第189話 この回にゼノスは出てこないけど、やっぱりゼノスは有能
勇者はブチ切れていた。
プレイヤー格を持つ彼にも、あの映像は見えている。
初めて見せられたから、奇妙だとも思った。
だけど、今の話の流れが気に入らない。
「何、勝手にゲーム作り変えてんだよ。出来たシナリオもくせぇし‼王様が全部の黒幕ってか?んで、俺のせいで世界が壊れるってか?こんなの信じるんじゃねぇぞ‼」
それはプレイヤー格のアルフレドだけではなかった。
そもそも、同じエリアにいるのだから、皆の目にも映っていた。
しかも、その設定が変わってしまえば、花嫁たちの背景も変わる。
「…そう…よね。王が破滅を望んでたなんて…、私は聞いてない。何のためにここまで頑張ったのか…、分からない…じゃん」
「パパとママ…。破壊するお手伝いをしたってこと?そんなの酷いよ…」
「で…、でも。レイは嘘つき…なんだよね?だって」
「あぁ。そうだな。それで全部カタがつく。ま、歴史なんて権力者が都合よく作るものだ。アイツらにとって、そう考えた方が都合が良いってだけ…」
その時だった。
パチッ…パチッ…
何かが弾ける音が聞こえた。
そして、真っ黒な火の粉が僅かに散った。
何度となく、レイを孤独に追いやった世界の終わり。
何度となく、花嫁たちに睨まれた理由となった絶望。
「アル、それは‼」
「あぁ。全く…。やってくれるな、魔王レイ‼全部、俺のせいにしやがった」
「そんなことない。どう考えても…」
「うん。やっぱり、世界を壊すのはレイ…なんだよ」
この流れだと、やはりレイのせいになる。
ある意味で勇者は成功している。
リスタートで、再びアルフレドになればいいだけ。
何なら、レイモンドにレイを押し付ければ、次も誰かのせいに出来るかも。
やり直すことよりも、大好きなキャラに恨まれる方がずっと辛い。
「本当にそんなことが可能なのか?…ってか、この世界で終わりにするんだ」
勇者も魔王も、この辛さを知っている。
ただ、一人。
「レイ。これはなんだ?もしかして…、これが世界の終わり…」
「そうだよ、ルキフェ。アズモデ時代にずっと望んでいたことだ。で、どうなるか」
「あぁ。そうだね。僕はどうかしていた。戻ったって、母さんは蘇らない。それに…、ここで終わったら母さんとの約束が果たせない…」
何度も、何度も。
世界が終わる手伝いをしていた彼が変わった。
だったら、約束を果たすだけだ。
「ルキフェ。頼みがある。ここから…」
「逃げろなんて言うなよ。僕は兄として」
「いいや。違うんだって。これは兄さんにしか頼めないことなんだって」
「全く。便利な言葉だねぇ。それで僕にしか出来ないというのは」
「これをずっと渡したかった。その力を使って——」
勿論、ここから逃がしたいという気持ちもある。
だけど、これは本当に彼にしか頼めないこと。
「確かに。それは僕にしか出来ない…か。それにしても、君から貰えるとはね。でも…」
「大丈夫だって。俺は死なない…。同じ父と二人の母に誓って…な」
「そう…だね。でも、…この世界は君しか紡げない。だから、レイ。…頼んだよ」
アズモデはデズモア・ルキフェを取り戻して、魔王の幹部の魔法を使って姿を消した。
その様子は遠くで見ている勇者たちにも伝わる。
「え?邪神になって逃げちゃったよ?ど、どうしよ」
格が落ちるのだから、それくらい分かる。
「慌てるな、エミリ。言ったばかりだろ。アイツが世界を滅ぼすんだよ。だってアイツがレイなんだぜ」
「そうじゃん。いつもレイの周りから黒い炎が上がってた」
