第182話 設定はそのままに、想いでは消え去って
イカレている。
吐き気がする。
大事なメールは一晩寝かせてチェックするべきだ。
「マリアお嬢様。いつものクセが出ています」
「魔王のクセに、マリアの思い出に入ってこないで!!」
一体、どれだけ同じ世界を回り続けたのか。
「ニイジマとの思い出をレイが騙らないで」
「騙ってねぇよ。だったら、なんで癖が治んないんだよ‼」
回復役兼武闘家のヒロインは、花嫁の爪とかいう意味深な武器で殴り、いつか登場した刃物付きの靴で蹴る。
高レベルになると、確定急所とかいうスキルも覚える。
ただそれこそ、当たらなければどうと言うことはない。
「アルフレドは、そのままの私でいいって言ってくれるもん‼」
体術の使い手という言葉だけが浮かぶ。
なんてところだろう。
無意味な回し蹴りとか。ドンと踏み込むだけで、バランスを崩す。
「やめろ‼触るな‼」
勇者アルフレドの冒険は、お気楽で派手で艶やかなものだったのだ。
魔王レイにミスがあったとすれば、『経験値=プラチナ』にしてしまったこと。
「もう許せない‼…竜の怒り浴びせ蹴り‼‼」
だが、さっきまでそこに居た魔王はいない。
マリアには一瞬、魔王が消えたように見えただろう。
「ソフィア‼状態異常‼回復して‼」
「はい‼光女神の清流‼聖なる大煙‼」
連携技を見るたびに、魔王の顔が険しくなる。
そして桃色格闘家は、その表情を違う意味で受け取る。
だから、必殺技
「これで終わりよ。…断頭大蛇‼‼」
モーションはド派手なかかと堕とし。
今は物理的に刃物がついているが、無くても魔物の頭を刈り取れる必殺の蹴り。
こんなの見せられるのは地獄でしかない。
もしかしたら、昨晩の。いや、それよりずっと前から行われていたハーレムナイトをリアルタイムで見るよりも、脳が溶ける。
共感性羞恥ならぬ、自認性羞恥。
記憶にはないけれど。
目の前で繰り広げられているのは、イキって、堕落して、それこそ大人向けビデオの企画のような人生を送った勇者の物語が、ヒロインたちを見ていると透けて見えるんだから、脳みそが拒否反応を示している。
でも、それは過去の自分なのだ。
「マリアお嬢様。美しい脚が…」
「もういいのよ。だって、死ぬんだし。冥途の土産の…」
「…落ちますが」
「サービ…ス…」
「贈呈品にしては…、趣味が悪すぎです。いくら生足が好きでも。私ニイジマは生の足、そのものはどうも…」
体の重量比で、片足は20%弱。突然失えば、バランスが崩れて倒れ込む。
そこでマリアの動きが止まる。
そして、魔王は語る。
「我々共通の特別スキル。HPはその程度は許容できますが。続けますか?」
「い、いや…。ソフィア‼バフが全然効いてない‼フィールド効果も消えてる‼じゃないと…」
修道女の青い瞳がまん丸に浮かぶ。
ただ、宝石にしては輝きがない。
「え…。でも…」
「リディアの結界もないぞ。ソフィア、そこから回復してやれよ」
「え…?え…?」
そして、魔王も吐き気を催す。
それで汚れないように、マリアの体をソフィアに向かって投げ飛ばす。
「マリア‼え、えと…、上治癒魔法‼」
なんということでしょう。
なんと、マリアの体が元に戻らないのです。
「ソフィア…、どう…して…。私…も…」
「違うんです。私は…」
魔王は溜め息を吐いた。
そして、結界が無いのを良いことに
「転送魔法」
「アルフレド‼マリアとソフィアが‼リディア‼」
「転送魔法」
結界が張られる中で、二度目のワープ。これは流石に危ない…のか。
「マロン。マリアの治癒を頼む」
「…え?私?ど、どういう…」
「もう…。見ていられない。それに…さ。傍観してる誰かさんも飽きてるころだろ」
MKBのど真ん中に移動したのだから、三人共に息が止まっていた。
自分たちが弱い存在であることは、ドラグノフ戦で思い知らされたばかりだ。
「カロンでもいい。ボロンでも…いい。マリアを助けてやってくれ」
勇者に頼んでも良い…、なんて言えない。
