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第57話 助力

 しかし、そんな秋冷の思惑はむなしくも外れてしまうこととなる。

 翡翠は銀漢宮の一階回廊で、呼び出された部下とその他の護衛兵数人と矛を交えていた。


 ――どうしてこんなことにっ……!


 自分を呼びだした部下と護衛兵たちは正規の人間ではなかった。



『翡翠殿。突然で申し訳ないが、貴殿の御命を頂戴する』



 声色を変えて、部下と思しき男性はいきなり武器を掲げて襲ってきたのだ。

 護衛兵専用の衣服に身を包み、翡翠の部下をかたった謎の人物たち。翡翠は当惑しつつも、己の命を狙う者たちと激しい攻防を繰り広げていた。


 ――一対多数では分が悪すぎる……!


 それも、相手は手練れだった。彼らが持つ武器は剣を始め様々だが、特に暗器使いが多い。繰り出す攻撃の威力はそこまで高くないが、体の動きが異常に速い。それゆえ先制を許してしまい、これまで培ってきた反射神経をもってしてもかわしきれずに負傷することもあった。


「白琳様っ……!」


 先ほどから外も騒がしく、苛烈な怒号が間断なく聞こえてくる。もしかすると、和平反対派による暴乱が勃発したのかもしれない。

 何とかして現状を打破し、白琳の元に駆け付けたかったが、如何せん敵一人一人の実力が一兵卒数人分に相当する。


「くそっ!」


 理玄との試合と同等、あるいはそれ以上の苦戦を強いられ、翡翠は己の未熟さを痛感しつつも必死に迫りくる猛攻を捌く。


「翡翠殿!」


 そこで、聞き覚えの無い声が闖入ちんにゅうすると共に敵の一人が呻き声をあげて地に伏した。

 振り返ると、そこには朽葉色の髪が目を引く男性が剣を握りしめていた。


「貴方は⁉」

「秋冷と申します。理玄様の命で銀桂こちらに偵察に来ていた者です」


 外朝で兵たちを全員昏倒させた後、秋冷たちは内廷まで一気に足を進めた。だが、そこでまた新たな兵たちと出くわしてしまい、部下たちが秋冷だけでもと彼らの相手を一手に引き受けてくれた。そして銀漢宮に入り、今に至る。


「偵察って……」

「詳しい話は後程。今はここを切り抜けることだけを考えましょう。白琳様とご一緒だったのでは?」


 闖入者も始末してしまおうと、敵方が秋冷に牙を剥く。しかし、彼はそれをいなしながら翡翠に問うた。彼は苦悶の面差しになって答える。


「……この者たちが部下を騙って私を呼び出し、白琳様と引き離したのです」

「なるほど。そうでしたか」


 彼らは黒幕の手駒ということですね。


 すう、と秋冷の瞳に翳が差し、氷のような冷たさを帯びる。背筋が凍るような冷気と威圧感に敵方も身構えた。


「早くこの方々をして、白琳様の元に向かいましょう」

「はい」


 秋冷と名乗った金桂からの使者には色々と聞きたいことがあるが、今はそんな暇は無い。兎にも角にも助太刀に来てくれたことは僥倖ぎょうこうとしか言いようがなく、翡翠は心中謝意を述べて偽物退治に集中した。

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