第191話 プロローグを回収する。世界の破壊神は
女神から貰った力の意味。
それはあっさりとレイの体に染み込んでいた。
「やっと、分かったよ…」
「なんだと?この偽物が」
魔王に切っ先を向ける勇者。
字面で見ればクライマックスだが、何度となく繰り返された光景。
「お前が死ねば、俺のハッピーライフの始まりじゃねぇか‼」
「本当にそう思っているのか?俺はそんな風に考えていたのか?」
だが、今度こそ最後の場面だ。
レイは確信している。
でも、相手はそう簡単にいかない?
本当にいかないのだろうか。
「魔王軍の技術か?科学が発展してんだもんなぁ。洗脳くらいお手の物か」
「お前はさ。…何を考えてハーレムを作ってんだ?」
漆黒の剣を振り回す勇者と、アーモンドの剣で立ちまわる魔王。
ただ、漆黒の剣の威力は高く、あっという間にアーモンドの剣も漆黒の炎で包まれる。
「ここはそういう世界だ。お前も分かってるだろうが…。だから、大人しくくたばりやがれ。お前が何周目の俺の記憶か知らねぇけど‼勇者の俺が居れば、全部うまく行くんだよ‼」
「…そうだったな。確かに勇者が居ることで全部うまく行く…のかも」
「だったら‼俺の為、そしてお前の為にも死ね‼」
勇者の力はそこまで落ちていない。
というより、本来の勇者レイは率先して戦った筈だ。
戦い方も経験値同様に体に染みついている筈だ。
ソレが出来るだけ、勇者のパラメーターの平均値は他のヒロインよりも高い。
「ヒロインに戦わせてた奴が何を言ってるんだ。勇者は勇敢なモノ。お前だって死ぬのが怖かったんじゃないだろ。恨まれるのが怖くて、先に殺そうとしていたんだろ」
「な…。てめぇ。なんてことを言ってんだ…。ったく、レイモンドが考えそうなことだな‼」
勇敢ではなかった理由。
同じ考えを持つから、絶対に正しい。
そして、身に覚えもある。この世界線でさえ。
「分かってるよ。俺もそうだったからな」
「チィィ…」
甲高い金属音と共に、勇者の剣が弾かれた。
すると、そこから真っ黒な炎が生まれる。
「魔王ヘルガヌスの癖に動きは俺と同じかよ…。お前だって、あの苦しみを知ってるんだろ‼」
「知ってるよ。だから俺も一度は放り投げた。過去の記憶を考えたら、もっともっと」
「ヒロインを放り投げた?…そうかよ。だったら全部同じじゃねぇか。よくもさっきは侮辱してくれたな‼勇者超大雷神斬100連で叩き斬ってやる‼」
「はぁ…。やっぱ発想も同じだな。でも…」
「テメェが死んだらこの火も消えんだろ‼」
「燃えても関係ねぇ。ちょっと待ってろ。剣を…」
「なぁ…。この杖にはさ」
このまま戦っていても、世界が燃えていくだけ。
同キャラ対決なんて、ありふれている。
だから燃え滾る剣を拾いに行く勇者に、魔王は杖を突き出した。
「記憶及び経験値破壊っていう力が宿ってるんだ」
「は?なんだよ、その物騒な名前は。あぁ、そうか。お前は妙な名前を付ける。それもお前が…」
「いいや。…これは女神様に貰ったんだ。その名の通り、…記憶も経験も吹っ飛ぶ」
「それでヒロインが消えてたわけか…。マジで物騒な女神だな。アイツ、そんなことまで出来る…。あれ…」
アルフレドの手が止まる。
そして魔王を睨みつけた。
ただ、その瞳は『新島礼』のモノだった。
「その女神ってのは誰だよ。女神メビウスって世界を作った神…。いや…」
色々と間違っていた。
色々と間違った目線を送っていた。
それはこの世界に必要だと思っていたからだけれど。
「なぁ…、積み木の夢…って覚えていないか?お前は俺よりも多くの記憶を持って…いる…んだろ?」
そして流れが変わり始める。
「積み…木…?」
ピシッ…
何かが割れる音がした。
レイはずっと、自問自答を繰り返していた。
これが正しいのか間違っているのか、誰かと相談したかった。
それがやっと叶う。
「積み木の夢って…。そう…だ。ここに来る前、そのずっと前。俺は確かに積み木の夢を見た。で、頼まれた…」
「…な、何を頼まれた?」
「壊れてしまうから…、一緒に作ろうって。作って欲しいって…」
剣に向かった手は止まり、そのまま頭を抱える。
記憶が蘇るバグがある。レイモンドだったから起きたわけではない。
世界にひずみが発生する時に起きるんだから、今までだって。
これも、自分が特別って訳じゃない。
「俺は…。今まで何をしていたんだ…。だってあの子は…」
同じ人間かもしれない。同じ記憶かもしれない。
でも…。体が分かれている。
今は肉体という壁がある。
時々で、気分は変わる。人間だって変わっていく。
「真っ白い髪…、可愛らしい…あの子は…」
前の世界で見た夢の話。
相談できる相手がいること自体、難しい。
