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第186話 余りにも悲しい秘密を知った姫は眠りにつく。

 デズモア・アーモンドがアーモンド・デズモアを名乗らなかったのは、ココアに対しての気遣いからだった。

 ロータスの民にそんな風習はないけれど、何故かそうするのが正しいと思ったのだ。


「く…、俺の中で勝手に再生される…」


 というより、勝手に想像している。


「レイ、アルフレドは特別な子じゃ、分かっておるんじゃろ!」

「世界を救う為にアルフレドを助けるのよ!」


 二人の口からは当時の話しか出てこない。

 だからか、アルフレド達には目もくれず、我が子を叱咤すら。


「なんでだよ!魔族なら仲間だろ!」

「魔族…じゃと?レイ、お前は…」


 デズモアゾンビの顔は年老いた老人。

 エルダーココアは中年くらいの女。

 どちらもアンデッドのようなグロテスクなものだけれど。


「どうして…、人間の言葉を話している…。親父、お袋。俺には戦う意志がない!それが分からないのか!」


 すると、デズモアゾンビはマグマの炎を口から吐きながら答える。

 エルダーココアは次元破壊デストロイディメンションを唱えた口で言い放つ。


「戦う意志を捨てるなど…情けない」

「アルフレドを見なさい。あんな立派になって」


 身も心もズタズタに引き裂かれる。


「そんなんだったら…、最初から俺を捨てれば良かっただろ‼」

「何を馬鹿な事を。お前は光の勇者の導き手になるんじゃ」

「いつも言っているでしょう‼」

「そんなに言うなら、アルフレドを養子にしたって良かったじゃないか。俺は一人でも生きていけたんだよ‼」


 経験してもいないこと…、いや脳内で蘇ってくるのだ。

 自分がレイモンドであると、あの日よりも強く思えてしまう。

 で、こんなんだから、レイモンドは歪んで育ってしまったのだ。


「全く。分かっておらん。何のために勉強をさせておるのか」

「どうして…。分かってくれないの?これはアナタの為にやっているの」


 今度はデズモアゾンビが次元破壊デストロイディメンションを唱える。

 エルダーココアが、灼熱の炎を口から吐く。

 強いて言うなら、エルダーココアの炎はデズモアゾンビのモノより高温だった。

 流石はロータスの民と言ったところ。


「俺の為…だと?どこがだよ‼いつもいつもアルフレドアルフレド‼俺に言えたことじゃないけど、子供のことを考えてやれよ‼」


 因みに、魔王レイは反撃をしていない。

 邪神の、つまり同じ姿に変わることもない。

 魔王レイとして、魔人レイとして、人間レイモンドとして、アンデッドに向き合っている。

 そして、やろうと思えば出来る。

 アンデッドだから、軽く小突くくらい


「レイ‼その拳をしまえ」

「アナタ‼そうやって直ぐ暴力で…」

「はぁ?ちょっと叩いたくらいだろうが」


 即座に二体のアンデッドは反撃として尖った爪で切りかかる。

 だが、その口から零れるのは全く別のこと、暴力反対を掲げている。


「反省しろと言うておる。設定資料を読み返せ‼」

「だから、フィーネちゃんが懐かないのよ」

「いつの話だよ‼それに何度読んでも内容は変わらないって‼」


 レイモンドはこんな日々を過ごしていた。

 歪んだ性格のままプレイヤーにさえ嫌われて、非業の死を遂げる。


「俺が…殺した…って言われても…。その気持ちのまま死んじまってよ…。二人が死ななきゃ、俺は…」


 どうして死んだのが自分の親だったのか。

 あの時、フィーネは旅に出た。

 ただ、この世界でのパピルスとマーマレイドはアーノルド王の配下だ。

 もしかしたら、一緒に旅に出るように言われていたのかもしれない。


 でも、そんなことを言われた記憶が、俺にはない。


「何を言うておる。ワシらは死ぬ運命じゃった」

「でも、いつの日か神様が復活させてくださる」

「レイ。お前もじゃ。その時は…」

「その時だって同じなんだよ‼俺は歪んで育つって決まってんだ…」


 チープな終末論と、ちゃちな復活論が書かれた女神の書、および設定資料。

 アーノルド王さえ、その予言を信じて死んだのだ。


「その時はもっと真っ直ぐに育ててやるわい!」

