1.苦労の末にボロボロマイホーム
俺──カンムリ・ゼンデは転生者だ。
現代日本から、どうやらゲームチックな世界にやってきたらしい。
元の名前も顔も忘れてしまった。思い出そうとすると頭痛がする。
40を迎えようというときに事故に遭って、それで女神とやらに何か言われたがなんだかよくわからなかった。
そして気づけば赤毛のキレイな母と、金髪で髭を生やした厳つい父の元に生まれついていた。
赤ん坊からやり直しだ。
十歳のときに教会で受けるスキル検査では、最悪なことにスキルなし。
これに該当すると将来の職はほとんど何もないと言ってよい。
冒険者か浮浪者か。大まかに分けるとその二つだ。
ただ、スキルなしというのは本当にスキルがない場合と、教会が認知できないスキルを持っている場合がある。
幸い? なことに俺は後者だった。
そのスキルとは【経験値分配】。
そう。
この世界にはレベルと経験値という概念がある。
ということは経験値になる魔物がいる。
俺がゲームチックな世界にやってきたらしいと言ったのはそのためだ。
魔王はいないらしいが魔物は跋扈しているし、ダンジョンはハチの巣みたいにボコボコあちこちに出来る。
放置しておくとより強力な魔物が生まれたり瘴気が発生して土地が荒廃するから、冒険者たちが駆り出される。
冒険者でも対処できないダンジョンや魔物が出現した場合は国の騎士団や戦士団が出張ってくる。
どう呼ばれるかは国次第だが、役割に違いはほとんどない。
とまあこんな感じで、教会に認知されないスキルのおかげで俺は冒険者の道を選ぶしかなかった。
両親は──特に母親は──俺を引き留めた。
けれどスキルのない人間にできる仕事なんて本当に限られていたし、それも村の人間の好意でようやく“作って”もらう仕事だ。
迷惑をかけるのは忍びない。
15歳。成人となった俺は一週間の行程をかけて村を飛び出し、中規模の街である『ハリルヤ』へとやってきた。
──それからあっという間に十年。
俺はいまだにレベル1のまま、冒険者としても最下層のFランクのままだった。
というのもこの世界、経験値は基本的に魔物にトドメを刺した人間に経験値が入る。
手っ取り早くレベルを上げたいならパーティーを組み、仲間に魔物を弱らせてもらってトドメだけ刺す。
それでレベルアップ。
しかしレベル1から5、もしくは10ぐらいまでならそれでも良いだろうが、それ以上になるとダンジョンに潜って強い敵を倒さなくてはいけなくなる。
なぜならば自分よりレベルが低い魔物を倒しても、取得できる経験値が著しく下がるからだ。
たとえばレベル1の冒険者がレベル1のスライムを倒すと5の経験値を貰えるが、レベル5の冒険者になると経験値は1しか貰えない。
だからほとんどのパーティーはレベルが周辺の魔物より高くなった時点で次なる冒険、または大きなダンジョンを近場に抱える街へ向かう。
さて、そうなってくると俺のスキルが力を発揮する、かと思いきやそうはならなかった。
この【経験値分配】、発動条件があまりにもリスキーだった。
経験値を分配させるにはまず俺と魂の従属という契約を結ばなくていけない。
これは俺が契約を結んだ相手と経験値を分配するためでもあるし、また相手が得た経験値を均等に分配するためでもある。
分配自体に文句がない奴でも、従属となると話は別だ。
なにせ俺の命令には従わないといけないし、俺のことを攻撃することもできなくなる。
用済みになったから殺して終わり。ということもできないのだ。
そしてもうひとつのデメリットとして、俺自身はその魂の従属契約をした人間が得たものからしか、経験値を得ることができない。
だから俺はこれまで何体ものスライムやゴブリンを倒したが、いまだにレベルは1のままだった。
この十年で俺のスキルの話は隅々まで広まった。
強くなることがない冒険者を仲間に入れる人間がいるはずもない。
こうして俺は転生してから25年。特にいいこともなく、ひとりで細々と冒険者稼業で暮らしているというわけだ。
とまあ、少し暗くなってしまったが、俺とてそういう暮らしはそろそろ終わりにしたい。
とんでもないスキルではあるはずだから、ちゃんと使えれば有用であるはずだ。
たとえば一万人を従属できれば、俺が倒さずとも毎回1万の経験値が手に入る、とか。
……完全に皮算用であるが。
だが、皮算用なりに考えて考えて、そして出した結論がある。
それが今、目の前にあるボロ屋だった。
街の外れにある修理必須な家。
スライムやゴブリン討伐、そして薬草拾いで地道に小銭を稼ぎ続けた俺がようやく手にしたマイホームである。
冒険者ギルドに銀行に似たシステムがあって本当に助かった。
なかったら俺は野盗、追剥、冒険者連中に何度金をむしり取られていたことか。
ともかく、俺は家を買った。
屋根と壁があり、簡易トイレがある。
ベッドはないので藁や草を集めて縛って固め、簡易的なベッドにした。
机もなければ椅子もない。本当にただそれだけの家。
そこに買い込んできた食料を置き、藁を被せて隠しておく。
あとで蝋燭もいくつか買っておかねばと思う。
そしてしっかりと扉を施錠した俺は、再び街へ戻る。
目指すのは、貧民街だ。
新連載です。よろしくお願いいたします。