第178話 この世界線の武人は一味違う。
闇落ちエンドは高速スクロールでの終わり。
記憶の片隅にちょこっとだけ存在する。
とは言え、この世界ではガッツリ経験したのだ。
「ソフィア、回復だ。これでハッキリしたな。やはりハッタリだ」
「どうしてそんなことが言えるのですか!…完全回復全魔法」
「ありがと、ソフィア。アルフレドはどうして後ろに下がったのよ!」
負け犬たちの戯言のせいで、アルフレドは最初の一歩から間違えていた。
それでは、正解は何だったのか。
高が知れてるエンドは全滅イベントだから、何をやっても駄目。
だから、遠距離でチマチマやるのではなく、接近戦に挑むべきだった。
「い、今から行こうと思ったんだ。だが、女神の像への攻撃だけはするな」
「おいおい。勇者が聞いて呆れるなぁ」
「全くだぜ。昨晩は派手に楽しんでいたクセになぁ」
その間にも負け犬は吠える。
エリア外からワンワン吠える。
「とにかくドラグノフを倒す。皆、いつもの様に戦うぞ」
「分かってる」
「ドラグノフ、頑張れ」
「破壊王よ!貴様の戦い、見せてもらうぞ!」
「ソフィアは回復を。マリアはバフを。フィーネは」
「カマイターゼね」
集中力を欠く状況だが、実は勇者は慣れている。
いつもの野次が二倍になっただけだ。
「掛かってこい、勇者。我はずっと待っていたのだ!」
「エミリ!赤だ!!」
「うん!」
ドラグノフは4本の腕それぞれに白、黒、赤、金の剣を持っている。
その赤の攻撃は吸血効果があるから、女戦士に受け止めよと言った。
「ぬぅ!エミリ…殿。危ないでござるぞ」
「ふぇ?」
武人剣がエミリの少し上を通過する。
そして、その隙を見逃す勇者ではない。
「エミリ、チャンスだ。一緒に行こう!」
勇者は金色の剣の脇を抜けて、エミリは赤の剣を潜って、ドラグノフの全ての剣を潜り抜ける。
「ぐ…、何…だと!?」
だが、ドンと金髪勇者のみが弾かれた。
そして、ドラグノフは勇者そっちのけで跪く。
「エミリ様。エミール様とキリ様がお待ちです…」
「あれ…?ドラちゃん…だったの?なんで…ここに…」
「いや、ドラちゃんって!!エミリの家の便利魔物じゃないから!!」
と、魔王様は小声でツッコんだ。
そこに──
◇
ザワッとヒロイン達に緊張が走る。
やはりまだ、闇落ちエンドを気にしているのだ。
それを嫌ったフィーネは肩を竦める。
「エミリの知り合いなら、仲間にしちゃえば?アル、問題ないでしょ?」
「あ…。あぁ、そうだな。ドラグノフは」
「エミリ様、お父上とお母上が」
「んと。えっと…。ドラちゃん、アタシ達と一緒に魔王レイを倒さない?」
「魔王様…。それはなりません。魔王様は我の主…」
「なんで…?だってレイなんだよ?ねぇ、勇者様、説得してよ」
そんなこと言われても、なのだ。
そもそも、魔王前でその後はレイモンドを倒す流れとなる。
そこまで行って、やっと一息つける。
何より、ドラグノフが居なくなれば、闇落ちエンドが起きなくなる。
因って、ドラグノフの生存率は0%だ。
「アルフレド様…」
だが、ここで神の導きが到来する。
キラリを伴って到来、即ちMKB。
「ドラグノフは武人よ。強い者に従う決まり」
「今の魔王も、かつてドラグノフと一騎打ちしたって」
「それで勝ったから、魔王レイに忠誠を誓っているの」
これは勇者にとって僥倖である。
「そうなのか…?」
「…そうでござるな。もしも拙者を倒すことが出来れば、あるいは」
どうしてエミリの家にいるかって、そりゃキリに腕相撲で負けたからだ。
