表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/201

第187話 光の女神に背いたと思った元修道女は自らに絶望する

 魔王は本来は配下の筈の悪魔を睨みつけた。


「お前の趣味が混ざってるじゃないか…」


 キング・アーノルドアンデッドから発せられた言葉は、過去創造に登場していないモノ。

 そして、あのアーノルドがソレを娘に言う筈がない言葉。

 当然のように、娘は心を刈り取られてしまったのだ。


 ただ、魔王の目はアズモデの変化を見逃さなかった。


「…あれ。いつもの仕草がない。あぁ、そうか。手帳を勇者に取られたから…」


 さっきから鬱陶しいくらい、ペラペラ音が聞こえている。

 勇者と呼んでいいのか難しい場面だけれど、あの勇者(・・)は次なる時間稼ぎを探している。

 とは言え、目下時間を稼がれ中なのだ。


「三人を元に戻す方法…。記憶及び経験値破壊(プラチナクラスター)は…、クソ。役に立ちそうもない。アズモデがどんな割合でゴールドとプラチナを混ぜたか分からないし」


 ココアとアーモンドも、アレから続きを話してはくれない。

 ずっと同じことをいうボットになってしまった。

 その度に邪神の攻撃が来るのだから堪ったものではない。


「…っていうか、リディアは気付いていなかった。一体、どうなってるんだよ。俺にどうしろってんだよ」


 とは言え、流石に前に進むべき状況だった。

 だから、ラビは協力してくれた、と考えた方が良い。


 そもそも、ラビの手にかかれば、目の前の三体だってどうとでもなる。

 でも、それは違うのだろうから、彼女は動かない。

 冷徹なまなざしを送り続ける。


「幸運…とは言えないけど…。絶望的な状況になったら、花嫁たちは受け入れるのか…」


 余りに悲しいけれど、彼女達は…


「希望…。この世界を壊させない為に…。絶対に必要なんだ」


 希望を絶望に変えて、そこから新たに生まれさせる。

 それが必要なんだと、リディアの状況から悟った。


「…ってか、気付けよ」

「ホロビヨ‼」


 邪神型アンデッドの中で最強であるキング・アーノルドアンデッドが牙を剥く。

 このアンデッドの余計な一言のせい、もしくはお陰でリディアは絶望した。


 でも、少しムカつくから無力化したい。

 とは言え、アーモンドとココアはどうすれば良いか。

 同じことを言ったら、もしかすると殺したいと思えるのか。


「わっかんねぇよ…」


 そう呟いた時。


 勇敢ではない勇者がパン‼と手帳を閉じた。

 そして、こんな状況で勇敢にも叫ぶ。


「キングも大したことないな。でも、俺は見つけたぜ。っていうか、最初から分かってたんだよ。そもそも…、アズモデがラスボスなんだよ」


 当たり前のことを無意味に叫ぶ、という意味での勇敢ではない。

 これがレイにとある決断をさせる一打となるのだ。


「アズモデ、喜べ。プレイヤー様が許可を出す」


 今にして思えば、この件があったから四天王第二席は大人しくしていた。

 アズモデの手記には、間違いなく『この件』が記載されている。


 彼女の名は


「フェルレだよ‼ぼさっとするな。魔族になれば生き返れるだろうがっ」


 デズモア・ルキフェがおかしくなった原因。

 当時はルキフェ・デズモアだったかもしれない。

 そしてアズモデが、この壊れてしまった世界を終わらせたいと願っていたのも、やはり彼女が理由だ。


「アズモデ。早く連れて来いって。お前しか墓の場所を知らないんだからな」

「え?それって誰よ。私は知らない。エミリ、マリア、ソフィアは知ってる?」


 彼女のことは誰も知らない。

 そもそも、


「アズモデの母親だよ」

「えええええ。アズモデって人間だったんだっけ」

「キラリもあの二人とは血が繋がっていないと話してましたよ?」


 リンクがミッシングしまくって、この状態なのだ。

 その経験と記憶はプラチナと共にどこかへ消えてしまった。


「母は…」

「黄金中毒で死んだんだろ。そのモチベは買ってやる。とんでもない化け物にならないように気をつけろよ」

「うぐ…」


 ドラゴンステーション族はゴールドを求める。

 そういう狂った例の一人として、少しだけ登場した。

 そして、ルキフェ少年は母に会いたい。


「っていうか、なんだよこれ。そこのレイというバカが考えたんだろ…。名前も設定も…、マジで反吐が出るな」


 態度も行動もイッている勇者が引いてしまう設定。

 女神の書にも、公式設定資料にも、インターネットにも載っていない話が、アズモデの手記には書いている。

 

