第193話 今回の世界の着地地点。
「世界の容量不足? でも、この世界、何でもありだったような?」
女神の名はシクロ。
シクロがこの世界のことを教えてくれる。
「お主、一つ前の自分がやったことを忘れとらんか? そういう意味ではお主は前のお主に感謝すべきじゃな」
前と違うこと、それはあまりにも簡単なアレだ。
「そのせいで苦労したんだよ。前の俺は次のプレイヤーキャラにレイモンドを選択した。それで世界が変わっていったのか。うん、なるほど。」
そこで再びコントローラーが鈍器となる。
「馬鹿者。早計にも程があるぞ。そもそも——」
ここは女神の間、と言っても真っ暗だから何が何だか分からない。
だが、突然現れる。
『ニューゲームを開始しますか? YES? NO?』
まるでゲームの世界のようだと思ったメッセージウィンドウだ。
「え…。既視感しかないんだけど…」
そこで、ニイジマレイは息を呑んだ。
隣に居た筈の女神。半分が白で半分が黒の女神だったのに、この場所に来た時のように真っ黒な髪色が全てを占めていた。
今の彼女の色は正に漆黒。つまり殆ど視認できない。
「コントローラーが何処かとか、言うておったな。で、どうするんじゃ?」
「どうって…。NOだよ。ここまで頑張ったんだから‼」
すると、キン!という音と共に巨大な文字は消えた、…と思いきや再び電子音がなり、文字が紡がれる。
『本当にそれでよろしいのですか? YES? NO?』
あの時と同じなのに、今は違う意味に思える。
ヒロインは燃えていない。世界も燃えていない。
ただ、そこに自分はいないのだけれど…
「ここでもう一度確認が出るのは…、出来上がった世界で良いかどうか。勿論、イエスだ。散々頑張って来たじゃないか。…ってか、この画面ってシクロが操作してたのか。居てくれたなら言って…。いや、俺が忘れてたんだったっけ」
「ドラステワゴンは音声認識に対応しておらんじゃろう?では、YESを選ぶとしよう。やり直しはせんで良いのじゃな?本当に良いのじゃな?」
シクロの指はボタンに触れるか、触れていないかのところで止まる。
二回目の確認は、『NO』を選びたくなる。
何せ、勇者はおろか、ヒロインたちの記憶を奪った世界の果て。
丁寧に経験値と言う名の記憶を消した世界だ。
でも、問題ない。全俺がこれでいいって言ってる…
だから、レイは大きく頷いた。
「…ってか、世界の裏では普通にメッセージウィンドウが出ていたってことか。もしかして…、毎回この場面に来ていたのかな。ってことは、俺の記憶を消すが正解だった…。アルフレドでプレイしていても、辿り着けた…かも」
ここでNOを選んだら、女神は躊躇なく世界の再スタートをするだろう。
だからって、もう迷わない。
ピッ
「さぁ…て。どうじゃろうか?」
「う…、そうか。記憶を消すには経験値を消すしかない。でも、レベルドレインは『ドラステ』には存在しない。ゲームだから在りそうではあるんだ。それから…。あ…。あれ?存在したかもしれない…のか。だって」
世界の再編は行われない。
綺麗に終わった訳じゃない。綺麗に終わらせちゃいけない。
そして、アルフレドでプレイしても辿り着けたかと言うと、…知っていなければ無理と結論づけられる。
何せ、レイモンドの攻略は不可能に近い。
「ふむ。新島礼はゲームをコンプリートしていたわけじゃない…。じゃろ?そもそも、あの力はワシのモノではないだろうに。まぁ、名前については…些か誤解があったようじゃが…、な、イーリ」
「って、俺っち⁉違いますって。前から『破壊者』と思ってたとか…、ありえませ…」
イーリが吹き飛ぶ。
彼はさて置き、イーリを見た時に思ったように、新島礼には知らないキャラが居た。
あっちの記憶にさえ登場していない。
そもそも、ニイジマレイの記憶を持ったアルフレドは恐ろしく狡猾だった。
八番目のヒロインの手柄さえ、自分のモノだと即断したくらいだ。
つまり九番目のヒロインは見つけられていない。
八番目のヒロインを見つけないと登場しないキャラが、あのサラだ。
そして、レベル調整機能が追加された。
「エンドコンテンツ用の改変か…。確か、サラが持ってきたんだったな。真のラスボス前に現れるのがサラ。彼女に話しかけることで、新たな設定が解放される。在りそうな流れ…。っていうか、システム?」
「それも重要じゃが、まだ足りんな…。」
