第180話 これってつまりドラステチートMOD?
サラは勇者の仲間になっていない。
そもそも、彼女()は正真正銘、世界で初めて発掘されたキャラだった。
だからこそ、自分を見つけてくれたレイのことだけを考えていた。
彼女が伯父の研究を続けた結果、導いたこと。導けたこと。
「過去創造がなくても、在り得たかもしれない」
でも、確定されたのは過去創造があったからこそだ。
「あの娘は魔族だった筈だろ?」
「でも、ここに入れたってことがその証明だ」
遠くの方でドラグノフも頑張ってくれている。
長引いてしまえば、勇者たちが連携を取ってしまえば、四天王第二席のアズモデが動けば、あのドラグノフを以てしても、やられてしまうだろう。
「ドラグノフも死なせない。時間はないし、今がチャンスだ」
「待て。そんなぶっつけで…」
「ロータスの民を守る。それがお前の使命だろ?」
剥けたばかりの竜の手に、竜王は手を突っ込んだ。
「当然だ。王ならば、…尚更」
「あぁ。頼んだぞ。って、その前にあれは続きが必要だろ。こんなふうに——」
♤
『世界の終わりが来る。だが、こんなこともあろうかと、人間たちは魔王軍の技術を会得していた。量産型ドラゴンステーションワゴンにAIを内蔵させて、人々を安全に輸送する』
キラリ「…ってとこかな。でも、開発できる人が僕しかいない」
開発できるのはキラリとマロンとカロンとボロン。
♤
「っておい。それでは人材が確保されてしまうぞ」
「分かってるよ。でも、今は状況が変わってる。
♤
マロン「それだけじゃ無理よ。エクナベルの石油を入れたら走れるってわけじゃないんだから」
カロン「特に自動運転は人間の思考にも似た回路を使っているの」
ボロン「オイルの分離工場が停止してる時点で、いずれ動かなくなってしまうわね」
キラリ「うーん。それじゃあ、制限モードを追加…ってとこかな」
幻油は確保できても、プラチナメタルへの変換は不可能なため、自動運転装置に制限モードを追加するしかなかった。
♤
その瞬間。
遠くを走っていたドラステワゴンが停止した。
「マジ…か。でも、当然と言えば当然。あ、でも…。マロンとカロンとボロンはやっぱあっちだぞ。ちょちょっと戻って…」
「ゼノスは勇者の仲間だった時、イツマゾクは使えたか?」
「な…。そういえば、そうだ。だから、逃げ出したくても逃げ出せんかったんだったな」
「はぁ。それは悪かったって」
今の彼女達では残念ながら、研究施設に戻れない。
そして、ドラステワゴンがプラチナメタルで走っていることは、過去創造で決定済み。
そもそも、何も必要とせずに走れる方がおかしい。
「ゼノス。そんなことより」
「あぁ。俺の働き次第ってことだろ。任せろ。俺が姫を取り押さえて。やっとこの手で姫様を抱ける」
「って、それは無理だよ。お前よりアイザの方が強いかもだ。だから」
「分かってるよ。言ってみただけだ。順当に考えたらそれしかない」
「だったら、移動後。即行動だ。エルザを任せたぞ」
ドラグノフには申し訳ないが、…というより楽しんでいるようだが、完全に死角になっている場所を狙う。
つまり、ドラゴンステーションの中。
中から外は見れても、外から中は見えないマジックミラー。
そこにダイブする。魔王軍だから可能な手段。即ちどこでも移動できる例の魔法。
ドン‼
「な…。ゼノス‼どうして…」
「黙ってろ。大人しくしてたら乱暴はしねぇ」
「ゼノス‼お姉たまを…。…レ、レイ‼わらわたちに何をぉぉおおお‼」
ドラステワゴンの中から、勇者たちの戦いを見ていた。
食いつくように見ていた二人の背後に、平均身長195㎝の大男二人が乱入した。
これはもはや犯罪。
だが、レイを確認した瞬間、アイザとエルザの顔色が変わる。