であれば、簡単な事。
「だったら、やるか」
「待ってください。本当にやるのですか?いつもの勇者様の戦い方ではありません」
「止めてくれるな、ソフィア。レイモンドがやれたのなら、俺にもやれる」
そもそも、レベルカンスト。
負ける道理はない。
勿論。ここは『新島礼』の記憶を受け継ぐ者。
ソフィアに寄り添うふりをして…
「こっそりバフを掛けてくれ」
「そ、そうですね…。では、魔法・物理防護魔法」
すると、勇者の体にエメラルドの光が宿った。
そこをツッコむ者は誰もいない。
今度はフィーネの側により、小さく囁く。
「ドラグノフは後ろに目がある。だから、密かに牽制してくれ」
水色の長い髪が上下に揺れるのを目端で捉えて、次は桃色髪の少女のところへ。
「マリアも…。隙を見て攻撃しろ」
「え?…ううん。そ、そだよね」
そして、遂に勇者はSUV剣を抜く。
「さぁ。俺は一人だ。正々堂々と戦え。武人よ」
「うむ。準備は整ったようだな」
◇
白は通常攻撃、黒は全体攻撃、赤はHP吸収攻撃、そして金色は5%の確率で痛恨のダメージを与える。
四刀流なのだから、二回に一回は四つの攻撃が同時に来る。
その程度のことは頭に入っている。
「俺が勝ったら、本当に部下になってもらうからな」
「武士に二言はござらぬ。では…参る‼」
ドン‼と大地が唸り、巨体が勇者に迫る。
なんてことはない。
「一対一で、俺に勝てると思うなよ」
ここは流石に百戦錬磨の勇者である。
「光女神の盾‼んで、勇者大雷風神斬‼」
巨大な光の盾で黒刀を弾き、白刀を余裕で躱す。
そこから、範囲攻撃でドラグノフの四つの腕と胴体を攻撃する。
完璧なタイミングだったが、同時に…
「武人巨人の大怪力‼」
巨体から衝撃波が発せられて、アルフレドの体が後方に吹き飛ばされる。
「く…」
その影響で、必殺剣の出所が遠のいて、四本の腕に軽い切り傷が出来た程度に終わった。
だが、得られたものは勇者の方が大きい。
「皆、見たか?」
「傷が出来てた‼フィーネ、良かったね‼」
「あ、当たり前じゃない」
最初からこうしておけば、なんて勇者は考えない。
そのまま、大地を蹴って上方に飛び上がる。
「エミリ、見ておけ‼」
「うん‼」
舞い上がった理由は、ドラグノフの体の構造にある。
一番厄介な赤刀と金刀が、二本の腕が邪魔で振れない。
上を狙うのが、ドラグノフ戦の基本。
「ふ。やはり上か。魔王様と同じ…」
一度やられた方法だ。
この動きは何度もシミュレーションした。
だから、ドラグノフは白と黒を構えていた。
「…だろうな。やっぱ俺の方が上だ」
「ぐ…」
ドラグノフの腕に激痛が走る。
そして、一瞬の隙が生まれた。
「天よ轟け!…英雄雷鳴剣‼」
「なんの…。これしき…」
「わ。どっちも凄い‼アルフレドとドラちゃんって…」
エミリの言う通り。
武人は痛みに耐えて、電撃属性の勇者の一撃をそのまま二本の腕で受け止めた。
「へぇ…。やるじゃん。俺の置き魔法で片腕失ってんのに」
その声と同時に、ドンと地面に落ちる金刀。
エミリは驚いて、ドラグノフに心配そうな視線を送る。
「エミリ。ちゃんとアルを応援しなさい。アルはちゃんと手を抜いているのよ」
「わ、分かってるよ」
直後、アルフレドはソフィアの側に着地。
僅かに緑に体を輝かせて、再びドラグノフに相対する。
「成程。なかなかやるでござるな。魔王様と似たような気配にござる」
「はぁ?そんな訳ねぇだろ。俺は勇者だぞ」
「なれば、レイは魔王」
「勇者は魔王を倒すんだよ‼」
