第185話 勇者のここぞという反撃は、いつでも痛恨
あ…れ?俺ってさ。
アルフレドを選択したよな…
だったら、なんでレイモンドになってるんだ?
感想掲示板でそうするって見たけど、信じていいん…だよな?
レイモンドを選んだから、記憶が無くなった…であってるよな?
「この世界の勇者は金色の髪のアルフレド。で、最悪なことに魔王レイモンド・レイが俺の記憶を持ってる。いわゆる、バグってヤツだ」
今まで散々、花嫁に戦わせていた男が語り始めた。
「さらに俺もバグの影響で、本来与えられる記憶を持たずにいた」
「そう…だったの?」
「あの時だね。デスキャッスルで」
朗々と語る勇者の言葉。
そんな筈ない。だって、レイモンドで始まったし。
でも、同じ時。俺は記憶の一端を取り戻した。その全てがアルフレドだった時の記憶だ。
ここまで来て迷う理由なんてないのだろうけれど、今まで散々バグと言われてきたから、段々不安になって来る。
そもそも、この世界は元々おかしい。
ドラステワゴンってこんなゲームじゃない。
最初からバグ塗れだった…とか
「で、俺は考えた。もしかして名前入力画面で特別なコマンドを入力すると、世界が救われるんじゃないか…とか、さ」
「ちょっと待てよ‼それは…」
「なんだよ。てめぇには言い切れるのか?ってか、お前が見たっていう掲示板はクリア後にしか行けねぇ場所だ。だったら、全部バグじゃねぇか。そもそも、よ。このゲームってレイモンドはプレイアブルキャラじゃねぇだろ」
そもそも、トリケラビットはサキュバスバニーに進化しない。
そもそも、イーリという魔物は存在しない。
そしてそもそも、レイモンドはプレイできない。
あの掲示板だって一回見れただけ。しかも死にかけの時に見たモノ。
「あぁ。本当に可哀そうな俺のハニーたち。中途半端に俺の記憶を受け継いじまったせいで、苦しめられる俺の嫁たち。そのレイってバグのせいで…、いつもいつも…」
「何を言って…。そもそも俺はお前と話したかったんだ…。だって、お前だって」
「あ?俺はアルフレドだが?第一、ドラステワゴンってさ。アルフレドって名前にしとかなきゃ、ヒロインは名前を飛ばして会話するだろうが。だから、最初の頃はずっとアルフレドだ。その中で色んな注文を出して、ここまで来たんだけどな」
ボイスゲームでの、主人公の名前飛ばされ問題。
そこまでメタ発言ができるアルフレドは、間違いなくニイジマレイ。
そのニイジマレイは世界に対して、色んな注文をつけていった。
「な…。そ、それは…」
やっと勇者と話すことが出来たのに。
この男と最も近い筈だ。そいつが遂に言い放つ。
「ま。それでも…、お前は俺達の努力の結晶だな。だって、俺達は世界を壊したかったんだ。レイモンドにレイってつければ、壊せるかもって考えた。その結果、レイモンドに俺の記憶が混じるってバグが生まれた。…いいか?アルフレドで始めても、俺は俺なんだよ。NPCに自分の名前つけても、プレイヤーは代わらねぇだろ」
言い返せない理屈だった。
名前をいじくった程度で、このゲームの主人公は変わらない。
そもそも最初の頃は、どうしてレイモンドになってしまったのか、とずっと考えていた。
それから、バグだ、バグだ、と言われ続けていた。
だが何より、この世界のNPCは人間と変わらない思考をする。
勇者の記憶を植え付けられたレイモンドは、普段とは違うレイモンドの動きをするだろう。
「俺も…NPC…だった…?でも…」
ただ、あと一歩。
一縷の望みと言い換えよう。
「あぁ。アズモデの手記で見たぜ。…これってオートモードだったんだな?」
「そんなわけ…」
勇者は脇に手を当て、カチッ‼とソレを押した。
だが、何も変わる様子はない。
「オートモードはプレイヤーから解除可能。っていうより、これが証拠になると思った?ほーんと、お前は。ただ記憶を植え付けられた馬鹿なんだな」
「違う…。俺はお前と同じ…。お前もレ…」
「このスイッチは全員についてる。勿論、お前にもだ。…ははぁん。お前さては、俄かか?キャラごとにオートに切り替えられるって常識だろ?」
何を話そうとしても、打ち負かされる。
相手の方が多くの記憶を手にしているから?
