第181話 傷物にしたくないから、新たなルールを設ける。
ドラゴンステーションワゴンは、SUVという特殊金属で出来ている。
この世界で最も優秀な金属だが、黄金とプラチナが入ったモノを全てそう呼んでしまうから、強度の差は生まれる。
「って‼戻ったそばから、魔法弾の雨あられって‼」
正確には運転席から出た瞬間に、ガラス交じりの魔法が飛んできたから、車の影に隠れたのだが。
「アイザとエルザを何処にやったのです‼」
遠くから聞こえるのは、麗しの修道女の声。
ひょっこり顔を出したら、違うヒロインの攻撃が来るかもしれない。
「なぁ、ちょっとは話し合おうって思わないのか?」
「話し合うわけないでしょう‼アンタには恨みがあるのです‼光女神の逆鱗」
奇妙な魔法を使うドラゴニアのお姫様。
光の女神を操っていたのは、ラビなのだ。
「まぁ、待てって。今からイツマゾクで飛んでいく…」
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『世界の終わりが来る。だが、こんなこともあろうかと、光の女神は魔王封印の術を勇者に与えていた』
アルフレド「悪を封印できれば…」
リディア「それが一番良いのです‼」
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「光の女神の迷宮‼」
ここで新たな魔法が生まれる。
新たな設定が生まれた。
それこそプレイヤーの象徴だ。
とは言え。
「流石にそれは読めるっての‼」
「く…。流石にこれは読めるか」
「…というより、よくやった。ドラグノフ‼」
その先も読み通り。
壁の中にワープをしない限りは、魔王城で起きたことと同じ。
あの巨体が物凄い速さで弾き飛ばされた。
「何の何の。この程度、ベンジャミールの父上の…」
「って、いつまでも引っ張るな‼お小水ネタは一回だけって言っただろ‼」
「ぬ。そうでござったか。勇者殿が嬉しそうに聞いておられたので…」
「き、聞いてねぇよ‼っていうか、二人をどこにやった‼」
魔王レイは僅かに目を剥いた。
どっちが喋っているのか、ボイス無しでは分からない、というのとは別にして。
プレイヤーではあっても、プレイヤーではない。
新島礼であっても、新島礼ではないのだ。
「ドラグノフの件で手一杯…?さて、今度こそ。イツマ…」
「させない‼光の女神の迷宮‼」
「リディア。むやみに魔法を使うな」
「く…。やっぱり嘘つきレイ。でも、どうしてですか。少しでも可能性があるなら」
再び現れた結界に跳ね飛ばされて、ドラグノフがドン‼と魔王の後ろに着地する。
しかも、サラを抱えていたのだから、大ファインプレイだ。
「サラ。よくやってくれた。ドラグノフも助からないといけない命だ」
「あ…、ありがとうございます…」
「でも。サラの命も同じ。…ってことで、ここまでな。ラビ、イーリ。どっかで見てるんだろ」
「え…」
すると、何処からともなく声がした。
「まぁ、そっすね。旦那も覚悟が決まったみたいだし」
「仕方ないですねぇ、ご主人」
姿は見えないけれど、確かにここに居る。
「で、ご主人。ちょっとは前に進めそう?」
「…そう言いたいけど、まだ完全じゃないかな。だから」
「へぃへぃ。ま、頑張ってくださいや」
「あぁ。だから」
「分かっておる。じゃから、戻るぞ。貴重な男の娘のサラや」
「私はレイのこと…」
サラの姿は消えた。
そして…
「よく分からぬでござるが…。リポストしても」
「よくねぇよ‼そもそもポストもないし。最近してねぇし‼」
自分のようで自分ではない、何かに向き合う。
「さて、そろそろ行くか。これ以上はドラグノフの世話にはなれないし」
「おいおい。逃げてばっかの魔王様が戦うって言うのか?」
「勇者様。何を言っているのかな。そろそろ僕との約束を果たしてもらいたいんだけど」
この世界では良くある組み合わせ。
いや、恐らくというか絶対に、今までの世界でも勇者とアズモデは協力関係だったに違いない。
「分かってるって。だから安全に封印するんだろうが」
「アル。こんな奴、放っておきましょうよ」
「そうですわね。…でも、確かに。封印は難しいそう」
とは言え、ここまで近づくことはなかったのだろう。
過去の設定を植え付けられたヒロインは戸惑っている。
だが、プレイヤーは語りたい。
