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3.魂の従属契約

「やるぞ」

「……うん」


 俺は藁のベッドに座らせたアルケの頭の上に手をかざし、意識を手のひらに集中させる。

 先に契約を済ませたリズとフィオは、固唾を飲んで儀式を見守っていた。


「汝は我。我は汝。同じ経験を共有し、互いに得る者。ここに従属の契約を交わす」

「……受け入れ、ます」


 俺の問答に合わせ、アルケが慣れない敬語で応える。

 すると俺の手のひらから淡い光があふれ、アルケの全身を包み、そして消えていった。


「……これで終わり?」

「ああ。これでふたりと同じく、お前も俺の従属になったはずだ」


 俺は言って、試しに「立ってその場で回れ」と命令する。

 するとアルケは逆らうことなく、立ち上がってその場で華麗な一回転ターンをして見せた。


「おお……! すごっ、自分の身体じゃないみたい」

「うん。確かにすごいな……これは」


 アルケも、リズもフィオのときも驚いたが、俺自身も驚いている。

 魂の従属を行使したことは今まで一度もなかったので、本当に効いているのを見るとなんだか信じられない気分になった。


 たぶん、彼女たちが危惧していたように俺が命じれば“そういうこと”も可能だろうが、当然そんなことはしない。

 約束だし、そんなことをして彼女たちを手に入れてもきっと虚しいだけだ。


 と、かっこつけて考えたけれども、いつ自分の本能が寝返るかはわからない。大人として自制心を持たねばなるまい。


 そんなことを思いつつ、従属したリズたちを連れてまずは湯屋に向かった。

 いわゆる大衆浴場で、国営だから安い値段で利用することができる。


「さっぱりしてこい」

「「「はーい」」」


 孤児とはいえ、彼女らも大衆浴場ぐらいは利用したことがあるのだろう。

 金を渡すと慣れた様子で女湯へ入っていった。

 ついでなので俺も風呂でゆっくりさせてもらうことにする。


 そして大体三十分後。

 俺は風呂上りの三人と自分用に果実水を買う。


「ぷはー!」


 俺が風呂上がりの一杯に舌鼓を打っていると、三人も真似して「ぷはー!」と豪快に飲み干した。


「さて、次は服と装備だな」

「装備? 服はわかるけど、装備なんて大丈夫なの?」


 リズが聞いてくる。

 気持ちはわかる。装備は三人分揃えようとすればかなり高くつく。

 安物だとしても、俺がスライム狩りや薬草拾いで得る賃金10日分はまず間違いなく飛ぶだろう。


 新品を購入する、という話ならば──だ。


「当てがひとつある。そこへ行こう」


 そして俺は三人を連れて、道具屋街へ向かう。

 その道すがら、魂の従属によって新たに得た“力”を使った。


「ステータス、オープン」


 言葉と同時に目の前にリズ、フィオ、アルケ、三人の簡易なステータス画面が表示される。

 他の人間には見えていない。それはリズたちも同様だ。


 現代日本のゲームや小説、漫画、アニメなどを少し齧っていればすぐに理解できる言葉だ。


 もちろんこの世界に転生したと気づいたときにも唱えてみたが、そのときは出なかった。

 自分の分が表示されないことを考えるに、これは魂の従属をした相手のステータスのみ表示する能力なのだろう。


 さて、そのステータスによれば三人の名前、年齢、レベル、レベルアップまでの残り経験値、そして得意武器が確認できる。

 スキルもあるが、そこはグレーになって塗りつぶされている。

 スキルなしの場合はそうなる仕様のようだ。


 他にも何やら項目はあるが、解放されていない。

 これは俺自身のレベルが足りていないということだろうか。


 謎は深まるばかりだが、楽しみが増えたという考え方もできる。

 なにはともあれ、あまり難しく考えるのはやめよう。


 今、肝心なのはそれぞれの得意武器が見えるということだ。

 彼女たちは全員、ナイフを持っている。

 もちろん砥がれた立派なものではなく、ゴミ捨て場にあった刃こぼれした粗悪品だ。


 最初、それを武器にして戦ってもらおうと考えていた。

 粗悪品でもスライムぐらいなら倒せるだろうと。


 けれども得意なものがあるならそれを使うに越したことはない。