「アイザ姫。あとで如何様にも俺を罰してください。ですが、一歩でも動けば…」
「お、お姉たまを放せ…」
「放して欲しかったら、大人しくするんだ」
ロータスの民、特に女は仲間意識が高い。
だからこそ、互いが人質になっていた。
申し訳ないと思いつつも、それを利用する。
「アイザ。あたしのことはいい。あたしはあの時、死んでた。勇者様に助けてもらわなければ、あたしは…」
過去の記憶ではそうなのだ。
あの一回の記憶に惑わされていただけ。
そして、おそらく次の回には、エルザ救出を図っただろう。
とは言え…
「本当は死んでたの。あたしは…レイに助けられた…だけ…。だからレイに助けを、…え?」
「お姉たまは…死んじゃ…いや…なのだ。わ、わらわは…」
「魔王‼本当に大丈夫なんだろうな?」
アイザはエルザを人質に取られて、大人しくなった。
だから、今しかない。とは言え、ゼノスは心配に思う。
だけど、ここからなら白衣の眼鏡っ子が見える。
「前例があるんだ。それに二人目、サラも成功した。MKBの能力を信じろって」
「前例…?」
「やめて。アイザに…えっとそれは…、何?」
よく考えたら、とんでもないオーパーツ。
人族を魔族に変える力の前には霞んで見えるかもしれないけれど、
——記憶を奪う薬も相当な代物だ。
そして、この過去創造によって生まれた世界の記憶とは。
「経験値クラスターだ。死ぬことはないし、体の構成要素である黄金の器には何も干渉しない」
「本当に…それだけ…?魔王軍の技術は…。クソッ‼ゼノス、放せ‼どうしてあたしの体がこんなに重いんだ…」
「お姉たま。大丈夫…。わらわは…お姉たまの…為…に…」
アイザは『お注射』を受け入れた。
キラリの記憶を奪ったのと同じ。
「レイ…。助けて…。お姉たま…も…」
「魔王レイ‼アイザに…何を…」
「お姉たま…、良かっ…。レイ、ありが…」
その時、アイザの目が剥かれる。
その瞳が涙に塗れた。
「いや…。レイ…。レイ…。それ以上は…いや…。わらわは…レイを…」
◇
薄い黄色の髪の少女は、女神の像の結界を無視していた。
それまでの道のりも、何の疑いも持たれずに通過出来た。
それは…、彼女が人間に戻っていたから。
「たくさん勉強したんです。これが私なんだと思い出す為に」
サラは自らの体に、経験値クラスターを打ち込んだ。
その前に誰かの協力で、今までの出来事を刻みんでいたらしい。
記憶を失って、最初に見るのはそこだと分かるようにしていたらしい。
「これで恐らく、おかしくなった世界の人々は落ち着きを取り戻します。…ですが、あの方曰く、時間とは人間が勝手に定めたモノ…らしいので」
それだけで、誰がサラに協力したのか分かってしまった。
けれど、気付かないように心掛けた。
とは言え、流石にこの言葉は口を突いて出る。
「過去は存在しない。あるのは…設定…だけ」
「え?よくご存じ…。っというより、魔王様がお教えになったのですね」
そう、つまり。
何度も繰り返されたのではない。
毎回破壊されて、その度に作り直されたのではない。
神の眼で言えば、全ては同一の世界線で行われていた。
そんなの人間には分かりようのないことだけれど。
「だから、…どこまで失われるのか。私には分かりません。ですが、その…」
「破壊神によって送り込まれた、別の設定の記憶という経験値を消すにはこれしかない…」
失われたのではなく、再設定されただけ。
であれば、どうしてプレイヤー格は残っているのか。
それは当然、神様と約束をしたからだ。
「…分かった。俺はこの世界を守る。例え俺がどうなっても…」
ただ、これは神様の理屈だ。
秩序だったモノが混沌に変わるのが時間の流れだと感じる。
