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5.平凡で大きな一歩

「お前ら、街の外に出るのは初めてだよな?」


 聞くと、リズたちがコクコクと無言で頷く。

 門で兵士にギルドカードを提示して外に出ると、三人は初めて見る外の世界に目を奪われていた。


「冒険者として強くなれば、ここから先はこの世界が俺たちの庭だ。なんて、それは少し大きく出すぎかもしれんが」

「いや、すごくいいよ。世界がウチらの庭……こんなに広いんだな。見えてたけどさ、内側からは。でも、外に出たら本当に広い……」


 フィオが槍を握り、ぶるっと身震いした。


「これからダンジョンに行くのー?」と、アルケ。

「いや、俺たちは揃ってレベル1。まだダンジョンの敵を倒せないから、平原のスライムやゴブリンを相手にする」

「四人でも無理なの?」

「無理だ。階層が浅くて小さいダンジョンでも推奨はレベル5からだな。同じスライムやゴブリンでも、ダンジョンの中と外では強さが違う」

「なるほどね……」


 杖を握ったまま、リズは唇に指を当てる。

 何か考えているようだが、何を考えているかまではわからない。

 何はともあれ、ひとまず今は俺の指示に従ってもらえればいいと思っている。


「あそこにスライムの巣がある。見えるか」


 俺が指さしたところ、約二十メートル離れた場所にスライム溜まりと呼ばれるスライムの巣がある。

 スライムという魔物は沼地や水場、草原などに湧く不定形のジェル状モンスターだ。


 幸い物理攻撃は通るので、叩く、斬る、突くといったシンプルな攻撃で討伐することができる。

 動きが遅く、力が強い子どもでも倒せるので、討伐の報奨金は一体につき銅貨半枚。つまり二体倒さないと銅貨一枚すら貰えないということになる。


「あれは家や路地にいる害虫なんかと同じだ。叩いて潰して駆除する。特別なことは必要ない。できるな?」


 確認すると、三人は各々の武器を握ってこくりと頷く。

 自分も最初はこんなに顔が強張っていたのだろうかと思うと、誰にもバレないように口の中で苦笑する。


「大体二十体ぐらいだな。誰がトドメを刺してもいい。初陣だ。思い切り暴れろ」

「おう!」

「うん!」

「わかったー」


 俺たちは同時に飛び出した。

 同じレベル1なので速度はほとんど変わらない。

 それぞれが武器を振りかぶって、うじゅる、うじゅると蠢くスライムを叩いた。

 斬った。

 突いた。


「──ッ!?」


 スライムたちの声なき声が響いて、身体が消滅。小さな光の粒へと変化していく。

 光の粒は経験値だ。

 本来であればトドメを刺した人間にだけ吸い込まれる。


「……よしっ!」


 光の粒が分かたれて、リズ、フィオ、アルケ、そして俺へ均等に分配される。

 初めて身体に取り込まれた光の粒に、俺は思わず拳を強く握り締めた。


「すごい。これが経験値?」

「そうだ。どんどんやるぞ!」

「うん!」


 俺たちは武器を振るい、スライムを経験値へと変えていく。

 結局二十四体いたスライムは、あっという間に光の粒となって俺たちの身体へと吸収されていった。


 そして、変化はすぐに起こった。


「なに? なんか、力が湧いてくる」

「ホントだ。もしかしてこれがー」

「レベルアップ?」

「…………」


 俺は三人の言葉に応えられなかった。

 これまでどれだけの魔物を倒しても得られなかった感覚。

 フィオの言う通り、内側から力があふれてくる。

 レベルアップだ。間違いない。


 俺は急いでステータス画面を開き、三人のレベル欄を確認する。


 レベル2。


「よし……よしっ! よぉおおおし!!」


 俺は、俺たちはこの日、生まれて初めてのレベルアップを経験したのだった。


 本当ならばこのまますぐにギルドへ帰ってカードを更新したい。

 そうすればレベル欄が2になっているのを俺も確認できるはずだ。

 感覚的にレベルが上がっているとはいえ、実際に記載されるまでは不安ではある。


 しかしそれよりも、もっと重要なことがある。

 日はまだ中天。時間はある。


「このまま、他のスライムやゴブリンも倒しに行こう」


 俺は子どもみたいにワクワクしていた。

 狙ったとおりとはいえ、レベルが上がったことに。

 異世界に来て、レベルという概念があった。


 しかし自分だけがそれを享受できない。


 そんな人生だった。

 けれど今、それが初めて払拭されたのだ。

 大げさな表現かもしれない。

 けど確かに俺は今、この世界に初めて受け入れられたと感じた。


「了解! ウチももっと戦いたい!」

「私も!」

「アタシもやるー!」


 そして三人も気持ちは同じだったようだ。

 孤児として過ごし、街で一生を終えるような閉塞感。

 そこから飛び出せたのだ。


 俺たちは、それぞれが冒険に心躍らせる子どもみたいな顔つきで、さらなる獲物を求めて平原を歩き出した。

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