アレは昔の自分の姿。もしも時間という概念があれば、ぶん殴って止めたいと思ってしまう。
でも、その時はアルフレドで、漫遊ハーレム旅行をしてしまうのだろう。
1mmも記憶が来ないレイモンドの屍の上で。
「え、えと。…完全回復全魔法」
「…ありがとう。…フィーネ。どうにか助かった」
そして、駆けつけたのは水色の花嫁。フィーネだった。
「アンタに…礼を言われる筋合いはない。…でも、そういうこと…だったのね」
睨みつけてはいる。
でも、腕の中で気を失っているマリアを庇っているからか、攻撃モーションに入らない。
「そ。ここまで引っ張ることじゃない。MP切れ。SP切れ。修行中に何度も経験…。したってのは忘れてんだっけ…」
「でも、そんな筈ない。だって…」
「昨日、散々俺に使ったろ。なぁ、勇者アルフレド」
「……」
でも、目を合わせたくない。
アレが気付いていたかどうかなんて、考えたくない。
自分でも気付かない、自分の悪い部分のみを抽出したような。
お前はこんなに悪い奴なんだぞ。裏の顔はこうなんだぞと言われている気分にさせる。
「だって、アタシたちは…」
「休憩スポットで休んだ?…休んでないよな。そして寝静まった頃にドラグノフ戦。その状態で良く戦えたもんだ。マリア、ソフィアは悪気があったわけじゃない。さっきから最大魔力の癒し魔法を乱発してた。バフも最大のモノ…」
「す、すみません。私、言えなくて…。だからご自分でも…って」
そして魔王は肩を竦めた。
「どうしてお前が戦わない。勇者の世界では、ずっとこんな戦い方をしていたってことか?」
「んなわけねぇだろ?コイツらが自分から戦いたいって言ってるからだ。俺さぁ、愛する嫁の頼みは叶えたい派なんだわぁ」
「…そう…か」
睨みつける。過去の自分。自分自身。
その言葉を笑いながら言う、お前は俺。
ただ、面倒くさいだけ。
「このままだと世界が終わるんだぞ」
「あぁ。お前が滅茶苦茶するからヤバそうだな」
「貴様は知っているだろうが‼」
「あ?てめぇが世界を作り替えたんだろうが。こんな風になぁ」
♤
『世界の終わりが来る。その原因はレイにある』
♤
魔王の心臓が跳ね上がる。
これは通ってしまう。
というより、事実。
アンチが湧くのは、いつもいつもレイの周り。
焼かれるのはレイの周りから。
「てめぇのせいで、おかしくなっちまった。なら、全部てめぇの責任だよなぁ?」
「だから倒すんでしょ。でも、今は…」
「チッ。MP切れか。SPは貯まるだろうがめんどくせぇな。で、俺達は休んでいいんだろ?魔王だもんなぁ。それくらい…待ってくれるんだろ?」
「何言っているのですか。あのレイが、あの魔王が」
やっぱり、イカレている。
やっぱり、吐き気がする。
こんな痛い痛しい自分、こんな苦々しい気分。
だから魔王は飛びずさる。
これ以上、過去の自分と話したくないから逃げる。
やっぱり、話すんじゃなかった。
同じ自分だ。近づけば、同じように狂えると思ったのに。
狂えば楽になるって思ったのに。
「ってことだ。キラリ、車を」
「あ…。えっと燃料切れで」
「は?そんなこと一度もなかっただろ」
「でも、お爺ちゃんとお婆ちゃんも食べないと動けないよぉって」
「パパとママが魔王軍へのオイルを止めてるけど。それと関係あるの…かな」
「あぁ、そう言やそうだったな。んじゃ、リディア。ファストトラベルだ。三日も休めば、体力もMPも戻んだろ?」
「アル。それは一晩でいいんじゃ」
すると、勇者は邪悪に笑った。
「おーい、魔王レイ。勇者は宿屋を楽しむもの。何もおかしくねぇよな。だってお前はこの意味を既に理解しているんだろ?」
どこかで誰かが言った言葉を引用したらしい。
この世界だと、今も後方で見守っている悪魔だけど。
そして勇者パーティは消え、その悪魔も消えた。
◇
車は燃料切れで動かない。
なんてことはない。
あの事実程度で動かないのであれば、本編中だって動かない。