「だーかーらー‼歪んで育つんだよ‼どんだけ耄碌してんだよ‼」


 どうせ始まる前から死んでいる。

 だから、何を言っても無駄。

 だって、この世界に時間は存在しない。

 そして、もうすぐ破壊される。


 なら、切っても——


「復活…。それは駄目…なの…」


 エルダーココア、母の声にいつの間にか手にしていた『アーモンドの剣』が止まる。


「駄目…って。だって世界は繰り返して」

「レイ‼お願いだから頑張って。…蘇った世界にアナタはいないかもしれないの」


 エルダーココアに剣を弾かれて、灼熱の業火で燃やされる。

 だが、その炎をレイは甘んじて受け入れた。

 HPがどんどん減っていくが、この程度で0にはならない。


 そんなことより…


「どういう意味…だよ。レイモンドのいない世界なんて、ドラステの世界じゃないぞ」

「そうじゃ…った。じゃから、レイ‼アルフレドに負けぬよう、強くなるんじゃ…。あの子の為にも…次元破壊デストロイディメンション


 邪神が使う魔法により、魔王の体が歪む。

 痛恨の一撃がHPを吐き出させる。


「なんだよ、それ‼」

「だから…、私たちが死んでも絶対に振り返らないで…」

「未来を紡ぐんじゃ…。ワシらのいない世界で…」


 その口で凶悪な魔法を唱える。

 その笑顔で灼熱の炎を吐きだす。


 だけど、言葉の方がレイの体を抉った。

 ココアの言葉に呼応して、デズモア・アーモンドが涙を流した。

 流しながら、真逆の行動をしている。


「思考と体が…、違う…。俺に…伝えようと抗っている…。教えてくれ‼親父‼お袋‼」


 過去創造がまだ出来ていない。

 世界は完成していない。


「俺に紡げる未来があるなら…」


 炎も、魔法攻撃も全部受け止める。

 父と母の教えを、言葉を、一言一句聞き漏らさない。


 レイモンドは聞けていないのだ。

 二人は間違いなく、我が子を、レイを愛していた。

 真正面から向き合っていたら、それに気付いたかもしれないのだ。


 だが、ここで


「あぁあ。ぬるい。ぬりぃよ。レイモンドの親なんてその程度か。やっぱ最強をぶつけねぇと」


 邪魔が入る。

 二体のアンデッドでは倒せないと判断した勇者が、新たな一体を召喚した。

 その直後、背後から彼女の叫び声が上がる。


「お父様‼」

「リディア‼ちょっと待て…。アレはアンデッドで魔族だ‼それにお前を閉じ込めた…」

「でも‼」

「でもじゃねぇよ。最強中の最強。キング・アーノルドアンデッドだぞ」


     ◇


 黄金の髪、そして邪神と同じカタチ。

 その容貌は、僅かに若さが戻っていて、アルフレドを思わせる。


「色違い…ってレベルじゃないぞ。そもそも作中に出てこないんだって…」

「いや。確かにアズモデの手記に書いてある。やってない方がおかしいだろ」


 そんなこと言われたら何でもありだ。

 アズモデに関わった人間は、全員アンデッドになってしまう。


 因みに三体の邪神型は、実はエルダーココアが一番大きい。

 だが、魔力はアーノルドアンデッドの方が圧倒的に大きい。


「お父様‼私です‼リディアはこんなに大きくなりました‼」

「って、馬鹿‼」

「って、馬鹿‼」


 同じ喋り方だが、声の高さが違う。CVが違う。

 その行動も違う。


「レイ‼何故、邪魔をするのです‼」

「様子をみる、とかできないのか‼アルフレド、リディアを持って帰れ」

「仕方ねぇだろ。世界を救うためなんだ。さっきのエミリとソフィアの勇気を見ただろ」

「ホロビ…ヨ…」


 勇者に行動の素振りはない。

 ここまで来ると、アレのやろうとしていることが分かる。


「く…。分かっただろ、リディア。意志の持たせ方は様々だ。あの日のまま…止まっている…」

「そんなの分からないです‼だって、あの顔はお父様です‼」

「フッカツ…ノ…タメ…」


 アルフレドはアズモデの手記をめんどくさそうに捲るだけ。

 そのアズモデは未だに米粒の大きさ。

 何を考えているのか分からない。


「でも、…そういうこと…かよ。終わり方を知っていれば、在り得なくはない…」


 アズモデはさて置き、アルフレドの思考は簡単だ。

 この際、ヒロインの数に拘っていない。いや寧ろ、減ってくれた方が恨まれるリスクが減る。