同じプレイヤーの記憶を持った勇者に。
それは奇しくも、横並びの金色同士の会話と同じだった。
「勇者アルフレド。封印だと?お前の口からそんな言葉が出るなんて、おかしいじゃないか。だってお前はこの意味を既に理解しているんだろ」
すると勇者の眉が吊り上がる。
「お前だって‼この意味を理解してるだろ‼」
「はぁ?な、何を言って…。お前はだって」
「俺はアルフレドだよ。せっかく、いい感じにぶっ壊れてんだ。ほら、これでどうだ?」
♤
『アズモデは邪神デズモア・ルキフェになるために力を蓄える必要がある』
アルフレド「魔王が死ねば、邪神が現れる。それも奪われているんだろ」
アズモデ「その通り。でも、それが何か?」
アルフレド「力が違い過ぎる。千年くらいは力を溜めないといけないんじゃないか?」
魔王レイ「それはない。そこまで時間が掛かって堪るか。アズモデが生まれてそんなに時間は経っていない」
アズモデ「うーん、成程。確かに僕の生まれで考えれば、五十年くらいかな…」
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世界が歪む。
そして、勇者はほくそ笑む。
「チッ。たったの五十年かよ。でもまぁ、それくらいありゃいいか」
更に魔王の顔が歪む。
その間を赤い閃光が突き抜ける。
「ドラちゃんを返せ!!」
エミリの憎しみを孕んだ顔に、魔王の顔が蒼褪める。
エミリエンドは最も辿り着きやすい。
毎回、毎回。子だくさんに恵まれて、その我が子が燃えていく姿を目の当たりにしている。
そしてレイは感情を失っていく。
ならば、この憎悪を消して良いのか。
消えてくれるのか。
「ドラグノフ。ちょっと退いてろ」
「は‼」
体高2mの魔王と、体高5mの破壊王。
どちらも大きいが、ドラグノフの一歩後退は、人間レベルでは大きな空間に違いない。
そして。
「魔王レイ、死んでしまえ。戦少女の斧‼で、脳天かち割りぃぃぃぃいいいいい‼」
ズゥゥゥンと大地が割れる。
その瞬間にエミリは魔王の姿を見失った。
「エミリ‼上だ。もう、いいぞ。設定は完了したから、その魔王は用済みだ」
「俺より多くの記憶を引き継いだ…筈。…どうして…だ」
「下からのぉおおおおお‼」
上空に逃れた魔王に向かって、戦斧を打ち上げる。
更に別方向からリディアの魔法が飛ぶ。
「光の女神の迷宮‼」
地面から、光の女神像が出現するという、意味の分からない魔法だ。
魔王を囲むように出現したソレのせいで、ドラグノフは更に後方に弾かれる。
そこで狙うは
「凍える吐息‼動きを封じます‼」
ソフィアの神聖魔法。
エリア違いでもお構いなしに飛んでくる。
「ふむ。金道化師の銀槍。僕も協力しないとね」
金色男悪魔が銀色の槍を三本投擲。
このまま飛べば串刺し。
下に逃げれば、斧でかち割られる。
アズモデも加わった複合攻撃に、魔王は眉を顰めた。
色々と物申したいのだけれども、先ずはコレ。
「悪魔と人間の定義づけについて——」
♤
『悪魔と人間の定義づけについて』
悪魔誕生は、事故によるものだった。
それは金とプラチナを一気に流し込んでしまうというもの。
この世界で、今の魔族で一番初めに生まれたのはボロンである。
ボロン「そうだけど、何か?」
そして、そんな魔族と戦える勇者たちの正体が問題だった。
その答えは、辿り着くモノは同じとなった。
キラリ「僕みたいに中途半端なのもいるくらいだし」
カロン「一気に入ると、体がまだら模様になって、記憶が無くなったり形態が変わったり」
マロン「っていうより。今更、これが何なワケ?」
魔王レイ「あくまで確認だ。つまり勇者と花嫁たちは、魔族同様即死でなければ、回復魔法で修復する」
勇者アルフレド「ま。そこは異論ないな」
フィーネ「そうね。同じなんだから差別は良くないわね」
リディア姫「でも。やっぱり意味が分からないです。今更そんなことを」
ソフィア「でも、大切な事ですよ。私たちの体の話です」
ドラグノフ「我が証人だ。我はがぶ飲みしたからな。黄金とおしょう…」
♤
無論、この条件は通る。
過去創造により、勇者と人型魔物の違いは経験値、つまりプラチナメタルの摂取方法の違いだけになった。
そして何より、この条件は勇者側に有利に働くものだ。
それを魔王及び邪神が、そうしても良いと言った。