「こんなところで本編の深堀り…か」
あの頃が良かった、なんて言えないけれど。
それでもなんだか懐かしい。
「あの時は──」
『コンコン』
夜更け。アルフレドが窓をノックした。
そして俺は外に出たんだ。アルフレドが困った顔をしていたから。
「アルフレド…、どした?」
「前衛後衛論争はどうにも結論が出ない。誰が行っても問題ないんだ。マリアも戦えるし、フィーネも問題なく戦える。でも、それは心強い仲間という意味で贅沢な悩みかもしれない。あと、俺が『ファストトラベル』使うと、この車はどうなってしまうのかと考えていた」
イベントでも設定でもない話だった。
この時の俺は、レイモンドイベントを白状しようと思って、殆ど頭が回ってなかった。
「その質問が出来るってことは、良い感じなんだな。それにアルフレドの分析は多分間違っていない。つまり答えはアルフレドの好みだ。だから、ローテーションにしてもいいかもな」
俺は勇者様の悩みに答えていたけど、あんま考えてなかった。
まだ、フィーネひとすじなのかな…とか思ってみたり、だって余りにもピントが外れていた。
「で、車だが正直俺も分からない。女神像のエリアのちょっと離れたところに、同じく瞬間移動するんじゃないかな。多分だけど」
──懐かしい日々。
多少の嫉妬は感じていたけれど、それはアルフレドが若かったから。
今の煮詰めて、凝縮した邪悪なアルフレドじゃない。
アレはだって、新島礼の邪悪な部分だ。
魔王は車の中で肩を竦めた。
「何が多分だ。どう考えてもおかしいじゃないか。当時はまだ、自動運転システムがないんだぞ。過去創造とか関係なしに、レイモンドがそこまで運転してたってことじゃねぇか…。相変わらず、レイモンドに酷い環境だな」
自動運転装置を外せば、ドラステワゴンは運転できる。
AIってのは、とんでもなくプラチナを消費するらしい。
こっちは過去創造で作られた設定だけれど、今なら納得だ。
「地形の把握、運転方法。記録や記憶が関与している。脳神経に近いからプラチナが大量に消費される…か。ま、キラリの技術は魔王軍。これはまぁ、間違いなく公式の裏設定だし」
無意味に運転していた。
あと、考えていた。
これからのこととか、ゼノスたちは無事だろうか、とか。
それと…
『コンコン』
そんな時。車の窓がノックされた。
運転中にノックされる、なんてホラーな展開、なわけない。
レイは車を止めて、車外に出た。
そこには見知った顔が並ぶ。
流石にここまで来て、知らない顔が現れるわけないけれど。
動いている車にノック出来るってことは主要キャラに違いないのだけれど。
「はぁ…。なんだなんだ?家族そろって、魔王様を闇討ちか?」
外に居たのは。
「エルザに何をしたの?」
「アイザはどこ?DSW-003も‼」
考えていたところだったから、魔王は目を剥いた。
「エルザに何かあったのか⁉…ゼノス、何をやって」
「何かしたのはそっちでしょう。MKBは魔王を裏切ったって、ネクタの街にまで噂が届いていたわ」
「魔物とっ捕まえて聞いたら、エルザが言いふらしてるって」
「はぁ?なんでだよ…。危ないことさせるなって言ったのに」
「どうしてアンタが知らないのよ。エルザを連れ戻せって言われてるから、イツマゾクを使えるようにして」
そんな三姉妹の言葉が頭に入ってくるはずもない。
考察厨のレイは、何が起きているのかを考えるに決まっている。
そこで最も単純なことに辿り着くのだが。
「あ…。そか。エルザは四天王の一人。ゼノスもそうだし、あの頃のままなのか。アイザだっているし」
真っ当な四天王として見れば、歌姫三姉妹が勇者に寝返ったと考える。
エルザは魔物たちに信用されていたし、ゼノスだって竜人族の中では慕われていた。
「そんなこと聞いてない。DSW-003を返せ。それからアイザはどこ?僕の攻撃はスキルだから、いつでもお前を殺せるんだぞ」
魔物破壊兵器はスキル。
というより、技術。…ん?正解ってこと?
