6.思い出す初心
平原の敵はスライムとゴブリンが主で、レベルは高くても3だ。
俺たちパーティーは今、全員がレベル5になっていた。
もはや平原では敵なし。
よっぽど油断しなければ、負ける危険はなかった。
「いよっと!」
フィオが銀髪を揺らして槍を突き立てる。
刺されたスライムがパツンッとはじけ飛ぶ。
生まれた光の粒が俺たち四人の身体に均等に分配される。
「ステータスオープン」
俺はすぐさまステータスウィンドウを開いて、入った経験値を確認。
「どうだった?」
リズが聞いてくる。
俺は首を振った。
「思ったとおりだ。入った経験値は1。もう平原で経験値が一体につき1以上入ることはないだろうな」
「そっか~」
アルケがあからさまに残念そうな顔をする。
しかし、逆に考えればこれは異例でもあった。
「そうは言っても、俺たちが冒険者として活動を始めてまだ三日だぞ。普通は集中してレベル上げさせてもらっても、一人当たり五日はかかる。それが全員レベル5だ」
フィオたちはいまいちピンと来てないようで顔を見合わせている。
俺は顎に手を当て、うっすら伸びた髭をジョリッと撫でた。
そう、異例だ。
たった三日で全員がレベル5。
仮に【経験値分配】がない状態で達成するなら、初級ダンジョンの上位、そこに潜らないといけない。
四人全員がレベル1の状態で、レベル10前後の魔物がウロウロするダンジョンをだ。
現実的じゃない。ほぼ確実に仲間の誰かは死ぬ。
全滅を免れればラッキーだ。
実際に運用を始めてみると、【経験値分配】のヤバさに驚く。
四人でそれぞれ魔物を倒したとしても、必ず4の経験値が入る。
1しか入らないパーティーの四倍だ。
これはかなりのアドバンテージだった。
「ふむ……」
この敵なしとなった平原で、ずっと狩りを続けることは可能だ。
亀の歩みだとしても、倒し続ければ必ずレベルは上がる。
一人のときより確実に報酬は増えたし、銀貨二枚のポーションも一人一本は必ず持ち歩けるようになった。
命の危険がほぼない場所で延々と狩りをしてそれなりの生活を送る。
確かにそれも魅力的ではあるのだ。
役立たずと蔑まれ続けた俺がようやくレベル5になり、そして安定して稼ぐための仲間もできた。
微々たるものだが貯金もできる。
そしていつか冒険者を引退し、ゆるやかな老後を送る……。
そこまで妄想したところで、俺は頭を振った。
そうする意味はあるのか?
【経験値分配】の良さを知れたから、あとは隠居老人のように、同じ仕事を繰り返す。
本当に?
俺は別に、スローライフを望んでいたわけではなかったはずだ。
「なあ、お前ら」
「なに?」
俺の視線と三人娘の視線が交わる。
「ダンジョン攻略しないか?」
俺の言葉に、三人娘は戸惑うと思ったが違った。
三人は待ってましたとばかりに、ニヤリと笑みを浮かべたのだった。
ー・-・-・-
ダンジョン。
初級、中級、上級、最上級、極級の五つに階級の分けられた、魔物が出る迷宮だ。
上になるほど魔物は強大になる。
大抵は階層式になっていて、最下層のボスを倒しダンジョンコアを破壊すればそのダンジョンは消失する。
その逆として、早く討伐できなければダンジョンのランクがどんどん上がっていく。
もちろん一日二日ではなく、一ヶ月、半年、長いものでクラスアップするのに三年以上かかるものもある。
ダンジョンを消失させたところで新たなダンジョンは一週間もしない内に出現する。
だが上級が消失したからといって上級ダンジョンが生えるわけではない。また初級ダンジョンが現れるだけだ。
必ずしも同じ場所に出現するわけではないので、ギルドもその総数を把握してはいない。
ただFランクやEランクの初級冒険者が入ってはいけないダンジョンというのは見ればすぐにわかる。
なぜならダンジョンの入り口の作りが違うからだ。
初級ダンジョンは入り口が土を盛って出来たような形をしている。
対して中級からは石壁に扉だ。
上級、最上級と上がっていくうちに扉も壁も荘厳になっていく。
極級も合わせた上級以上指定のダンジョンになると近くの国や都市から派遣された門番も付く。
さて、俺たちが今いるのは当然、初級ダンジョンだ。
見るからに出来たばかり。
出現して三日と経っていないだろう。
二メートルほどの盛り土に、ぽっかりと穴が空いている。
石で出来た階段があり、下の階層へと繋がっているようだった。
名もなき初級ダンジョン。
俺たちは稼いだ金でダンジョン用の装備を整えていた。
「よし、行くぞ」
「うん!」
「わかった」
「行こう行こう!」
そしてさっそく階段を降りていく。
ダンジョンに入るのなんてギルドの初心者用講座のとき以来だ。
ベテラン冒険者についてきてもらって、ダンジョンでの立ち回りを経験させてもらう。
本当は三人にも受けてもらいたかったが、孤児上がりの三人に乱暴を働く不届きなベテラン冒険者がいないとも限らない。
人手不足なので、「ランゴス」のビストリあたりが立候補してきても、嫌がらせ目的ではないと主張されたら止める理由がギルドにはない。
ああいう手合いはこちらを貶めるためなら多少の演技ぐらい平気でする。
「この間は悪かった。後進の育成をすることも冒険者の大事な仕事だって気づいたんだ」とかな。
となれば結局消去法でもあり、自分でやったほうが早いということもあり、四人で仲よくダンジョン初攻略ということになったわけだ。
「き、緊張するなよお前ら。大丈夫だからな」
「声が震えてるのはオッサンだろ」
「オッサンこそ大丈夫?」
「アタシらがついてるからなー」
後ろからの声に俺は小さく息を吐く。
情けないことに、緊張しているのは確かに俺だけだった。
「頼もしいな、お前らは」
俺は言いながら、いよいよ階段を降りきってダンジョンの第一階層に足を踏み入れた。
ほのかに明るいダンジョン。
その先には、なにか魔物が蠢く気配がしていた。
いつからか諦めていた冒険だ。
異世界で、ダンジョンで、魔物との戦闘だ。
俺は知らず知らず、この世界に転生してきたときの初心を思い出し、笑みを浮かべていた。