えなかったけれど、ある夜父とその男の会話を聞いた。
「…なるほどね。過去の贖罪か。もっともっと勉強を…」
「はい。俺は…。親不孝者で…。親父とお袋にいつも叱られて…。だから、地位とか関係なしに偉くなりたいんです」
父はこのまま雇うつもりでいたらしい。
でも、彼のひたむきさに胸を打たれた、と後で行っていた。
「だったら、ネクタに行くと良い。あそこならもっと知見を広げられる」
「ネクタ…か。…って、エミール様。それは」
「何を言ってるんだい。青田買いって奴だよ。最近、取引先が減ってね。…それにこの世界を見て回りたいって…。昔の僕を見ているみたいで、応援したくなったんだよ」
それ以降も何も、エミリはその男を遠目にしか見ることがなかった。
そして、その長身の男は早朝に東に向けて旅立ったと、後で聞かされた。
「誰だったんだろ。ま、いっか。アタシもそろそろ働けそう。天使さんの世話をお願いね、お母さん」
◇
レイは肩を落として、溜め息を吐いていた。
「なんとなく想像できた。…でも、レイモンドの動きは少し変わっているな」
「そうだね。彼だけ、少しだけ知ってる風だった。どうしてなんだろ」
他のヒロインとの違い。
それは…
「あ、そっか。レイモンドは記憶が戻らない組か。俺が奪った記憶はレイモンドではない行動の部分。…つまり、両親が死んだことを覚えている。それと…、過去設定としての両親との思い出を覚えている」
だからスタトに戻らなかった。
そして、自分の道を探し始めた。
変わらないといけないと、考え始めた。
「頑張れよ、レイモンド…」
「って。そういえば、ここも。今はここまで、の話だからね。それに、ここからドンドン目も当てられなくなるから」
神様かと