女神シクロは再び登場したウィンドウ
『主人公の名前を決めてください。 アルフレド_ 』
に、レイと入力していく。
世界は終わったのだから、アルフレドにレイと入力してもおかしくない。
とは言え、やはりおかしい。
名前を変えたからと言って、別キャラ目線でゲームが出来るとは思えない。
「前のお主の要求で、ワシがレイモンドを選んだことで何が起こったのかのぉ」
「八番目のヒロインと九番目のヒロインであるサラを見つけられた。だから」
「それはそうじゃろうな。だからの前に、だけど…、じゃろう?」
「う…ん?」
「記憶が混在して直前のことも忘れたか?記憶を消す前にやったことがあった筈じゃ…」
すると、新生『レイ』の肩が浮く。
「…神様には関係ないかもだけど、やっぱり俺達には時間ってあって、未来もあって。…だけど、あの世界に未来はなかったから」
「ふむ。どうしてそう思ったのか、教えてくれんかな?」
「単純な話だよ。邪神をも倒せる勇者たちが住む世界…って、余りにも危なっかしくて…。そもそも、インフレーションが酷くて。あ…」
逆に言えば、そうなっていなかったら、作り直していたかもしれない。
「もしかして…」
神が概念であればこそ、一定のルールは守る。
そのルールさえ無視するのも神かもしれないけれど、彼女の場合は。
彼女が手に持っているのが、何かという話なのだ。
「ゲームを終わらせてたのって…。シクロ?」
「ん?ここでの記憶も失ったか?やれやれ」
「いや、そうじゃなくて」
「うむ。冗談じゃ。やっと気付いたの。あのまま放っておけば、燃やさずとも崩壊する。流石のワシもインフレーションした空間はどうにも出来ん」
「リセットが出来なくなるのか。二度目の確認も何も…」
そう。
なんでもかんでも壊すわけではない。
シクロは創造神でもあるのだから。
「と、引っ張るものでもないかもの。——まぁ、イメージとして描くならこんなもんじゃろう」
そして女神は空中に四角の立方体を浮かび上がらせた。
コントローラーを握っているので、それで操作しているのかもしれない。
「これがドラステの世界…。うんうん。あの世界地図て四角いし…」
「で、終わったら」
「消えた…。そしてまた浮かび上がる。あの中に世界が入ってる、なんて信じれないけど、ゲームって考えれば、当然…か」
こうやって見ると、時間がないのも頷ける。
画面の中の世界はいつだって、リセットすると最初に戻る。
地球は超文明をひっさげた宇宙人による実験場、ってのが信じられそうな光景だ。
「てっきりループする円が出るのかと思ったけど、それだと時間の流れがあるんだもんな…」
「それでも良かったがの。ただその見せ方じゃと、今回の世界の説明がややこしくなるからの」
「今から難しい話をしようとしてる?俺、ループの方が分かりやすいんだけど」
ループモノだから、光の帯の輪。
メビウスなんて言っちゃってたくらいだから、そっちの方が分かりやすい。
だけど、目の前にあるのは立方体のままだ。
そこに、マスコット型のレイモンドを出現させて、女神は言う。
「帯状の輪っかなら、アルフレドが表でレイモンドが裏…って出来たけど。同じ空間に二人。…これってさ。俺がアルフレドでもレイモンドでも同じじゃない?」
「そうじゃな。ここまでは変わらん。じゃが…」
どうやらリプレイ機能まで備わっていたらしい。
女神が持つCS機は、かなりのハイスペック。
世界を作っているんだから、次世代機どころではない。
「あれ…。俺は何をしてるんだ?レイモンドが止まったような…」
「とは言え、現時点では何も意味はないからの。先に行くぞ」
彼女がコントローラーのトリガーを引くと、レイモンドマスコットが再び動き出した。
他のキャラクターもいて、勇者とは別の位置に自分はいる。
そしてまた、レイモンド君はフリーズを起こした。
「なんか…。俺だけバグってない?」
「バグっておるよ」
「そうだった。俺は存在自体バグだもんな…」
「何を言うておる。女神公認じゃから、存在はバグではない」
「それはそう…だけど、この辺から何度もバグに見舞われたんだった…。でも、…どうして」
「それも置いといて、先に進めるぞ」
何も分からないまま、ジオラマが動く。
今までの旅路のリプレイだから、何が起きるかも分かる。
役を奪い続けているプチレイモンド君は、迷える勇者を無視して爆走中。