「勇者さまは…。僕の母さんを知っているの?僕の母さんは」

「ち、違うって。これは俺が考えたわけじゃないって。そこのレイモンドが一人で考えたんだよ!勘違いするな」

「ふーん…」


     ◇


 勇者たちがネクタに辿り着く前に、航路の開発の話をしていた。

 ネクタの協力を得ていた勇者は、北回りの海洋ルートであるネクタ-エクレア豪華客船を開発済みだ。

 本編中にも登場した通り、マハージにお願いすると船を建造してくれる。

 本来はバッドエンドルートだが、世界はフィールドという縛りから解放されている。

 勇者たちはデスモンドに行かなくても、アーマグに渡れる状況にあった。


 とは言え、今更アーマグに行っても何もない。

 そもそも、ネクタには何でもある。


「はぁ…。疲れるっての。アンデッドもプラチナで動いてんだろ…」


 絶賛、時間稼ぎされ中の魔王は、三体の邪神の対処に頭を抱えていた。

 その間に勇者はDSW-003を見つけて、嫁たちと寛ぎ中だ。


「ホロビヨ王と、しっかりせい親父と、前に進んで母…。一人ずつ、配合が違うとか。アイツの頭はどうなってんだよ…」


 デズモア・ルキフェは魔王軍幹部全てを欺いていた。

 しかもドラゴンステーション族の中でたった一人の記憶持ち。

 ロータスの民がいたとは言え、魔王軍の指揮系統は彼が一人で熟していた。

 設定とはいえ、プレイヤー・レイには読み解けそうもない。


「来たよ」

「え…、もう?」

「大体、分かっていたからね」


 アズモデはアーノルド王の遺体と共に、母親の遺体をアフレルゾに持ち込んでいた。

 だから、ネクタに帰っただけだった。

 エクナベル家には、自動車整備室とかいう無用の長物がある。


「って…」

 

 そして、魔王が用意したフィールドと外では時間の進みが違う。

 だから、あっという間にその遺体に魔物化処理が施されたらしいが


「嘘…だろ…」


 邪神タイプの魔物を牽制していた魔王が目を剥く。

 それは寛ぎまくっていた勇者も花嫁たちも同じ。


 魔王に言わせれば、今までの三人には悪意を篭めていたろ、とツッコみたくなるほど…


「あれ…、アンデッド…なの?」

「リディアは知っていたのかしら」

「もう…。いなくなってしまいましたから、分かりませんね」

「っていうか、パパの船に遺体を積んでたの⁉」

「兵は多い方がいい…だろ。ってか、アレが黄金中毒者…。なんか…、色々考えてしまうな」


 だが、しかし。

 ここにも、とある設定が活かされている。

 流石に魔王はソレに気付く。

 自分で考えた設定だから間違えようがない。


「ゴールドの魔力…。万物の耐久性を高める…。だから、ドラゴンステーション族は黄金を飲もうとした…。そして…。う…、なんでもない。それにしても…」

「黙れ。…そうだよ。僕の母さんは完璧な人…なんだ」


 現れたのは二十歳くらいの人間だった。

 遠目にはリディアに見えたが、近づく程に息を呑む。


「瞳は黄金…。つまり」

「ううん。僕の母さんはずっとこの色だよ。ソレより…、早く僕の母さんと戦ってよ」


 その為に連れてきたのだから、当然かもしれない。

 だけど、それは彼の宝物。

 高級なビスクドールよりも美しい人形。

 宝石と貴金属があしらわれたソレは、ゴールドの魔力も重なって、所有欲さえ生み出すもの。


 先の三体に悪意を覚えるのも仕方がない。


 だが、彼はここで終わらない。


「魔王でもいい。勇者でもいいから、僕の母さんと戦ってよ」

「は?…お前、何を言って」


 そこで、予想通りあの男が立ち上がる。


「へぇ…。マジでいいのか?俺が勝ったらペットにしていい?」

「お前も何を言ってるんだ。彼女を用意させたのは俺と戦わせるため、時間稼ぎ作戦の一つだろ…」

「あ?魔王が何言ってんだ。人間は魔族を従えるもんだろうがよ。それによぉ。これはテメェらに絶望を与えるためだ」


     ◇


光女神速度倍化(メビウステンション)