「だったら、アイツを倒せば世界を救えるってことじゃん」
「でも、アズモデが居そうな場所は分かってるわけだし…」
「後回しだ。今回もレイの周りで炎が上がってるんだ」
実際、アルフレドの言っていることも頷ける。
黒い炎が現れなかったら話は違うが、今が最後の時なのだとレイを含めた全員がそう思っている。
「破壊神の力を勇者が持つ…か」
「誰が破壊神だ。ま、勇者ってのは確かに化け物みたいな存在だけどな」
「まぁいい。互いに戦う目的が出来たんだ。早く上がって来いよ。時間制限があるってのは…、分かっているよな?」
魔王は自慢の高身長を生かして、四人の人間を見下した。
そして、四本の指をくいくいと曲げる。
「あ?何を言ってるんだか知らねぇが、てめぇを倒せば解決するだろ」
勇者の記憶には、続きを選んだ時のモノがない。
今更、ソレが役に立つとは思えない。
「アルフレド。バフをかけよ。あと…」
「マリアとフィーネは後ろだ。俺とエミリで前を張る」
「マリアも行けるよ」
「私もね」
遂に勇者が前に来た。
メンバーはネクタまでで集まるヒロインだ。
四人が抜けた穴をどうするかを相談している。
後はどうやって絶望させるか、という戦い。
「納得するまでバフをかければいい。まだ…、時間はありそうだ」
もしくは破壊神を追い詰めるか。
体感で五時間くらいは持つ…かな。
「光女神速度倍化」
「光女神の怒り」
「魔法・物理防護魔法」
それを合計して三十回。
記憶の中の真っ黒な炎はボタン雪のようにゆっくりと落ちている。
ラビ様のエリアが、ここでも活かされる。
「もしも、絶望を感じたら…。直ぐに教えてくれ」
「はぁ?アンタなんかに絶望するわけないでしょ‼」
「そういえば、ソイツってアイツだよね。ネクタの酔っぱらい」
「そうだよ。あの変態野郎だもん。絶望なんて死んでもしないんだから‼」
また、怨嗟が強まった。
絶望しそうもない花嫁たち。
そして、
「レイモンド。お前を殺せば、全部解決するんだよ」
「そうよ。やっと見つけたんだから…。この世界を終わらせない方法を‼」
士気も万全。
バフもてんこ盛り。
「その前にレイモンド。今日くらい、正々堂々と戦えよ。部下を呼ぶとか寒いことすんなよ」
「分かってるよ。何なら、前にやった女神の像の結界を作ればいい。いや…」
「あ?今更怖気づいたか?」
そして、四人の目が剥かれることを、魔王レイはやる。
魔族の強さは役だ。
だったら、これだろう。
「魔人レイに戻った。この状態なら魔王軍幹部専用魔法のイツマゾクが使えない。強さは…って、分かるよな?」
「秘密の塔、もしくはデスキャッスルのお前か」
「そうだ。これでも気を使ってんだよ」
「これ以上、恨まれない為にか?」
勇者がニヤリとする。
やはり、分かってしまうのだ。
「はぁ…。それでいいって」
「そんなことしても、アンタへの恨みは変わらないんだから」
「ねぇ。アイツ、怪我してるでしょ?とっとと終わらせましょ」
「って‼マリア‼口に出しちゃダメでしょ‼」
「ほんと、口が軽い桃色娘ねー」
魔王ヘルガヌスが魔人レイになった。
余りにも譲歩し過ぎなくらいだ。
あのマント姿。一張羅。ちょこっとだけの角。
とても懐かしい姿。
「…はぁ。フィーネは賢者だろうが。この状態の俺は回復魔法を持っていない。だからさ…。俺のちゃちな攻撃なんて気にせずに、レベルカンストの実力でかかってこいよ」
◇
魔王という称号を捨て、久しぶりに魔人となった。
ルールというモノがあるから、流石に人間には戻れない。