次元破壊デストロイディメンション。スベテコワレロ」

「きゃ…」


 アーノルドは容赦を知らなかった。

 娘とか誰かとか関係なく、全てを破壊しようとしている。


「ぐ…。この魔法は…、マジで厄介だ。立てるか、リディア」

「また…。(わたくし)を助けましたね…。何のつもりですか」


 アーノルドは「大丈夫だ。また、来世で一緒になれる」という最期の言葉を残した。

 そして、その顔は…。何故か穏やかだったのだ。


「アーノルド王の最期は、…世界の終わりを待ち侘びていた。だから、お前達の敵だ」

「そんな訳…、ないじゃないですか。お父様‼あの日を覚えていないのですか?娘のリディアです‼」


 一緒に見た筈なのに、リディアは父に駆け寄ろうとする。

 だが、やはり攻撃が飛んでくる。


「リディ…ア?ナゼ…」

「お父様‼思い出しましたか⁉そうです。貴方の娘、リディアで…」


 しかも、このアンデッド化にも、とんでもない悪意が篭められていたらしい。

 

「ホロンデオラヌ…。リディア、キサマハ…」

「屈め、リディア‼」


 キィィィィンというスキール音。

 そして激痛が体中に駆け巡った。

 人間のお姫様が立ち尽くしたままだったから、全方向から来る、範囲攻撃の魔法を全て受けなければならなかった。


 そのお姫様は


「う…そ…」


 それでも棒立ちのままだった。


「逃げろって…、リディア‼何を…。おい、勇者‼」


 三体の邪神型アンデッドが取り囲むという、絶望的な状況だった。

 その中に魔王が翼を広げて仁王立ちして、背後にはお姫様が立っている。


 姫と魔王というタイトルの作品だったら、クライマックスシーンの筈。

 金色花嫁の口はとても小さいけれど、簡潔で分かりやすい言葉を紡いだ。


「殺して…」

「何を言ってるんだ。お前は——」


 魔王の背中から聞こえてきた言葉に、姫は絶句する。

 そして、姫は膝から崩れ落ちた。


「そんな…」


 魔王はもう一度放たれた邪神型の斬撃を受けた後、倒れそうになる姫を抱える。

 その後も、何度も何度も炎が襲う。


 彼らと彼女が死ぬ前に何を考えていたのか、羽の向こうからだが、易々と聞き取れる。


「だったら…、私は…どうしたらいいんですか…」

「今のはここで初めて聞いた言葉だ…。俺たちが過去で創造したモノじゃない」


 リディアの顔から憎悪が消えていた。

 絶望に埋め尽くされて、その憎悪が迷子になってしまっていた。


「それが…なんだと言うんですか。私はもう…」


 猛火の中で、不死鳥は新たに生まれ変わる。

 ならば、この時こそそう在るべき。


 レイは魔法の杖を振りかざし、先端を彼女につき当てた。


「これは重要なんだよ。今の王の言葉はここで初めて知ったんだ」

「違います…。どうして私は気付けなかったのでしょうか。そして…、どうすれば」


 この状況では言えない。

 魔王レイは姫を正しくお姫様抱っこして、顔のみを邪神に変えた。


「お前らは引っ込んでろ!」


 という言葉が衝撃波に変わり、三体の魔物が300mほど飛ばされる。

 すると、直ぐに顔が魔人の時に戻り、姫をゆっくりと大地に降ろした。


「生きろ、リディア…」

「そんなの無…」


 ——『記憶及び経験値破壊(プラチナクラスター)

 

 今、初めて知った王の言葉が消えていく。

 そして


「レイ、貴方を絶対に許さ…、…あれ?」


 憎悪もまた、砕け散っていく。


「そっか…。レイ…、許して…」


 そして彼女もまた、レイとの記憶を失った。

 涙ではなく、少し寂しい顔をしたまま、リディアは意識を失った。


「…なんとなく。分かった…かも。…ラビ。頼みがある」

「ふむ。分かっておる」


 彼女にはこの場の全てが見えている。

 一心同体とはそういうことだ。


 だから、大した説明もなく、リディアの体は秘密の塔へと運ばれた。


 そこで、彼女は再び勇者の到来を待つのだ。


 勿論、この世界が続いて行けばの話だけれど。


「いや、それは不味いな。…俺は迎えに行けないし。マロン、実は——」



 ——花嫁の数は、残り四人。

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