ましてや、ゲーム内転生で登場するキャラに言っても通じない。
「そう…。あの子のことってっさ」
そして魔王と勇者は辿り着く。
——確か、破壊神…だっけ
魔王は目を剥く。
真っ黒な炎を上げる剣が、大地に落ちる。
ずっと喉につかえていたモノが、ストンと落ちる。
「そうだよな‼あの子ってやっぱり破壊の神だよな‼」
「ったり前だろ。あの子が触ると積み木が壊れる。あの子が女神メビウスなんだから…、そりゃこの世界も壊れる」
その女神様が今も睨みつけているのだけれど。
それこそがラビが手を出せない本当の理由。
「俺さ。ずっと破壊神を探してた。そしてやっと…、辿り着いた」
「ってか、その杖の能力。まんまじゃねぇか。俺ならもっと早く…。いや、どうかな。それにしても、ここは良く出来た世界だ。俺には辿り着けなかった世界…」
「いや…。レイモンドになった時には、殆ど完成されてたよ。アルフレドの時は、碌でもないゲーム生活をしていたらしいけど」
金髪の美青年は肩を竦めた。
「反論する気もねぇよ。目的なんか忘れてたんだし…な。でも…」
「碌でもないことでも、塵も積もれば…やつだな。少しずつ世界は変わっていった…」
「それは、もう良いだろ。最後の最期はアルフレド対レイモンドで、ちゃんと締めようぜ。勝った方がその杖を使えるってことで」
同じ人間だからこそ、話が纏まるのも早い。
「…そうだな。勝負するか」
「どう考えても俺が不利だろ」
「そうでもないって。2mとか高すぎるってんだよ」
杖を真ん中に置いて、よーいドンで走り始める。
途中でも会話を弾ませた。
「ってか。なんでこうなったんだ?」
「それは知らない。でも…」
「この後、何をするか。もう、分かってんだろ?…それにやっぱ俺が不利じゃねぇか」
結局、リーチの違いを活かして、レイモンドが勝利を収めた。
そして、
「スパッとやってくれ。…この体を持ち主に返さないとならないしな」
遂に勇者が敗北の時を迎える。
「分かってるよ。とりあえず、ゲームクリアだ」
——『記憶及び経験値破壊』
「ふぅ…。やっと溜まってた積みゲーが出来る…なんて…な…」
最初は、あのアルフレドだから破壊神に目をつけられた、と思っていた。
でも、迷いながら前に進む彼の姿は、とても人間らしかった。
良い意味でも、悪い意味でも、だ。
いきなりプレイヤーの記憶を持ったヤツが、ライバルの体に入ったのだ。
勇者様でも、多少は性格が捻じ曲がる。
「アルフレドは父と母を知らない。それでも頑張ってたんだよ」
ヒロインたちと同じく失神した彼の顔を覗き込んで、一度肩で息をする。
最後のかけっこは何の意味もない。
余りにも尻切れになってしまったから、やってみただけ。
「俺がいなくなっただけ。で、こっちも同じ。お前もだ、レイモンド。お前にも過去の設定が出来た。ちゃんと覚えているだろ?まぁ…、スタトじゃ生きにくいかもしれないけど、アレだけの境遇に耐えたお前だ。この世界線だと勇者の為に悪魔になったんだし…。導いてくれる兄貴もいるんだし…な」
自らの顎に杖の先を当てて、大きく息を吸う。
「勇者はクリア後、力を持て余すかと思った。だけど、それはない。金の器は少しずつ、少しずつ…。小さくなっていくんだ。神から離れていく。…なら、神に等しい力を持ったプレイヤーは居ない方がいい…」
少しだけ名残惜しい。
でも急がないと、近くで失神しているヒロインたちが燃えてしまう。
「世界は完成した。…それじゃあな、ドラステ。俺もここでクリアさせてもらうよ」
——『記憶及び経験値破壊』
一瞬だけ、色んな記憶が蘇った。
でも、その全ては彼には不要なモノ。
そしてレイモンドはその場に崩れ落ちた。
プラチナ投入前、即ち人間だった頃の例の姿で、レイモンドは崩れ落ちた。
かけっこでアルフレドが勝った場合は、彼も同じことをした。
同じ人間だからこそ分かる。これが新島礼の考え方なのだ。
——そして、この世界からプレイヤーが消えた。
プレイヤーがプレイしないゲームは存在しないも同じだろう。
だけど、世界はこんなにも生きている。
正しく過去の設定を行い、正しく未来の設定も行う。
そこまでやった後、女神メビウスに『約束を果たせた』と言うのが、おそらくは正しかった。
偶然辿り着いたのか、何度もやれば辿り着けたのかは分からない。
こうして、ドラステワゴンの世界は、プレイヤーがいない世界となった。
そして、動き出す。
「アレ…?ここは…」
「っていうか、誰?赤い髪と金色の髪と水色の髪と銀の髪‼」
「あ、そいつに近づいちゃ駄目よ。レイモンドはね」
「あ?そういうのはもう卒業だよ」
「ん?レイモンド…。何かあったのか?」
「親父とお袋のことを思い出した…」