舌戦だけではない。
今度は一風変わって、真正面からの打ち合いだった。
黒刀はグループ攻撃だから、一対一では白刀と変わらない。
だから、気を付けるべきは赤い刀。
「これはどうかな?」
「来ると思ってたよ。HP吸収させると思うなよ」
そしてもう一度、上空へ。
これはもうお決まりのパターンだ。
だからこそ、勇者は再び叫ぶ。
「エミリ。もうすぐだ」
「う…うん」
「よそ見をするとは、勇者殿は余裕ですなぁ」
「バーカ。俺はレベルをカンストしてんだぞ。目を瞑っても…」
カッコよく、剣を鞘に納め、そこから抜刀。
及び、詠唱。
「勇者超大雷神斬‼超大火炎魔法‼」
「強烈な一撃に御座る‼なれど、炎は我に効かぬ‼」
「は?なんだよ、その設定。って、まぁいいか」
「ぐ…。また、置き魔法…か。いつの間に。だが、ただではやられん‼」
「ぬわ‼…なんて力だよ」
今度、ドスンと落ちるのは赤い刀と、その腕。
エミリは目を剥いた。
だが、今度は
「エミリ。勇者様、頑張ってるよ」
「うんうん。僕たちも応援しよう」
マリアとキラリがエミリの両腕を掴んだ。
「大丈夫です。勇者様は…。完全回復全魔法‼…不殺で戦っています‼」
そして後ろから、リディアの声。
リディアの後ろから飛び出してくる、金色の勇者。
「あぁ。エミリの友達なんだろ。俺が殺すわけないだろ」
「そ、そか。そうだよね。ドラちゃん…。そ、そろそろ…。降参したら…」
エミリの両親は、どれだけ娘が説得しても、魔王支持を止めない。
ミッドバレイで、修道女がソフィアに見せた態度と同じ。
でも、ドラグノフが勇者側についたら、考えを改めてくれるかもしれない。
もう四本の内、二本も失っているのだ。
これ以上失ってしまったら、仕事に支障をきたす。
「だ、だから…。ね…」
ドラグノフは一方的に押されていた。
だから、武人は既に死に体…?
——否‼
「何を言っているでござるか、エミリ様。これで漸く、拙者も準備が出来たというもの」
そう、これは。
魔人レイに言われたからではない。
「勇者殿の花嫁たちは良く出来ているでござるなぁあああああ‼」
「え…。ど、どういう…こと…」
この世界のドラグノフは強い。
古龍ベンジャミールとの戦いで辿り着いた、頂の景色を知っているのだ。
「我は、ベンジャミールの父上のおしっこを飲む前の姿…也‼」
「は…?何…言ってんだ、お前。これ以上やったら、マジで死ぬぞ?」
「ほう…。これは舐められたものだ。さぁ、魔王様を越えてみせよ」
「な…」
アルフレドは目を剥いた。
体は大きいが、殆ど人間と変わらない形の男が、白と黒の刀を捨てて、拳を突き出したのだから。
「さぁ。来られよ。我は最強を目指す者…也‼お主もベンジャミールの父上のおしっこを飲んだのでござろう‼」
「飲まねぇよ‼無手って、どんな改変がされてんだよ」
途中から全く意味が分からない。
本気なのか、ふざけているのかも分からない。
ただ、その様子にドラグノフは首を傾げた。
「…あぁ、そうであったな。感謝を以て戦わねば」
そして、落ちた四本の刀の中から、金色の刀を選び取る。
その理由は至極単純なものだ。
だって、戦っていくうちにIQが落ちるタイプの戦闘民族なのだ。
「其方の髪と同じ色。黄龍の爪より生まれたと言われし、金平刀にて…」
だが、勇者の額からたらりと汗が零れる。
黄龍とか意味分からんし、なんて言っている場合じゃない。
「な、なんでその剣なんだよ。っていうかその名前はなんだよ」