光女神の怒り(メビウスマッソ)

魔法・物理防護魔法(パーフェクトガード)


 それを合計して三十回。

 この空間は時間の進みが遅い、と言ってもアズモデが色々やっていた時間を考えると、バフは既に切れていた。


「アル、大丈夫?三十回、重ねてみたけど…」

「マリアたち、頑張ったけど十回が限界。やっぱり勇者様は体が違うのかな」

「あれ。体じゃなくて、プラチナ?」

「エミリ、それは魔王が言ったことですよ。勇者様は光の女神メビウス様の守護者です。リディア様はいなくなりましたけれど…」


 残り四人になってしまった花嫁。

 四人それぞれの匂いを嗅ぎながら、ポンポンと肩を叩いていく。


 なんと勇者の体は三十回の魔法重ね掛けにより、10倍も強くなっていた。

 そして、不敵な笑みを浮かべる。


「ったり前だろう。俺は世界を救うんだぜ」


 それはそうかもしれない。

 時に神さえも倒すのが、勇者という者。


「さぁ。母さん…」

「アズモデもいいのかよ」

「いいって…。何が?」


 勇者が不敵な笑みを浮かべるなら、悪魔は恍惚な顔で微笑んでいる。


 そして、黄金のアンデッドの顔は変わらない。

 そもそも、動いていない。

 ただ、


「さぁ、母さん。こっちだよ」


 息子の手に掴まっているし、歩いてもいるから、関節は動くらしい。

 そういう人形もあるし、カギッコホネッコという魔物もいるし。

 アレはアレで魔物かも知れないが…


 勇者と花嫁たちと、アズモデの母が対面する。


「アズモデはさがってろよ」

「勿論。さぁ、母さん。戦っていいんだよ」


 そして、そのまま。


「勇者‼何をやってるんだよ」


 勇者は青空の下で、戦うも何も、彼女の両肩を掴んで押し倒そうとした。

 だが、


「あ?んだこれ…」


 フェルレは目を大きく開けた。

 ダイヤモンドのように光り輝くソレは、やはり何の感情も持っていない。


 そして


「ェ…」

「け?」

「ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」


 エという言葉と共に勇者が弾かれる。

 そして、花嫁がそれぞれの武器を手に、魔物狩りを始める。


 だが、弾かれる。


「おい、勇者‼今度こそ、嫁を守れよ‼」

「指図するな。だが、やってやる。てめぇとは違うんだよ‼魔物は少々じゃ死なねぇ!」


 あの伝説のSUV剣を両手持ちに切り替えて、勇者は飛ぶ。

 魔力を伴っているから、飛んでも加速が落ちることはない。


勇者超大雷神斬(ブレイバーバーニング)‼もう一回、死ね」

「フェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」


 ガキン‼という金属音。

 そして、ドスンと落ちる断面を伴った体の一部。


「ぐぁあああああああああああ‼ソフィア、回復‼俺の…手が…」

「ゆ、勇者様‼みなさん、フォロー頼みます‼」

「分かった。みんな、行くわよ…」

「人間と戦ってないん…だね。やっぱり…」

断頭大蛇(ギロオロチ)、…イッ‼」


 黄金に光り輝くフェルレに花嫁三人が突撃する。

 そして、桃色花嫁の顔が苦痛に染まる。

 彼女は目を剥いて、こう叫んだ。」


「あ、足が‼…え、えと。えとえと。か、回復しなきゃ…。私の足…」


 欠損部分の回復に慣れていないマリアは、自分の足を探そうとした。

 だが、何故か直ぐには見つけられなかった。


「う…そ…。そ、ソフィア…」

完全回復全魔法(ザケイミルライオン)完全回復全魔法(ザケイミルライオン)完全回復全魔法(ザケイミルライオン)…。え、えと…、これで」


 欠損部位の修復に、切断部位は必要ない。

 魔族と同じなら、その部分も修復される。

 だったら、この光景は…


「ひ…」


 回復魔法を連発することで、仲間たちの体が自動回復する。

 それはそうなのだが、桃色少女は絶句した。

 辺り一面が、人間の腕と足で埋め尽くされていた。

 これは流石にグロすぎる。


「アル…。お願い…。私たちじゃ」

「アタシも…、何回か見えない攻撃を喰らった」