 自覚している、していないにかかわらず、得意分野を伸ばして損なことはないのだ。


 道具屋『アヴァド』に到着し、店に入った。

 左右に棚があり、武具や道具、野営セットなどが並べてある。


「よぉ、おやっさん。やってるか」


 声をかけると奥にあるカウンターで居眠りしていた男がパチっと目を開ける。


「ん? おお、カンムリか。なんだ、今日は三人も女の子を連れて……どこでさらってきた」

「おい勘違いすんな。俺の仲間だ」

「仲間? ほーん、奇特なこって」


 寝起きでいきなり失礼なことを発言したこの男は道具屋アヴァドの店主である。

 名前はそのままアヴァド。

 俺が冒険者になったときから何かと世話になっている、中古品などの道具を扱う道具屋だ。


「この子らに服と装備一式を用意したい。安物でいい」

「……全部同じ武器でいいのか」

「槍と剣と杖。杖は出来るだけ硬い奴がいいな。防具は胸当てだけ。相手はスライムとゴブリンだけだから」

「了解。すぐ用意する」


 アヴァドが裏に引っ込むと、リズが横に立つ。


「槍と剣と杖って、私たちが使うの?」

「そう。従属の契約でお前らの得意武器が見えた。アルケは剣。フィオは槍。そしてリズ、お前が杖だ」

「杖って、魔法スキル持ちが使う奴でしょ?」

「だがお前の得意武器にはそう出てる。信用しろ」

「……まあ、いいけど。ボロのナイフよりマシだし」


 ぶっちゃけ俺も半信半疑だが、リズが納得してくれたのでヨシとする。


「ほらよ。これでいいな」

「あんたの見立てに文句はないよ」


 裏から戻ってきたアヴァドがカウンターに武器と防具を並べた。

 粗悪品よりマシで、新品には程遠い。

 Dランク級のコボルト以上と戦ったら近いうちに壊れるだろう代物。

 だがこれで充分だ。

 さすがアヴァド。よくわかっている。


「全部で銀貨八枚。わかってると思うが交渉の余地はない」

「ああ。もちろんわかってる」


 俺は素直に革袋から銀貨を八枚取り出して渡す。

 アヴァドが片眉をあげて、顎に手を当てた。


「珍しいな。そこまで素直に払うなんて」

「こいつらにこれからもっと稼がせてもらう予定だからな」

「……なんだ。じゃあ値段を吊り上げれば良かったな」

「それでもあんたは適正価格を提示するって信じてるよ」


 アヴァドが笑い、俺はさっそくそれぞれに武器と防具を配る。


「服は?」

「そこの棚に貫頭衣とズボンがあるだろう。自分に合ったサイズを一着ずつ持ってけ」

「わかった。おい、三人とも。選んでいいぞ」


 三人は少しだけ戸惑いながら、それぞれがサイズに合う貫頭衣とズボンを取った。

 麻で作られた誰かのお下がり服だが、ところどころが破れた粗末な服よりはマシなはずだ。


「本当にいいの?」


 と、リズが聞いてきた。

 俺は頷き、彼女らが持っている武器と防具を指さす。


「せめて服はそれを着ないと、防具を身に着けたときに身体に直接あたって痛む場合がある。気にせず受け取れ」

「……わかった」


 リズたちがそれぞれ服のサイズを選ぶと、店の奥にある更衣室を使わせてもらった。


「おお。いいんじゃないか」

「へへ……」


 更衣室から出てきて、まずフィオが照れくさそうにはにかむ。

 リズは防具のずれをしきりに確認し、それから杖を軽く振ってみる。

 アルケはあくびをしながら出てきて、剣を一度振ってから、腰の鞘に納めた。


「お前さんの計画が上手くいったら、もっといいもの売ってやるよカンムリ」

「そのころにはもっといい店に行ってる」

「なんだと」


 アヴァドは怒ったような口調ながらも、顔は笑っていた。

 なんだかんだと気の良いオヤジなのである。


「よし。じゃあ次はギルドに行くか」

「……うん!」


 三人が強く頷く。

 いよいよ冒険者になる。

 その実感が少しずつ湧いてきたようだ。


「じゃあ、おやっさん。また来るわ」

「おう。気をつけてな。嬢ちゃんたちも」

「ありがとう! おやっさん」

「ありがとうございました」

「サンキュー!」


 三者三様に挨拶を交わしてから店を出る。

 さて、それじゃあギルドに向かうとしますか。

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