「ふ…。知力など、とっくに捨てた身‼なんとなくに決まっておろう‼」
「ちょっと‼あ、危ないわよ。その剣は」
「エミリ。アンタも見てないで止めて。エミリの言う事なら聞くかもしれないでしょ?」
花嫁たちの言っている意味を、エミリは知っている。
だけど、何故か納得がいかない。
というより
「で、でも。当たらなければどうと言う事はない…んじゃない?」
エミリはドラグノフの子孫である。
「左様。避ければ良いでござる」
「そりゃ、そうだけど。どういうことだ?…いや、しかし。俺の方が絶対に強い…」
「そうだよ。二人とも高みを目指して頑張って‼」
「はぁ?」
俄かに戦いが混乱していく。
その理由は勿論、ツッコみが不在だからだ。
「それでは行くぞ。避ければお主の勝ち。避けなければ我の勝ち」
「勝手に決めるなよ。全員で取り押さえろ‼」
「笑止。構わぬぞ。我が編み出した『ブーメラン殺法』」
そこで花嫁たちの動きが止まる。
どこかで聞いたと言うか、なんでそうなったかというか。
「はぁ?」
「な…。なんで?アタシのスキル…」
「わ、私。思い出しました‼ドラグノフはエミリの祖先なんです‼」
ドラゴニアの姫が叫ぶ。
何故か、あの記憶が呼び起こされた。
誰かと話した時に出た話。
そして、その時。勇者もいた筈なのだ。
「ほう。存じておったか。ならば、分かるなぁ。この地を血の海に変えてくれ…、…ぐ…は…」
この世界の痛恨の一撃は、即死という意味。
それが全員を襲う。とんでもない攻撃。
全員の顔が蒼褪めた瞬間だった。
ドラグノフの胸に赤いバラが咲いた…ように見えた。
大地に突き刺さるのは銀の槍。
「金道化師の銀槍…。全く、勇者様。何を遊んでいるのです」
そして上空には、コウモリの羽を生やす金色の悪魔がいた。
「アズ…モデ…?」
「どう…して…」
花嫁たちの目が剥かれる。
そして、勇者は肩を竦めた。
だが、その二人に構わずに、エミリは叫んだ。
「ドラちゃん‼ドラちゃんが‼ソフィア‼回復をして‼」
「えと…。でも…それは…」
取り乱すエミリ。
彼女が慌てる意味も分からない。
だって、アレは魔王レイの部下。
そして、上空を飛ぶのも悪魔の筈。
だが、悪魔が勇者の味方をするのは、今に始まったことではない。
だけど。
「ドラちゃんを…」
赤毛の少女は走り出した、その時。
——REN・AI…、の。…ハイブリッドォォォォォ♪
とっても良い声が響き渡った。
そして、ドラグノフの胸に空いた傷が塞がっていく。
「完全回復全魔法‼アズモデ‼これ以上、アナタの好きにはさせません‼」
アルフレド、リディア、マロン、アズモデよりも少し薄い髪色の少女の手から、癒しの魔力が注がれる。
「チッ。どうしてこんなところにモブが。闇ピエロの輪っか」
「させない‼ドラちゃんを守ってくれたんだもん‼」
「っていうか、その子…。デスモンドのムービーに居た…子?」
現場は大混乱、だが。
まだ終わらない。
MKBもこの騒ぎに参加する。そして
「アズモデ?」
「ちょっと面倒くさいわね」
「そうね。エルザのことを守らないと…。ってあれ?」
ドラグノフ戦に集中していた。
だって、ドラグノフとの戦いこそが一番の山場なのだ。
散々、言われてきた闇落ちフィーネを呪縛から解き放つ大事な一戦。
「待って。アイザ…ちゃんは?」
「キラリ。アイザは…」
「え…。えっとお爺ちゃんとお婆ちゃんのところ…に…、いない?」
誰も気付けないほど、ドラグノフは強かったということ。
そして、戦いは最終局面に向かっていく。