青春真っただ中の彼にとって、今まで嫌なヤツだったレイモンドの活躍は、納得がいかないモノだった。
しかも、レイモンドはお前が勇者、主役だと言う。
これって絶対にストレスを与えていただろう。
勇者のことを放っておき過ぎ…。それはそうだった。
一本道シナリオなのに、裏に回ったら一本道じゃなくて…
闇落ちフィーネに操られていたことを差し引いても、好青年が歪む環境は出来上がっていた。
しかもその後、本に拘ってアズモデと接触するに至った。
「何をぼーっとしておる。ほれ、ここじゃぞ」
「あ、ちょっと罪悪感と戦ってて…。って、もうボス戦?」
レイモンドになっても、ニイジマになっても世界は変わっていない。
結局、特別なことは何もなく、魔王レイモンドは邪神と戦う。
そこでぐしゃぐしゃになって、更には勝手にカップリングをして。
「元々、魔族側に拘りがなかったゲーム。俺は介入しまくっていたけど、それって世界作りには影響がなかったのか。」
「その通りじゃな。ラビとしてのワシの登場とて、世界を揺るがすものではない。で…」
壁抜けバグを使ったとて、それもゲーム世界だから想定の範囲。
色々やったけど、結局世界は崩壊していない。
壊す気満々だったらしい『ニイジマレイ』は何も出来ていない。
——ただ、ここからだった。
「あれ…。なんかゲーム画面が大きく…。あぁ、細かく見る為に大きくしてくれた…のか」
「違うぞ。プレイヤーが、名ばかりの邪神と一体化した。そこから世界は変化していった…」
レイは目を剥いた。
32インチのテレビが100インチの大型モニターに変わったくらい世界が大きい。
「お主の考えがワシの体を伝い、世界を変えていった」
「俺が過去創造を始めたのは、シクロの力って言ってたよな。でも、アレって過去設定を弄っただけって、シクロ自身が言った事だろ?」
「そうじゃ。じゃがまさか…。外から見るとこのようになっておったとはの」
スタトに行って、そこで立方体の形が少し乱れた。
ギリー農場に行って、更に形が歪んだ。
ただ、そこで全てが止まった。とは言えそれはエラーでもなんでもなく、
「少し巻き戻るぞ」
シクロがボタンを押したからだ。
「え?何か、見逃した?」
「いいから見ておれ」
世界のジオラマにシークバーが現れて、女神はとある場所でボタンを押した。
すると、人間の記憶を持つレイには考えられないことが起きる。
戻った場面は、エルザを助けたところだ。
例のレイモンドフリーズバグが起きた場所だ。
だけど、さっきとは何かが違っていた。
「さっきは見えなかったのに、…これってプラチナ素子の動きが変わってる?」
「念のために言っておくが、このジオラマはお主に分かりやすく映しておる。とは言えじゃ。ワシの力でゴールドとプラチナの設定を変えたことが、その場面に影響を及ぼしたんじゃな」
「はぁ?だって、時系列が…。アレは後から決まったことで、この時はまだ…」
「時と呼んでも良いが…。レイ、お主は世界の在り方を定めた。であれば、この世界はそういう世界だった、となるに決まっておる」
「…え?それで過去まで影響が…?それでシナリオが変わった…とかじゃないけど」
起きた事実は変わらない。
ただ、レイモンドのフリーズが起きた理由が、今は見える。
大量のプラチナが空間から現れて、レイモンドに注ぎ込まれている。
これは秘密の塔の時も同じだった。
それから
「あれ?こんな世界だったっけ…。境界線が朧に…なっているような」
「そうじゃな。レイが過去設定をしたことによって、住民に、世界に、全てに変化が起きた。そもそも、この世界はゴールドとプラチナで出来てはおらなんだぞ。強いて言うなら、0と1じゃ。データじゃからな」
「データって…。そりゃそうだけど。世界である以上、法則がある筈だろ?」
「ふむ。世界とはそれほど、複雑なモノであったか?」
創造神に絶対に言われたくない言葉だが……
「だって、0と1じゃ絶対に足りない。ゴールドとプラチナの素子だって、きっとプラスとマイナスがある。もしかしたら、回っている方向で違いもあるかもしれない」
「在るがままでは済まぬのか。難儀な世界じゃな。仮説を立て、机上で実証し、それが正しいとされる事象を観測する。その繰り返しで人間基準で世界を読み解くのじゃろう?」
女神の半眼がレイの瞳に突き刺さる。
シクロはとある世界の話をしている。それが傲岸不遜な行為と見られたのか、もしくは難儀なことをと思ったのか。