「…違うわよ、エミリ。この女が使っているのは…、多分魔法。次元破壊デストロイディメンション…だと思う。アルにしか躱せない。だから…」

「無詠唱…なんて在り得ねぇ。小声で言ってんだろ。俺が負けるわけ…」


 余りも速い動きが出来てしまう勇者。

 ただ実は、そこまでの重ね掛けは魔王の想定の上だった。

 即ち、意識が置いて行かれる。


「フェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ‼」


 だから、人形の腕の動きが何を意味しているのか、勇者には全く分からなかった。


 突き出された手が、グロテスクな何かを握っていた。

 それは長い長い赤いロープ。それが何故か、自分のお腹と彼女の手を結んでいる。

 運命の赤いロープなんて、なかなかに洒落ている。


「フェフェフェフェフェフェフェフェフェフェフェフェ」


 だが、完璧と言ってよい容姿の黄金の何かは「このロープは要らない」と、つまらなさそうに地面にぶちまけた。


 そも、この光景は何処かで見たことがある。


 そう。だからこそ今回も。


「皆、歯を食いしばれ‼一気に投げるぞ‼ソフィア‼さっきの回復魔法だ。MP切れなんて…、…って」


 全員を投げ飛ばしたと思ったけれど、数が足りなかった。

 それもその筈。


「ソフィア。しがみつく相手を間違えてるぞ」


 エメラルドの花嫁は灯台下暗し、魔王の足下にいた。

 そして、片足をぎゅっと抱きしめていた。


「だ…だって…。私、怖い…。これは…天罰…」


 顔をあげられない花嫁は、レイの足の隙間から震える指を差し出した。

 その先に居たのはフェルレ・アンデッドだ。


 そして、魔王は肩を竦めた。


「なんだ…。気付いていないのかと思った。てっきり忘れているのかと」

「…忘れて…いました。そして…大変なことを…」


 キャラの使い回し、なんて色を取り戻した世界で言うべきではないだろう。

 黄金比率100%のフェルレの体なのだ。


「私たちはメビウス様の使徒。なのに…、女神様に…」


 魔王は肩を竦めた。

 正確には、その外側。借り物。

 だが、成程。一周目で彼女が登場するのは、魔王の死後。逆に言えばデズモア・ルキフェ戦の前。

 二周目以降はデズモア・ルキフェ戦の後。

 今回だってそうだ。つまりアズモデは常に持ち歩いていたのだ。


 そして、遂にこのタイミングがやって来た。


「ソフィア。その…、ついでに言っておく。こういうのって決まりはなかったと思うけど──」


 元・修道女は目を剥いた。

 やはりというか、何故か気付いていない。


「そんな…。それでは私はいくつもの…、戒律を…。だから、私たちの世界は滅びるのですね…。いいえ…、滅びなければならない」

「いいや。お前は正しい。お前は生きるべきだ。生きなければならない」

「また…、レイが私を守る…の…」


 なんとも歯がゆいシチュエーション。

 だけど、多分。


「次に守るのは俺じゃないよ。ソフィア自身か、それとも違う誰かか」


 ──『記憶及び経験値破壊(プラチナクラスター)


「…嘘を見破れる…って思ってたのに…。何も…私は…。全てを…失って…しまいました」

「いいや。これから新たな世界を手に入れるんだよ」

「そんなの…悲しい…だ…け…」


 そして、ソフィアも意識を失う。

 彼女の場合は、登場より先に会う想定まで含めたのだろう、勇者と会う以前までの記憶が失われたらしい。


「フィーネ。マリア。しっかり回復しろ。…で、MPも回復しとけ。俺は少し席を外すだけだ。アズモデも、な。アズモデの母親とのことは、それからだ」

「……」


 魔王は魔王戦の途中に席を外す。

 そういうこともあったっていい。


 ソフィアを抱え、あの場所へと向かう。


 そこで初老の修道女と対面をした。


「─というわけです。ソフィアを頼みます」


 するとシスター帽の女は目を剥いた。


「レイ…様。アナタはそれでいいのですか?そんな、あんまりじゃないですか」

「これが俺の使命…。それに世界の為です」

「だからって…」

「それに…。大体…分かりました。俺は──」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