「え、えっとぉ。ギリー農場ってどっち?」
「あぁ、それなら」
「私たちの村の方ね。途中まで送るわ」
「ほんと?助かる‼」
「でも、ソイツには近づいちゃ駄目よ」
「だから、そういうのは卒業したんだって」
近い年齢の男女が、若々しく喋る。
「君は…」
「ネクタだよ。私はあっちだから、それじゃあね」
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。マリアは鍛えてるから」
それぞれがゲームスタート時点に戻っていく。
その様子を見ることは出来ないのだけれど。
◇
彼の視線の先にいるのは、——真っ黒の髪の真っ黒な瞳の少女だった
「…えっと。どなた?」
「やっと出会えたのぉ。お主は探しておったではないか。で‼ワシが破壊神じゃが?」
彼は目を剥いた。
そもそも、目があるのか分からない。
けれど、なんとなく感覚があった。瞼の、そして眼球の。
「いやいや。俺が知ってるのは真っ白な髪で」
「そんなわけなかろう‼あんな真っ白な見た目の破壊神がいてたまるか‼あやつは創造神じゃ」
目の前に居たのはラビではない。
真っ黒に染めたとしても、そうはならない。
「いや。だってさ…」
『違うの…、もう一個乗っけたら…』
少女は積み上がった積み木の一番上に、大きな積み木を乗っけた。
高く積み上がった積み木は崩れていく。
「何度やっても崩れてしまうの……って言ってたし。白い髪、赤い目で。そんな見た目じゃなかったし」
「ぬぅぅぅう‼それなら…」
真っ黒な髪、瞳の色が暗闇に解けていく。
そして、真っ白な髪、真っ赤な瞳に変わった。
「これでどうじゃ‼これこそ、創造神に相応しい…」
「ん。それじゃ積み木、組み立ててみて」
「ぐ…ぬぬ…。っていうか、早く気付け。…馬鹿者」
と言われても…
「あの時は創造神って言ってたし。神様が嘘を吐くなんて発想はなか」
「旦那ぁ。…空気読んで下さいって」
「いやいや。だって…って、イーリ‼イーリ、生きてたんだ…」
「神様の使い魔っすよ。あれで死ぬわけないっすよ。つーか、ここは生も死もないメビウスの間ですし」
「う…、そう…だった。だったらカッコつけずに、俺っちは死なないって言えよ」
「それは嫌っす。カッコよい俺っちでいいじゃないっすか」
思い出すだけでも恥ずかしい。
そもそも、あの時。ラビはイーリに何も言ってなかった。
彼女はこうなることを知っていたのだ。
「それより…旦那、早く謝ってください」
「…そうか。イーリ。俺を庇って…」
「じゃなくて‼俺っちのことはいいから、謝ってくださいって」
目の前で白い髪の少女が、ラビと同じ表情で睨んでいる。
結構前から、ラビも睨んでいたし。
「謝って!ちゃんと謝ってぇ」
やっぱり子供じゃねぇか!とツッコみたくなる。
その気持ちを大人だから抑え込む。
…って、あれ?
「あ・や・ま・つ・て」
「分かった。謝るって。…えと。つまり…」
少女の姿が、正確には色が変わっていく。
ややこしいことに、半分は真っ黒。
つまり…
「作るのが苦手なだけなの‼だから、謝って‼」
「黒い側面が創造って…」
『破壊と創造』は合わせ鏡。
そして分かりやすく、この世界も正義と悪の二つで一つ。
偶然そうだったのか、そうなるように出来ていたのか。
光と闇、人間と魔族、金と白金、白と黒、経験値とゴールド、男と女
元々この世界は二対一組で成り立っていた。
黒髪の少女が本物のメビウスか、白髪の少女が本物のメビウスか。
そんなことはどうだって良い。
あの夢の中で、レイは朧げに少女を見た。
——そして白い時に積み木を壊していた。
黒い方は見ていない。だって、あの時積み上げていたのはレイだったから。
「だから、俺は気付かなかった。っていうか、忘れてたのか。それに」
白い髪と、赤い瞳しか見えなかった。
黒い髪と黒い瞳側の時の彼女を見つけられなかった。
「ゴメン。完成が遅れて…。あと…気付かなくて…」
世界を完成させるという約束を忘れて、女神メビウスという破壊神の存在も忘れて。
勝手に一人で遊んでいた。
ラビはイーリという眷属を作るような存在だ。
とっても寂しがり屋なのだ。
いや、寂しがり屋とか関係ない。
無視をされたと思って、メビウスは嫉妬の炎を燃やして、アンチになった。
「時間かかりすぎだよな。何度もチャンスがあったのに…」
暗闇の中で、体があるのかないのか分からないまま、白と黒の両方を持った少女に頭を下げた。
「本当にゴメン。やっと完成したよ」
すると。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん、やっと気付いて貰えたよぉぉぉぉぉぉ」