それはさて置き。
「まぁ、本来。そう簡単なことではないが、観測者が一人で、その観測者が干渉者にもなれる力を有しておる。このキューブの世界を変えるくらいは造作もないじゃろ」
「フィールドバグが直ったんだって。だから、俺には必要って思ったんだ」
「ワシとしては面白かったがの。とは言え、もう気付いておると思うが、このまま行ったら、世界は崩壊する。つまり、これでも詰んでおる」
ハイパーインフレーションと呼びたくなるほど、画面は大きく膨らんでしまった。
その中心に居るのは、魔王レイ。
周囲に居るのは世界の民。
彼らは何もない空間から、素子を取り出している。
これが原因らしい。これが色づく世界の意味らしい。
「元々ごっこ遊びするための世界っすからねぇ。円環の世界のままなら、それはそれで良かったんすけど」
イーリも呆れている。
そう言えば、最後の方の二人はとても冷たい目をしていた。
あれは世界を壊すつもりか、と内心で焦っていたのだと言う。
無論、それは俯瞰する側。
世界を外から見れる神の目線だ。
「良くはないだろ。俺は散々見てきたんだ。この世界の人間だって生きてるんだ。」
「それこそ、ワシだって中に入ってようやく気付いた程度じゃ。外から見ている者には気づけんよ。お主だってゲームで気軽にリセットするじゃろ?」
ゲームだから気軽にやり直せる。
だけど、今回はそうもいかない。
リプレイによると、二人はリセットする為のアイテムを、サラを現場に寄越している。
「人の歴史を作り変えるとか、俺がやってると知った時は正直怖かったよ。確かにリセットも視野に入る…か。それに…」
「そうじゃな。お主はとある基準を以て、ヒロインのリセットをしておったの?アレはアレで良かったのか?」
悪戯な顔で、女神は覗き込む。
そして、レイは視線を泳がせた。
「正に神の所業じゃの…」
「うぐ…」
「そう言や、旦那。躊躇なく、自分の記憶を吹き飛ばしたっすけど、その前にやるべきことがあったんじゃないっすか?」
「う…」
流石にバレている。
神に嘘はつけない。
「未来の為…だよ。悪魔側の設定を放置したのも…同じ」
「とんだシナリオライターじゃの」
「仕方ないだろ。それしか思い浮かばなかったんだ。人間は衰えて死ぬ。そうしないと…」
「そう…。その結果がここじゃな」
過去創造、いや過去設定を弄ったことで、未来へ向けた設定が生まれた。
「世界のインフレーションが止まっ…、…ってないけど…。これって大丈夫?」
「勢いは緩やかになっておる。それに、ある程度で止まるじゃろ。神に等しい何かが居なくなったんじゃからな。悪魔は相変わらずじゃが、膨張は緩やかになった。これは偶然かの?」
「分かってるくせに。そんなに俺に言わせたいのか。…作中に登場した魔族幹部は、ドラグノフを除いて全員が独身。全員が子孫を残していない。ドラグノフは旧人類的ポジションだから、その辺は目を瞑ってくれよ」
「まぁ、良いじゃろう。ドラグノフも魔族になってから、子を作っておらんしの」
人族には老いが残り、子供に力を託すという設定が加えられた。
そして、魔族は子孫を残せない代わりに永遠の命を得た。
これで、一先ずのインフレーションは止まる。
「お主はメビウスが押し付けた過去創造だ、などと誰かのせいにして、ビックリしておったがな」
「あの時言っただろ。フィールドバグが起きてたって」
「取り除くことで、素子の暴走が始まったがの」
そんなこと言われても、という顔しか彼には出来ない。
実際、当時のラビに教わらなければ、アレらを自分でやっていたなんて気付けなかった。
そこで、女神シクロはレイモンドくんを指さした。
そして、宙に浮いた球に亀裂を入れ始める。
亀裂から悲鳴のようなものまで聞こえそうだった。
——いや、実際に悲鳴は聞こえていた。
心の奥から少しずつ、こみ上げてきていた。
「って、最後は大変だったぞ。俺が遊んでいたからってのは分かってるけど」
勇者だけでなく、ヒロインにも全ての記憶が戻っていた。
仲良くなったヒロインたち全員が、『レイ』を恨んでいた。
ただ、これも女神シクロとその使いイーリは半眼。
「お主はメビウスが押し付けた怨嗟だ、などと誰かのせいにしておったな」
「そう言ってたじゃん。俺に怒って、それでって」