「なんだ?やはり、怖気づいているのか?」
三白眼で睨みを利かせる金髪の勇者。
一張羅にとげとげ肩パッド、紫マントの銀髪悪魔。
雌雄を決すべきと、向き合う五人。
まるでデスキャッスルでの再現だ。
「今回は替え玉なんて使うなよ」
「使うかよ。長引かせてどうするんだ」
「そうだな。何せ、お前を倒さなければ、世界は終わるんだからなぁ‼」
アルフレドが持つ、聖剣『SUV』が唸る。
そして、魔人レイの爪の一部が剥がれ落ちる。
杖が無くなったから、武器が一本しかない。
なんて、考えている場合ではない。
そこで更なる剣劇が飛ぶ。
そこに炎属性魔法もやって来る。
「超大火炎魔法‼大人しく死になさいよ、レイ‼」
『嘘つき』という言葉のせいで、説得なんて出来ない。
燃え上がる怨嗟のせいで、話にならない。
いつか、アルフレドとフィーネとエミリで駆け抜けたネクタまでの道での戦い。
そこで、烈火の如き勇者達の攻撃が始まる。
「育ったアタシの力で、あっという間に死ね。エミる斬り!!」
流石に直前での二段階退化の影響が響く。
悪夢のような一撃が、今の体に慣れないレイに襲い掛かる。
デスキャッスルでは羽を狙ってくれたのだろうけれど、今回は真上。
重い斧が肩口を狙う。いつかは先生と慕っていた彼女の攻撃はやはり重い。
「くっ…」
「受け流された。やっぱただじゃ死なない…」
「エミリ、絶望しちゃダメよ…」
羽についた爪でどうにか払いのけたが、この時の羽の骨格は弱い。
やはり、あっという間に使い物にならなくなる。
「邪魔…だな。もう、守る必要もないし…。もぐか…」
「今だ‼マリアのこの一撃で殺してやる‼『断頭大蛇』」
会心率50%の強烈なあびせ蹴り。
隙を見せていたから、堪らず魔人レイは後ろに飛び退る。
「よくやった。これで死ね。光女神光剣‼」
だが、その時。
魔人レイは光の剣を睨みつけた。
そして、パン‼と払いのける。
「それは中距離攻撃だよなぁ、アルフレド。もしかして日和ってんのか?」
そも、あれは金色お姫様の神の力を降り注がせる攻撃。
一先ず、自分の命を守ること。
その考えが、勇者から抜けていない。
「馬鹿か。フェイントだよ」
「こっちよ、馬鹿。巨大爆炎戦塵斬‼」
賢者の近接攻撃が魔人の剣をすり抜けて、レイの胸に突き刺さった。
そこで…
「俺は日和ってねぇんだよ。永遠に滅べ。勇者超大雷神斬」
「待ってたぞ、破壊神‼先ずはお前から…」
「させるか‼竜の怒り浴びせ蹴り‼」
「今度はアンタだけだから。三日月戦少女の斧‼」
左右の斜め前に二人、斜め後ろに二人。
フレンドファイアーがないから可能な戦い方だ。
「…それでも押しとおる‼勇者アルフレドォォォオオオ‼」
『アーモンドの剣』と『SUV』剣がぶち当たる。
「今だ‼三人で、コイツの急所を狙え‼急所ならどこでも構わない‼」
「分かってる‼」
声が揃う。
「世界の為に殺す‼」
「絶望したなら教えてよねー‼」
「ぶっ潰してやる。逆さ持ち、急所かち割り‼」
これはもう死に体。
完全に袋叩き。
でも、RPGの単体ボスって多分、こんな気持ち。
それでも…
「あぁ。確かに痛い。あぁ、使い物にならないな」
「だったら、絶望しなさいよ‼」
「俺が止めを刺してやる。勇者大雷風神斬‼」
使い物にならない。
「…はぁ。お前達の方なんだけど‼」
「ぐはっ…。まだ…そんな力を…」
「こっちのセリフなんだよな。使い物にならないっての…」
ずっと言い続けていた筈なのに、何故か打ち消されていた言葉だ。