いや、違う。
——本当にそうだったのかも
全部、バグ。だって、世界を壊すことが目的だったから。
自分自身が、彼の意見に賛同し始めていた。
「ってことで、そろそろ死ね。俺の嫁は『レイ』への積年の恨みを晴らしたいんだってさ」
「アルフレド…。今の話って…どういうこと?」
「そのままだよ。この世界が繰り返されてるってのは何となく分かってるだろ?」
「…はい。何度も『レイ』に最後の最期で突き放された…記憶がこんなにも」
「同時に愛してやまない記憶も…だよな?」
「そ、そこまで好きじゃないし…。…ううん。嘘。私はレイのことを信じていた。何度も何度も…、死ぬまで」
「リディアもエミリもマリアも同じだよな」
花婿と花嫁たちの会話が頭に入らない。
「全てはレイのせいだったんだ。つまり…」
謎の理屈なのに、レイの心にも何かが宿る。
そうかもしれない。俺のせいかもしれないと思い始める。
『レイの近くにいる人物が燃える。その炎は世界に飛び火して全てが炎上する』
「俺は世界を壊すバグを、俺から分離する方法を見つけたんだ」
「…それがアイツ」
「アルフレドと同じだから、アタシも惹かれちゃってた…」
「マリアも!でも、それじゃアレもアルフレドってこと…」
「だから、私たちを守っていた…」
「そうなんだ。俺だって胸が痛いよ。アレは俺でもあるんだから…さ。でも…、そういうことなんだ。アイツは俺の中に居たアンチ、レイ。俺に嫉妬の炎を燃やす存在だ。皆には迷惑をかけた。でも…、もう大丈夫だから」
壊れていく世界、燃えていく世界。
レイを中心に黒い炎が生まれる。
だったら、そのレイって奴を勇者から分離すればいい。
そうすれば、世界は燃えずに済む。
「新島礼は元々死ぬキャラであるレイモンドに、レイという名前をつけた…。だって、レイモンドは嫉妬深いキャラ…だし。俺があの真っ暗な空間で操作が出来なかったのは…、別の誰かが…、いや俺が操作していた…から…」
そしてプレイヤーの意志を引き継いで、世界の仕組みを壊していた…のかも。
「アレは俺でもある。だから…、やっぱお前たちはやりきれないよな。…ってことで、レイモンドに相応しい死を用意させてもらった」
◇
魔王レイは感情の行き場を、考察の行き場を見失っていた。
『レイ』から発生する真っ黒な炎なら、レイを分離すればいい。
俺も、そう考えるかも、と考え始めてしまうのだ。
そしてこう考え始める。
いや、これこそレイモンドとして目覚めた彼が最初に抱いた感情だろう。
「なんで俺なんだよ…。なんで俺が勇者のハーレム世界の為に死なないといけないんだよ…」
アイテムで八番目のヒロインだと?
ふざけるのも大概にしろ。
「そんな最期は認めねぇ。俺が主人公なんだよ‼」
レイは、そう言って振り返る。
そこにいるのは、あの二人だ。
だが、相変わらず。冷たい視線の二人だ。
この中で『答え』を探さないといけないらしいのに。
「まぁ、そういうなよ。レイモンド。俺なりに考えた、お前への手向けなんだ…」
勇者は右手を掲げた。
すると…
♠
まだ、そこら中に魔物が跋扈していた頃の話だ。
アズモデ「エルザ。君の役目はスタト村の破壊…」
エルザ「分かってるわよ。そうしないとアイザは…」
アズモデ「いやぁ。それは魔王軍としての役割。僕がアイザを人質に取るまでもない」
エルザ「何…それ。あたしにこれ以上、何もしないから…」
アズモデ「魔族らしき何かがその村にいる。それから…、君の元同族も…ね」
エルザ「元・同族…って。ロータスの民の生き残り…?」
アズモデ「助けたいよね?当然、助けたいんだよねぇ?だから、さ…」
スタト村は、ドラゴニア王族の部下が隠れて暮らす村。
DSW-002はネクタで乗り捨てられていた。
だから、そこから西に逃げたのは調査すれば分かることだ。
アズモデ「同族を見つけたら、僕を呼んで。彼女には特別な待遇をすると約束するよ」
エルザ「それ…だけ…?」
アズモデ「そうだよ。だって、僕が殺したいのはその近くにいる、魔族らしき何かの方だから…」
♠
レイは目を剥いた。
そして、首を大きく横に振る。
「違う‼これは成り立たない‼俺は肉片を見ているんだ‼あの肉片がアーモンドとカカオじゃないなんて言わせない‼」
「おいおいレイモンド。二人は実の親だぞ。それに、なーに言ってんだ。その肉片はスタトにはなかったって、お前自身が言ってるだろ?」
「だってアレは…、ムービー内の出来事で、ムービー中に登場して、ムービー中に死ぬ…。だからなくて当然で。死んだという事実だけが残っただけで…」
「ん?でしたら、何故マーサ様は生きていらしたのですか?そのせいで…、魔王教に染まったのですけど」
魔王の肩が跳ねる。