「それはそうじゃが…。ワシがワシと名乗る前に、いや名乗れるようになったのは、記憶が戻ってからじゃろう」
彼女の指先が亀裂をなぞると、そこから光の粒子が弾け飛んだ。
その粒子がインフレを加速していく。
「ほら。そうやって…」
「そうではない。ワシは亀裂を触っただけ。それにコレはリプレイぞ?…で、この現象はなんじゃったか?」
「過去設定の影響?いや、プラチナ素子が経験値、記憶って定義したんだから…。あ…。そうか。世界のインフレはプラチナ素子の発生によるもの…。その定義づけが完了したから…、っていうか俺を含めて、どこからプラチナ素子を取り出して。…いや、まさか」
「まさかではない。このハイパーインフレーションのお陰で、ワシは神として権限で来たんじゃぞ。それまでは外から覗き、外から世界を終わらせておったんじゃ。どこから取り出したかは、その空間から…じゃろう。もしくはここか」
だから、あのタイミングだった。
過去設定が完了したのと、記憶とは物質であると定義してしまった。
だから、…取り出しているのは亜空に漂っていた、別のプラチナ素子。
つまり、失われた筈の記憶。
「俺は過去の記憶をほとんど取り戻した。でも、それは俺だけじゃない…」
「そういうことじゃ、愚か者。ヒトのせいにするな。…とは言え、ワシも当事者になれたのは…、ちょっと嬉しいがの」
どうしてこのタイミングで頬を染めるのか。
「自業自得とはいえ、旦那の心中を察すると、俺っちは辛くて辛くて…」
「う…。で、でも…。必要だったんだよ。世界がゲーム世界を卒業する為には」
そうでなければ繰り返す。
もしくはハイパーインフレーションで、この世界が散り散りになる。
「確かにの。まだ、少々歪ではあるが。後は人間様が決めてくれるじゃろう」
「なら、俺は手放せて良かったよ。やっと…。完成したんだ。そもそも荷が重すぎる。世界を堪能するのはゲームだけで十分だよ」
そんな彼の言葉に、女神は優しく頷いた。
「そうじゃな。設定を書き換えられる存在はおらん方が良い。なんでも出来るとは、それ以上のことは、なんにも出来ないということじゃ。ワシは暇で暇で仕方なかった。じゃから、難儀で窮屈そうな人生を送るお主に目をつけたという訳じゃな。はーーーー、すっきりした。ようやっと、真の意味でのネタバレが解禁できたのじゃからな」
少女の女神は両腕をすーっと持ち上げると、くーーーっと伸びをした。
そして半分あくびをしながら、こんなことを告げた。
そういえば、そうだった、という話。
「さて、ワシももう行くかの。ゲームもひと段落したことじゃし、新作ゲームもチェックせねばならんからな」
「は?この世界はどうするんだよ。ってか俺は…」
彼女との約束は、完璧にではないけれど果たすことが出来た。
だから、これで終わり。
「それなりに続くようにシナリオを作ったのじゃろ?」
「まぁ…多分。ここにいたら世界の行く末を見れるのかな…。だったら暫く様子を見てみるよ。ずっと走りっぱなしだったからな。立ち止まったら、やる気なしエンドなんてルールを誰かさんが作ったせいでな」
すると、少女はニコリとほほ笑んだ。
「当たり前じゃろ。神との約束を忘れる愚か者なのじゃからな」
理不尽。だけど、なんとなく納得させられた。
と、同時に女神の間の暗さのせいか、少しずつ瞼が重くなってきた。
「はぁ…。取り敢えず寝ようかな。…ってか、俺ってここで見守って…その…あと…どう…」
「お主はワシのモノじゃ。また、訪ねることもあるじゃろうな。じゃが…、全く。…お主は本当に愚鈍なやつじゃな。」
「全くっすね。」
「また、それ…」
愚鈍というワードを使いすぎだと注意しようと立ち上がった。
だが、…すでに二人の姿は消えていた。
「ぐどん…う…どん…神の…視点で…人を…。ま、いいか」
彼も盛大に伸びをして、上空にぼんやり浮かぶ世界を眺めながら、ゆっくりと目を閉じた。
何も知らず、何もかも忘れて、寝てしまったあの時のように。
真上には憧れていたゲームの世界が広がっている。
「ど…う…。なるのか…な。まぁ…とにかく寝て…う……か……な」
既にあの世界に自分はいない。
だから、考えても意味がない。
静かな女神の間で、彼の寝息だけが音を奏でる。
この寝息こそが、戦いの終わりを告げるエンディング曲?
『NO』を二回選択した後、女神はコントローラーに打ち込んだ意味を考えていない彼は、やはり愚鈍なのだろう。