「何を言って」
「え…。そんな。なんで…動けるの」
「我慢してるんでしょ。ボロボロだよ。血塗れだし」
「でも…。ソイツってあの魔人レイ…だよ」
状況が違えば、在り得ないことではなかった。
歴史設定が違えば、フルボッコだっただろう。
「確かに…、三十倍のバフを掛けてるのに…」
だが、斃せない。
「怯むな‼俺たちはここで全てを終わらせるんだよ‼死ぬまで戦え‼」
「アルフレド…、ドラグノフってさ、なんであんなにデカいんだろうな」
そして、フルボッコされているように見える魔人が、一言。
「魔族だからに決まってんだろ‼」
「アズモデの手記にもそう書いてあったか?」
「アレはお前の嘘だろ…」
「でも、アタシの…ご先祖様…。ドラちゃんは人間で…、ずっと昔の人間で」
もしかしたらドラグノフが人間だった、という設定がなければこんなことにはならなかったかもしれない。
だけど、そこは公式なのだ。
どうしても、沿わねばならない。
「設定資料も覚えているよな?」
すると、アルフレドの両肩が跳ねる。
「いいから、さっさと滅びろよ‼」
「滅びたら助かるのか?その証明は出来ていない」
「ど、どういうこと…よ」
「とりあえず、鬱陶しいから全員を跳ね飛ばす。ちゃんと受け身を取るんだぞ‼」
そして魔人レイは四人ともを跳ね飛ばした。
武器を使わず、体を回転させただけで、神に近づいた勇者たちが飛ばされる。
「遥か昔の人間、ドラグノフ。どうしてデカい?」
「そんなの…。色々あったじゃん。何かを飲んだ…とか」
——男の体にマーベルを思わせる紋様が浮かび上がる。
——そして、そのまま異形の姿へと変わった。
「大きくなったとは言っていない。これだと分かりにくいし、邪神型は別にしてもらわないといけないけど、な。でも、マロンたちは人間サイズだったろ?」
「…何が言いたいの。もしかして、昔の人間は体が大きかったって言いたいの?馬鹿みたい」
「大賢者、フィーネ。…正解だ」
「はぁ?そんな…こと」
攻撃をする。それを魔人は弾く。
そこで新たな疑問。
「でも。そんなの関係ない筈だよ。マリアたちはレベルカンスト‼」
「そのドラグノフだって、本当は余裕で倒せちゃうんだから…。…あ…れ?」
その通り。
だけど、気付けなかった。
その理由はレベルカンストという魔法の言葉のせい。
「レベルカンストが…嘘?」
「いいや。それは本当だよ。嬉しいことにな」
「何よ。それって嫌味?」
気付くタイミングはいくつもあった。
どうして、魔王は邪神型を弾き飛ばせるのに、自分たちには出来なかったのか。
「…つまりさ。お前達って弱くなってるんだ。そしてそれが世界を崩壊から守る方法の一つだと…俺は思っている」
「アルフレド、聞いた?マリアたちが弱くなってるんだって?」
「そんなわけない」
「そうだよ、そんなわけないじゃん。ってことは、やっぱコイツ。ズルしてるんだよ」
マリアが何度も何度も、殺人クラスの蹴り技を披露する。
だが、簡単につかむことが出来る。
「なぁ、マリア。その理屈だと、俺が邪神だった場合、どうするつもりだったんだ?」
「だって、今は邪神じゃ…」
この時、たった一人。声を失っていた。
彼女のことはさて置き、魔人レイがひねり出したのは、やはり過去設定だった。
「…なぁ。魔族誕生の時さ。どうしてアーノルドは、どうしてアーモンドは…。いや、どうして世界の人々は、マリアの両親も含めて…。誰も魔物と戦わなかったんだろうな。…それがお前たちの強さであり、今が弱い理由。そして——」




