第61話 銀桂へ
陸上を進むには、険しい山道や荒野などの大自然を相手にしなければならず、途方もない時間と労力が必要となる。天候不順ともなれば益々それらが倍増し、体力に限りがある人の場合尚更心身が疲弊し、すぐに限界を迎えてしまう。
しかし、神鳥の加護を得た特殊な眷属鳥は、無休かつ神速とも呼べる速度で飛翔することができる。更には障害物や弊害がほとんどない快晴の空も相まって、金鳶は銀桂を発ってから三十分もしないうちに理玄の元に辿り着いた。
秋冷からの文を読んですぐに理玄は執務室に三公を呼び集めた。
「先ほど金鳶がこちらに帰ってきた。秋冷曰く、銀桂の王都で内乱が起こっているらしい。どうやら両国の国交や桂華再興の意向が民に知れ渡ってしまったみたいだ」
事のあらましを耳にして、仁鵲は額に手をやる。
「マジか。その意向を民に吹聴したのって、もしかして……」
「ああ。恐らく、蒼鷹殿と鶖保殿だろうな。数日前の深夜、彼らが秘かに何か話し合っていたらしい」
「なるほど。まあ、会談の時からいけ好かない人たちだとは思ってたけど」
紅鶴も眉を顰め、義隼に至っては今にも堪忍袋の緒が切れてしまいそうな、憤怒の形相をしている。
「時間がない。俺は今すぐ鳳凰と共に銀桂へ向かう。仁鵲、俺がいない間諸々の指揮は頼んだぞ」
「言われずとも」
「紅鶴。中央荒原に残留している軍営はまだそのままだな?」
「幸運なことにね」
「なら、今すぐできる限りの他の六軍を召集して、万が一の再戦に備えておいて欲しい。銀桂も軍営は解体していないだろうから、蒼鷹殿が現地に赴いて金桂への侵攻を開始している恐れもある」
「分かった」
「義隼は銀桂軍の監視だ。動きがあり次第、紅鶴に報告してくれ」
「承知致しました」
理玄は頷いて携えていた直刀を腰に帯び、黒衣を纏う。
「じゃあ、後は任せたぞ」
「了解」
「はーい」
「お気をつけて」
理玄は三者に見送られて執務室を後にし、金苑へと向かった。
草木が生い茂る庭園を踏みしめると、上空から大きな羽音がした。
見上げると、太陽を背に輝く壮麗な巨鳥が力強く羽ばたいていた。
「鳳凰」
『銀桂に向かうのだな』
理玄の首肯に、鳳凰は優雅に降り立った後『乗れ』と背を低くする。
言われた通り理玄が鳳凰の背に乗ると、鳳凰は両翼を広げて空へと飛翔する。
「全速力で頼む」
『いいのか?』
「ああ」
『なら、しっかりと掴まっておけ』
鳳凰は風を切るように滑空し始める。
強烈な向かい風が理玄を襲うが、彼は姿勢を低くし眉一つ動かさずにかの者に想いを馳せた。
――白琳殿……。
今彼女や翡翠はどんな状況に置かれているのか。それこそ、今こうして銀桂に向かっている最中に魔の手が忍び寄ろうとしているのではないか。
早く彼女たちの安否を確認したいという一心で、自身の心は焦燥と不安に駆られていく。
「頼む。無事でいてくれ」
切に願う青年の呟きに、鳳凰は一層速度を上げた。




