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第46話 積年の想い

 休息場にはいくつかの机と榻が設置されており、白琳たちのように店で購入した食品を外で食べることが可能な空間になっている。勿論、食事だけでなく誰かと談笑したり、旅の途中で一休みしたりと多目的に使用されているようだ。


「理玄様は街の様子に相当詳しくていらっしゃるから、普段お忍びでこちらに出向かれているようね」

「どうやらそのようですね」

「金桂の点心はどんな見た目や味をしているのかしら。とても楽しみね、翡翠」

「はい」


 白琳が胸を高鳴らせる一方で、翡翠は今こそ好機だと逸る心を落ち着かせていた。


 ――やっと白琳様と二人きりになれた。


 次二人きりになった時は、今度こそ己の想いを告げる。そう決めていた。

 翡翠は腹をくくり、懸想する幼馴染の名を呼ぶ。


「白琳様」

「何?」

「……昨日、殿下との試合の後に仰いましたよね。白琳様が会議の間を退出して回廊で私と話されていた時、殿下がいらっしゃる直前に私が何と言おうとしていたのかと」

「! ええ」


 どうやら白琳は察してくれたようだ。これから回廊でのやり取りの続きが始まるのだと。


「あの時、私が言おうとしていた言葉はこうです」


 翡翠は息を整え、意を決してその言葉を紡ぐ。


「私は貴女様のご意志に従います。それに、私は――」




 白琳様を一人の女性として好いているのです。




 つぶらな瑠璃の双眸が大きく見開かれる。


 誰よりも人と国を想い、幼少の頃から傍で咲いている解語の花。

 誰だってその花に触れ、終いには摘み取ってしまいたくなる。


 ――もしかすると、あの御方も……。


 一抹の可能性が形作る未来を想像し、翡翠は拳を強く握りしめて続ける。


「幼い頃から貴女を慕い想っているからこそ、私はどんなことがあろうと貴女に付き従う。そう決めていたのです。……これが、あの時私が口にしようとしていた全容です」


 ひたむきな熱を帯びた翠緑の瞳が己を掴んで離さない。

 白琳は一瞬硬直した後、我に返って頬を赤らめる。


「ま、まさか翡翠が……わたしのことをそんな風に思っていたなんて……」

「お心を乱してしまい申し訳ありません」

「……いいえ」


 一旦落ち着かなければ、と白琳は深呼吸して改めて翡翠と視線を通わせる。


「その……東屋で話していた時、喜怒哀楽を共にしたいって言ってくれたのは、やっぱりそういう意味で?」

「いえ、それは違います! 本当に、あの時は特別な意味など無かったんです。白琳様に対する好意以前に、私は一人の幼馴染として貴女と気持ちを共有したいと思っていただけで」

「そうだったの……」

「……正直、この想いは一生心に留めておくつもりでした」


 翡翠は自身の胸に手を添え、過去の一時を懐かしむように言う。


「ですが、白璙様が私の想いに気づいておられて。それに――」


 先ほどまざまざと見せつけられた、理玄と白琳の仲睦まじげな姿。

 それが脳裏に焼き付いて離れず、翡翠は両の拳を握りしめる。


「白琳様。護衛ではなく、一人の男として――私と共に生きる未来をどうか考えていただけないでしょうか」

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