記憶があるから、時間が流れていると感じる。
「レイ…。ダメ。レイはお姉たまを…。この記憶は…取られたく……」
そして、この結果。
♤
レイ「プレイヤーのみに与えられる力…」
???「そうじゃな。ワシと約束をしたお主の設定はずっと残り続けておる」
レイ「…約束、したもんな。世界をちゃんと作るって」
???「それにワシとお主は一心同体じゃからの」
レイ「イマイチ、実感湧かないけど…」
???「ならば、こうしてやろう。…プレイヤー・レイのユニークスキル『プラチナクラスター』。積み木も積めぬワシらにお似合いの力じゃろう?」
レイ「俺のユニークスキル…」
レイは『プラチナクラスター』を習得した。
相手が無防備の状態でのみ使用が可能。
レイ「この力は強すぎる」
???「問題あるまい。お主にとって、この代償はあまりにも大きいじゃろう?」
♤
顔を、薄紫の髪を涙で濡らした幼女は、ゆっくりと目を開けた。
「お姉たま‼ゼノス‼それから…、だぁれ?…あ、お姉たま。あの怖い人が」
妹の明るい顔に、姉エルザは安堵した。
そして睨みつける。
「そいつは魔王レイだよ。レイ。早くアイザを」
「ううん。違うよ。この人は知らない人。ほら、お外‼あの怖い人が」
まだ、成長が止まっていない幼女の柔らかくて小さな指が、車のガラスに押し付けられる。
その先で目にしたのは…
「アズ…モデ…。どうして彼奴が…。お前の…」
「ゼノス‼お姉たまを…」
「姫。…少々お待ちください。レイ、急げ。エルザにもその権能を…」
「分かっている。アイザ、お姉たまの怖い顔を取ってやるからな」
「え?え?どういうこと…なのら」
エルザはまだ睨みつけたまま。
彼女の眼には、魔王レイが洗脳したように映る。
だが、彼女もアイザを人質に取られては身動きできない。
「本当に逃がしてくれる…んだな?」
「そこは問題ない。俺様がいるからな」
「そこだけは信頼してやるよ、ゼノス」
「お前が信頼するな。…分かった。絶対に…」
——『プラチナクラスター』
今度は注射ではない。
プレイヤーのみが持つ、経験値パラメータ調整能力だ。
とは言え。やはり代償として…
「待って。どうしてあたし、レイと敵対し…。え…。いや…。あの思い出だけは…。お願い。ここで…」
この世界の思い出も失われる。
それは仕方のないこと。全てが同一の世界の経験値だから、ここで起きた出来事のみを選び取ることが出来ない。
だからこその代償なのだ。
「レイ。忘れたくない…。止めて…。あたしはアナタのことが…」
勇者レイはアイザとエルザを同じ場面で助けた筈だ。
そのタイミングしかありえない。いや、もしかしたらもっと前に助けたかもしれない。
ならば…、そこまで破壊する必要がある。
「大丈夫…。何の心配もない。ロータスの民を…、任せたぞ。ゼノス」
竜人は強く頷いた。
「お姉たま‼」
「アイザ。大丈夫よ。…ゼノス。アズモデから逃げたいの」
「レイ…。俺にもやってくれないか。俺はレイモンドという男に腹が立って仕方がない…」
過去の記憶を引き継げない彼。
そしてこの世界で成長した彼だからこそ、二人を任せられる。
…というより。
「お前がレイモンドに腹を立てるのは…、設定だ。気にせず、二人を連れて逃げろ」
久しぶりの運転で、殆どネクタ近くまで来ていた。
そこで運転席側からドアを開けて、三人にご退席を願う。
「レイ。俺は…」
「戻って来るなよ。…この力で確信出来た。滅茶苦茶な設定は予想通り、勇者から出ている。また、二人の記憶が書き換わらないよう…。世界が壊れてしまわないよう…。俺が頑張るから、な」
これがアイザとエルザの救出劇。
設定が滅茶苦茶になったキャラクターは、残り10人。