とは言え。
「お前の三人の母さんも破壊するつもりか?」
「何を言ってるんだ‼味方の魔族には当たらない…って」
「あー、あれな。ゼノスって本当に魔族か理論の話か」
「だから、何を言って…」
「ここにはドラステの四賢者が揃ってる。なら、分かるんじゃないかな」
そこは恐らく解決済みだ。
「確かにゼノスが、竜人が魔族かって言われたら…。魔族レベルが高いからであって」
「お母さん、何を答えてるんだよ。コイツは…」
「注入したのは私たちよ。そいつはレイモンドっていう人間で…」
「悪い人間でね。私たちが魔物に変えたの」
「でも、ゼノスってマロンについてきただけだよねー」
「だから、何を…」
「俺はこう思う。あの皮に多くのプラチナが含まれていた。だから、皮が剥けるまでは魔族の値が出るんじゃないかって。中身はロータス民の子孫だ。女が人間で、男が魔族。今の世界では受け入れられない設定だよな」
つまり。
「僕の攻撃が当たらないのは…」
「いや。正確にはゼノスの皮には当たった筈だ」
「そんなとこ狙わないよ‼でも、アイザは…。ううん。アイザも…人間。だったら…」
「過去からの考察に基づくと、そもそも勇者パーティに魔物は一人もいなかったってことになる。でも、…お前の母さんは別、だ」
「で、でも外さなかったら…」
「更に考察してみると…、人間と魔族の違い…。注入方法の違いから、魔族の方がプラチナが固まって存在してて、そこに刺激を与えるから…バン‼」
「ひ…」
考えるだけでも恐ろしい。
偏った部分が爆発する。特に脳内だと思われるので酷い末路だ。
ゼノスの場合は被った皮が破裂するから、大変なことに…
って‼腕と足の皮の話だよ?ずっと触れてないから勘違いするじゃん‼
だけど、これは僥倖だ。
「んで、俺ってさ。キラリと同じ力を持ってるんだけど…」
「え⁉」
四人共飛びずさる。
そんな力、聞いたことないだろうけれど、怖いものは怖い。
だけど、こんなチャンスは逃さない。
どうしてチャンスが生まれたのかなんて、考えたくもないけれど。
「っと。動くな。やっぱ最初はボロンだよな」
「や、やめて。魔王…様」
とても悲しいことに、残酷なことに。
キラリエンドはそこまで多くない。
これはマロン・カロン・ボロンにも言える。
MKBの場合は、新規でニューゲームを始めて暫くは方法を思いつかないからだ。
「お前たちの研究の先の力だ。三人の研究とヘルガヌスの研究、それを発展させた一人の天才少女によって、生み出された技術だ。…あの状況に似ている…な?キラリを逃がす為に…」
絶望的な状況だ。デジャヴだ。
この四人しか、あの話を知らない。
アズモデは知っているかもしれないけれど、勇者に言う義理はない。
いや、そもそも。
彼が読ませてもらった女神の書にも、こんな展開は書かれていない。
でまかせだと思ったからこそ、アレは今も勇者に傅いている。
「く…。マロン、カロン、キラリを連れて逃げて‼私は…慣れてる…から」
「ダメだよ、お母さん。僕はもう…、逃げない。…っでも‼どうにか離れて。これじゃ狙えな…」
「悪いな、キラリ。ボロン。もしくはリボン。…モヤモヤを晴らしてやる」
「止めろ‼」
「キラリ、逃げるわよ‼」
──『|経験値及び記憶破壊魔法』
そしてボロンは