確かに、彼女が生きているとした時点で、アーモンドとカカオもしくはココアも生きていたかもしれない。
「それに私のお父さんとお母さん。パピルスとマーマレイドも生きていたし…」
「あ、あれはムービーがキャンセルされた…から。いや、だけど…」
確かにおかしい。
あの時点で、過去設定書き込みなんて出来ない。
どうしてそうなったのか。
だが、考えるより先に
「まぁ、アズモデは関係なく殺しただろうなぁ。この世界の場合はな。ムービーカットされてるにも拘らず、エルザに化けたお前に槍を投げつけるくらいだ」
「う…。だったら、あの肉片は本物…じゃないか。カットされようと関係なく、親父とお袋は」
「あぁ、そうなっちまうなぁ。てめぇがムービーカットしたせいで、アズモデが手を汚すことになった」
レイは押し負ける。
やっぱり勇者はアズモデの手記に目を通していた。
そこに自分なりの解釈を付け足しても、矛盾が出ないのは、アレもニイジマである証明。
同じ人間が考えているから、プレイヤー格を持っている筈のレイが納得してしまう。
「だったら…、やっぱりアズモデは手を汚していた。あの時、改心しなかったのは俺の言葉に偽りがあったから…」
この世界のお前は何もしていないと言ったところで、アズモデには自覚があったのだ。
この先、過去想像の先で手を染めた事実が見つかることに。
「そういうことだ。つまりお前がムービーをキャンセルしたせいで、アズモデはお前の父と母を殺したんだ。ムービーじゃないから、何の言い訳も出来ない。ってかさ、それってお前が両親に苦痛を味わわせたってことで、あってるよな?」
「な、何…を」
「あぁあ。先ずは自分の両親に手をかけるとか、如何にもレイモンドじゃん」
戦ってもいないのに追い詰められる。
しかも納得してしまう。
今までネームドの掘り下げをやって来た。
でもその中で、自分の両親の掘り下げはサラッとしたもの。
その後をハッキリさせたくなかったのは、自分でもそうかもしれないと思っていたから。
キャンセルしたせいで、本当に殺されたんじゃないかと、思っていたから、
だが、それが何?
いや、これが救い。
「でもさ、それじゃあんまりじゃないか。だから俺は考えたんだ。俺がその時覚醒してたら別の手段が取れたかもしれないのにも拘らず、な?」
「な、んだよ…。俺が二人に苦痛を与えた…、それ以上は」
「あれ?分からない?おかしいなぁ。やっぱ、俺の記憶を中途半端に受け継いだ、駄作だったかな。お前自身、経験してることだろ?」
誰の為の救いか、それとも報いか。
その目で見た肉塊にスポットライトが当たる。
「それは通らない!マロンは言った。俺が初めてのケースだと」
「あぁ。マロンたちにとっては初めてだ。でもさ…、その前に何かあったって…ここに書いてあるんだけど?」
「そんなの…通るわけ…」
「通るよね。だから、用意させた。さぁ、レイモンド。久しぶりに甘えたらいい。もしくは…いつもみたいに叱られちゃうのかなぁ…」
◇
遠くに金色の悪魔が出現した。
移動してきたのではなく、アレは何処からともなく現れた。
ここ暫く姿が見えないと思ったら、あんな事をしていたのだ。
少し前に勇者は妹に「あの魔法を」と言った。
それにより現れたのは、女神の像だ。
そこから現れた。
「アルフレド、どうしてアレが」
「それはそうだよね。だってアレも黄金を強く引き継いでるよね。だよな、レイモンド」
イツマゾクは使えない代わりに、ファストトラベルは使えるらしい。
ただ、今は複雑な顔で現れたアズモデの方はさておき。
二体の巨大な化け物に注目するべきだろう。
「命名しよう。デズモアゾンビとエルダーココアだ。流石に時間が経ちすぎてたから、ゾンビにしか出来なかったんだ。ま、ゲームの終盤と言えば、中ボスのゾンビ。知ってると思うけど…」
レイは二人の変わり果てた姿を見て、膝から崩れ落ちた。
「お前…、なんてことを…」
「なんてこと…って。ほら、アズモデの手記に書いてあったんだ。死体からだと、アンデッドになるって」
「さっきと言ってることが違う!」
「はぁ?何が違うんだよ。それに関係ないじゃん。アンデッドも魔族なんだからさ。ほら、慰めて貰いなよ、レイモンド。ここは特別なエリアなんだろ?積もる話も沢山話せるって。…じゃ、そういうことで」
魔王の睨みを飄々と躱して、勇者は「魔族同士、親子水入らずの邪魔をしてはいけないよ」と言う。
花嫁たちは頷くと、二体の化け物とは別の方向に勇者を運んだ。
そして、アンデッドは一気に距離を詰めて、こう言った。
「レイじゃないか‼」
「こんなに逞しくなって‼」
彼らの意志と関係があるのかないのか、まだ分からない。
けれど、デズモア・ルキフェのような強力な攻撃も、同時に飛んできた。
「親父…、お袋…。俺は…」




