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2.そして初めての仲間となる三人娘

 俺が貧民街に来た理由。

 それはずばり、孤児が目当てだ。

 そしてすでに、当たりも付けてある。


「よぉ、飯ちゃんと食ってるか」


 俺が声をかけると、三人の孤児はギョッとした顔で振り返った。

 それから俺を睨みつけたあと、小さく息を吐いた。


「なんだオッサンか。ウチらに何の用?」と、銀髪のフィオ。

「なんだとはずいぶんな挨拶だな。今日はお前らに話があってきたんだよ」


「私たちに話?」と、青髪のリズ。この中で一番賢いと思われる少女だ。

「お前たちを雇いたい」


「えぇ? なんでアタシたちを?」と、困惑したのは金髪のアルケ。


 全員が女で、年齢は揃って16。

 貧民街暮らしで孤児で同い年。つるむにはこれ以上ない理由だ。


「ウチらがスキルなしだって、知ってるよね?」

「まさかアタシらの身体目当て!?」

「え、普通に最低。オッサンはそんなことしないと思ってたのに」


 全員の軽蔑の視線が俺に集まり、堪らず弁解する。


「おい、待て待て。そうじゃない。まずは話を聞け」


 リズが左右のフィオとアルケを見る。二人が同時に頷き、リズとともに俺を見た。

 全員が無言。続きを話せということだ。


「お前たちに頼みたいことは、一緒に冒険者をやらないかということだ」

「はぁ? 冒険者? ウチらが?」と、フィオ。

「そう。まずこの話に興味を持ったなら、俺についてきてほしい。買ったばかりの家に招待する」


 俺が言うと、孤児たちは全員驚いた顔をした。


「え? 万年Fランクのオッサンが!?」

「どんな汚い手を使ったの?」

「誰か殺した?」

「バカかお前ら!? ちゃんと金を貯めて買ったんだよ!」

「「「えぇ? 嘘ぉ?」」」


 俺を馬鹿にするときはキレイにハモリやがる。

 まったく。こいつらに目をつけたのは間違いだったか。

 そうは思ったが、貧民街の“組織”に所属してないのはこいつらだけだ。

 交渉相手としてはむしろこの上ない。

 メリットを考えれば、バカにされるぐらいなんてことはなかった。


「いいから行くぞ。ついてこい」


 とはいえ、これ以上ここにいても埒が明かないので、俺は彼女たちを伴って家に帰ることにした。



「……ああ、なるほどなー」と、アルケ。

「これなら納得だね、フィオ」

「うん。疑ってごめんな、オッサン。頑張ったんだな」

「おい! 哀れみのこもった目で見るな!」


 街の郊外にある家に着き、そして中に入っての第一声だ。

 肩に優しく手を置かれたのがまたムカつく。

 まあいい。話を進めよう。


「ここに、食料がある」


 俺が藁をどかすと、乾燥肉やパン、果実水、酢漬けの野菜などが姿を現す。

 フィオたちが一瞬で目の色を変えたのを、俺は見逃さなかった。

 そして彼女たちの腹が鳴るのも。


「この家はボロくて狭い。だがお前たち三人と俺が寝るぐらいなら余裕だ。食料、寝床、そしてひとり一着だが、お前たちに服を買ってやる金もある」


 俺の言葉に、リズは警戒した目つきを向けてきた。他の二人も同様だ。


「私たちにそんなことをする義理はないよね?」

「ああ、ないな」

「なら、なにをさせるつもり?」


 警戒の気配が一気に高まる。先ほどまで冗談を交わしていたとは思えない、殺気立った空気。

 リズたちの手には、それぞれナイフが握られている。


 もちろんレベル1とはいえ冒険者の端くれ。浮浪児たちに負けるようなヤワではない。


 だがもちろん、彼女たちを打ち負かそうとしてこの家に呼んだわけではない。


「落ち着け。俺はお前たちと契約がしたい」

「……契約?」と、警戒を解かないリズ。

「魂の従属。その契約をしてほしい」


 リズはすぐさまピンときたようだが、フィオとアルケは理解しきっていない顔だ。


「知ってるだろう。俺がどんな冒険者か。経験値分配のスキルを持つ、自分では強くなれない無能で愚かな冒険者。永遠のFランク」


 自嘲する俺に、リズが真剣な顔つきで頷いた。


「……知ってる。魂の従属をしたら、経験値が分配される代わりに、オッサンに逆らえなくなる。そういうスキルでしょ」