「やめ…。え…。何?それって…」
一筋の涙をこぼして、全身を弛緩させた。
そして、魔王はボロンを解放した。
その行為にマロンとカロンは目を剥くが、彼女は止まらない。
「まもの破壊ミサイル、アクト3‼」
ミサイルが飛んでくるから、彼女は反射的に動いた。
「魔王様、危ない‼」
「って、バカ‼ここで死んだら意味がないだろ‼」
青髪の悪魔は、射線に入って王を守る。
その動きは魔王の予期しないモノ。だから、
ボン‼とキラリの強烈なミサイルをその左腕に受けた。
同時に。
「魔王様、何を…」
「体内のプラチナが砕ける前に破壊する。こんなところで止まる訳にはいかないんだ…よ‼…それに…高が腕だ」
「高が腕じゃないでしょ。…完全回復全魔法。レイ君の体を修復するの、大変だったんだからね。それにしても魔王様にしちゃうなんて…、何があったんだっけ」
レイ君は目を剥いた。
その間に、マロンとカロンが駆けつける。
「ボロン。どうしちゃったのよ。まさか、洗脳?そいつはレイよ」
「ん?レイだよ。マロン、どうしちゃったの?」
「だって、あんなに憎いって」
「人間に憎まれてるんじゃなかったっけ?だから魔王軍にピッタリって。マロンもカロンも話してたじゃない」
つまりマロン、カロン、ボロンがこの世界に出現するのは、レイモンド・フィーネイベントの後。
プラチナクラスターはそこまでざっくりと抉り取っていた。
とは言え、魔王の格を持っていたから、体が反応した、そんな感じ。
そして、この状態のボロンを見て、気付かない二人ではない。
「記憶…消去の薬…」
「そういえば、さっき…」
「お母さんの研究と…、ヘルガヌスの研究の先…。や、やめろ。レイ…。やっぱ僕のミサイルは効くんだ…。全部…吹き飛ばしてやる…」
憎いレイ。裏切りのレイ。嘘つきのレイ。
そこに加えて、母親の記憶を奪うレイ。大事な記憶を失わせる悪しき存在。
「カロン…」
「分かってる。お母さんたちがボロンを引き剥がすから‼」
「お願い…」
そうなれば、話は早い。
二人がかりでボロンを引き剥がして、キラリのミサイルで終わり。
ボロンは死んだわけじゃない。また教えればよい。
そしたらきっと思い出す。キラリのように。
だが、その前に。
「ちょっと、何をするの?マロン、カロン。せっかく人間を悪魔に出来たんだよ。それに魔王様はお守り…、って。あれ?私、いつの間にこんなに強くなったのかな…」
そう。ここにいるのは魔王軍歌姫三姉妹の一人、ボロン。
勇者の仲間になるような、勇者レベルの二人など簡単に跳ねのけられる。
「私たちが弱い…」
「…キラリ。ボロンごと…やるしか」
「そ、そんなの…出来ないよ」
「そうしないと世界が壊れる。キラリも生きていけない…」
「それに…、あのボロンはもう…」
レイのせいで世界が終わる。
だったら、ボロンの犠牲は仕方ない…筈。
──さて
ここからがプレイヤー・レイの力の見せ所…、いや。
既にプレイヤー・レイの力は発動している。
だからこそ、彼女たちは、キラリもそう思っているのだ。
「キラリちゃん。そんな危ないものを人に向けちゃダメだよ」
「え……」
「マロンもカロンも!キラリちゃんにあんなもの持たせるなんて、絶対にダメ。お母さんとして失格だよ!」
母娘が目を剥く。そして視線を泳がせる。