その瞬間。
「へ…」
戦斧が勇者側に向かって飛んでいく。
赤毛の少女の右腕と一緒に。
「だから、早く回復して貰え。エミリ」
そうは言っても、エミリは目をひん剥いたまま。
だって、何が起きたか分からなかった。
さっきから、魔王の姿が時々見えなくなるのだ。
「あ…れ…。これって…」
それから三秒経ってから、魔王はエミリの首根っこを掴んで、ふんぬと放り投げた。
「死ぬまで呆けているつもりか‼ソフィア‼」
「はい‼」
弾かれたようにソフィアが飛び出す。
完全に条件反射だけれど、その行動は正しい。
「完全回復全魔法‼え、エミリ…。大丈夫ですか?」
「う、腕が…。…あ…れ?今、アタシ…」
「大丈夫。魔王レイが条件を付け加えたのです。これから私たちは部位欠損も怖くありません」
そしてもう一度、エミリは目を剥く。
「え…。そうだったの?ど、どうして…」
「そんなの知りませ…」
「いいや。それくらい分かるだろ。レイでもあり、レイモンドでもあるんだ。傷物にしたくないんだよ、あいつはな」
大正解。
条件が呆気なく通った理由を、勇者本人が一言で説明した。
どちらも新島礼なら、ヒロインを守りたい。
とは言え。
「勇者…様。あ、あいつ。勇者様みたいな戦い方を…」
「勇者様みたい…とは」
「置き魔法だよ‼アイツ、時々見えなくなる。勇者様と特訓…。アレ…?」
実は戦い方が全然違う。
勇者アルフレドは、そんな工夫をせずとも余裕で戦える。
力も俊敏さも装備できるものも防御力も、レイモンドとは比較にならない。
「あぁ、そういうことか。アイザとの連携の話だな」
「えっと…。そうだっけ」
「そうなんだよ。実際はな」
そも、光の勇者は闇魔法なんて覚えない。
そして、この間にエンドを迎える順位、第二位の彼女が動き出す。
「もう、殺しちゃっていいんだよね。マリアが一発で首を取って来るから‼」
だが、二番目にちょろい女が飛び出した直後
「その前に‼成程…。マリアは俺と戦う直前で、自分にバフを掛けろよ。誰かが俺の周囲に幾重もエリアを展開したせいか。どうやらバフが掛かりにくくなってるらしい」
魔王がエミリとの戦いの経験を伝えた。
魔王ニイジマも見たことがない魔法だったから、誰かに言いたくて仕方なかった。
「え…?そうなんだ…。流石は…、ん?」
「チッ。常識的に考えてって意味だよ。あー、もう。リディア。アイツの周囲に結界を掛ける意味はもう無い」
「そうなのですか?…だったら最初からそう言ってくださいませ」
はぁ、と肩を竦めてリディアが掲げていた腕を下ろした。
すると、ドダっと巨人が動く。
その様子に、マリアが一瞬身構えるが、巨人は彼女の方を見ていない。
「魔王様。拙者、帰って良いでござるか。畑が心配で心配で」
「あー。そうだな。ドラグノフにとって、あの畑は特別だもんな」
「そうでござる。あそこには拙者のお」
「いい‼そのネタはもういいから、帰っていいぞ。また何かあったら呼ぶから‼」
そして、ドラグノフは魔王軍幹部専用魔法を使う。
ドラグノフからその魔法を取り上げることは出来ない。
それがドラグノフを呼び寄せなかった理由である。
どうやら、この世界は闇落ちフィーネイベントがお気に入りらしい。
ただ、その前に
「エミリ様。お仲間ともう一度、鍛えなおされては…」
「ドラグノフ。余計な事を言うなって」
本気の心配だが、本気の煽り文句に聞こえる余計な一言だった。
ヒロインたちの顔色が変わる。
ドラグノフは何度も倒した筈なのに、だ。
「何よ、アイツ。マ、マリアは弱くなんかないんだから‼」
だが、結局倒せなかった。
この世界のドラグノフは強かった。
少しずつ、焦りが膨らんでいく。
「待ってください‼…魔法・物理防護魔法。ご自身でも回復を忘れずに」
何かがおかしい。
何もかもがおかしい。
「分かってるから‼エクナベル家は勇者様の味方。絶対に…許さない。パパとママまで裏切って…」
だけど、この怨嗟は止められない。
「…あぁ。そうだな。掛かってこい、マリア。俺を殺しに来い」
この世界には、滅びの形というものがある。
それはこの世界では、まだ姿を見せていない。
一つ言えるのは、プレイヤーの周りから発生すること。
マリアはマハージとイザベラが燃えていく姿を何度も目にしている。
だから、止められない。
レイという人間を絶対に許さない。