「うぇ!? マジ? オッサンの言いなりってこと?」

「でも、契約すればアタシたちの家ができるってこと?」


 三人それぞれの反応を見たあと、俺はゆっくり頷いた。


「契約をするなら衣食住だけじゃない。お前たちに冒険者の肩書きができる」


 肩書き。それにはリズだけでなく、フィオとアルケもすぐにピンときたようだった。


「本当になれるの? ウチらが冒険者に」

「なれる。浮浪児のみではギルドの審査は通らないが、Cランク以上の冒険者か、十年以上冒険者として実績のある人間なら推薦人になれる」

「ああ、オッサンは十年以上か」

「ギリギリな。だがちゃんとギルドに確認はした」

「私たちが……本当に……」


 冒険者はスキルなしや他に行く当てのなかった者たちが行きつく場所であることが多い。

 また、常に人手不足であるため浮浪者や孤児でも欲しいところだ。


 しかし貧民街の孤児たちは過去に犯罪を犯しているケースが多く、ギルドとしても過去のトラブルの多さからそういった人間は信用できない。


 そのため、貧民街の人間は推薦人がいない限り、冒険者申請を受け付けてもらえないのだ。


 貧民街にいる女性は、同じ境遇の女性冒険者によって引き上げられることも多いが、そうでない場合、邪な男性冒険者に食い物にされる。


 たとえば冒険者に推薦する見返りに身体を要求したり、字が読めないことをいいことに無茶苦茶な契約で縛り、旅の間中慰み者にしたり。


 残念ながら冒険者は多種多様。善人は少ない。

 かといって、俺自身を善人だというつもりもない。

 俺も理由は違えど、彼女たちを利用しようとしているのだから。


「オッサン……」


 フィオが俺をジッと見つめてきた。


「あんたは、たぶんまともな大人だ。ウチらがあんたの財布をかっぱらったときも、捕まえるだけで酷いことをしようとはしなかった」

「ああ……」

「ウチらの様子を見に来ては、たまに差し入れくれたりして……でも見返りは求めなくて……本当に良い奴、いい人だと思う」


 フィオがリズとアルケを見てから、再び俺に視線を向ける。


「魂の従属、ウチらが一旦でも契約したらもう逆らえないんだろう」

「ああ、悪いがそういうことになる。だが……」

「だったら、いやらしいことをするのはウチだけにしてくれ」

「……は?」


 フィオは真剣な表情でそう言った。

 リズとアルケはびっくりしてフィオを見つめている。


「ウチはリズとアルケと一緒に、もう明日の食事を心配するような生活から抜け出したい。そのためにあんたとの契約が必要ならする。けど、逆らえなくなったら、いくらあんたがいい人でも何をするかわからない。だから……」

「だったら私がオッサンに抱かれる!」

「は?」

「待って待って! 二人ともダメだよー! 一番役立たずなアタシがオッサンの娼婦になるー!」

「待て待て待て待て!」


 フィオの発言から広がっていった話を一旦落ち着ける。

 少女たちは、不安そうな顔で俺を見ていた。

 俺はひとつため息を吐き、それから少女たちを見た。


「あのな、約束するよ。俺はお前らにいやらしいことがしたくて従属してもらうんじゃない。俺が強くなるため。そのためにお前らの力が必要なんだよ」

「……本当に? ウチらに手を出さないって誓うか?」

「誓うよ。絶対だ」

「その誓い破ったら、一生軽蔑するからね」

「ああ、もちろんだ」

「それはアタシたちに魅力がないってこと?」

「違うわ! いや、違うというか……ただ、なんというか、そういう無理やりな関係は嫌だろ」


 とっさに出た一言に、少女たちが顔を見合わせたあと笑みを浮かべて頷く。


「いいよ、オッサン」と、フィオ。


 先ほどまでの不安そうな表情を、今は誰も浮かべていない。


「私たちはあなたを信じる。というか……」

「ご飯と家と服があるなら文句なし!」


 少女たちが見せた屈託のない笑顔に、俺は逆に力が抜けた。


「そうかよ。よかった」


 そうして俺は、案外にあっさりと、強くなるためのきっかけを手に入れたのだった。

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