「説明…いる?俺に聞く?まぁ、いっか。マロンとカロンとボロン、そしてキラリの関係は変わらないよ。思い出したことも過去創造によるもので、過去創造は出来てるし、これは経験値とは関係ない設定だし…。時系列で言ってもかなり過去のことだし?」
「そんなことよりぃ。はい、捕まえたー‼カロンもやってもらったら?順番…でしょ?」
「え?私は…、う…。なんて力…。でも…。キラリのことを忘れない…なら」
──『|経験値及び記憶破壊魔法』
そしてあの時と同じで、カロンの体に異変が起きる。
やはり涙は零れたけれど。
「あれ?キラリと…。マロン?どうしたの?っていうより、ここ何処?」
「うーん。知らなぁい。なんで研究施設にいないんだろ。キラリとお散歩中だったのかな」
「散歩って…。でも、そうだったのかもね。頭がすっきりしてるし‼…って、こら。レイ君はこんなとこに来ちゃダメでしょ。あれ…。魔王様?そかそか。なかなかやるとは思ってたのよねぇ」
「散歩って…。カロンも何ともないの?」
「マロン…。良く分からないけど、やってもらった方がいいみたいよ、コレ。そんな怖い顔してるなんて、マロンっぽくないし。皺が出来ちゃうわよ」
そんな二人の様子は、マロンとキラリの知識では埋められないものだった。
「お母さん。…き、危険だよ。アレは洗脳だよ」
「そ、そうね。勇者様に報告した方が…」
「洗脳?勇者?マロン、もしかして憎き勇者に洗脳されたんじゃない?」
「在り得るわね。勇者に様つけとか、魔王軍らしからぬ言動ね」
マロンも自らの口に手を当てていた。
キラリも洗脳と紡いだ口を押えていた。
そう…かもしれない
「ってことで、マロンの洗脳を解きましょう!」
「ちょっと、待って…」
──『|経験値及び記憶破壊魔法』
とは言え、プラチナクラスターの発生条件は相手が無力状態になった時だ。
即ち、洗脳の濃度に違いがある。
これまでのヒロインは…、先も話したが残念ながら他のヒロインよりも濃度が薄い。
「え…。私…本当に…洗脳…を…」
彼女も涙を流して、泣いて泣いて、すっきりした顔になった。
その様子を見て、キラリは考える。
というより、キラリに選択肢は残っていなかった。
だって、目の前の家族との絆。
この絆は、今までの記憶にはないものだった。
だけど
「お母さんを覚えている…のなら…。僕…も…こっちの方が」
◇
キラリにとっての『プラチナクラスター』。
それは、もう少し手前まで遡るもの。
「ガララライオン…っていう魔物を倒した」
「ほぉ。お嬢様もさぞ活躍したでしょう」
「ヒッポヒポトトって魔物を倒した…よ」
「どうでしたか?」
「次はね——」
デスモンドの繁華街の裏路地にある喫茶店
「まもの…破壊兵器…。聞いただけでも、凄そうですね」
「えっと…、その…。ただ…」
「ただ…?」
「自信がない。僕、もうすぐ行かなくちゃいけなくて…、暫くここに戻ってこれないみたいで…」
「大丈夫」
俯いていた僕の頭に手が置かれた。
気付けば目の前に顔があって、でも薄暗くてあんまりは見えなくて
薄暗いどころか、薄くなって。あの人が消えていく。
本当は「また、話して」と言いたかったけど…
もう、僕には分からない
僕の秘密の陽だまりは…、何処…だっけ…
「レイ、僕は………」




