表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/69

第40話 恩返し

 銀桂――それも王族のなかに仁徳ある者がいたのだな、と理玄は素直に感心した。同時に、惜しい人を亡くしたものだと白璙の逝去を悼んだ。

 そんな心優しい兄がいてくれたことは間違いなく彼女にとって救いであり、希望そのものだったことだろう。それくらい彼女から直接聞かなくとも分かった。


「お兄様に付き従っていた翡翠もわたしの護衛をしてくれるようになって、物心ついた時にはいつも三人で生活を共にするようになっていました。母が優しい笑みを浮かべてわたしたちを見守ってくれていたことも、薄っすらとですが覚えています。でも――」


 膝に置かれていた両手を強く握りしめ、白琳は声を落とす。


「虐めによって既に精神を病んでいた母は体調も頻繁に崩すようになり、ある時病に罹ってそのまま……」


 白琳が悲痛な面持ちになると同時に、理玄もやるせなさに駆られて濃紫の瞳を伏せる。




『ごめん、なさい……』




 病床に臥せっていた母がかつて自分と白璙、翡翠に放った最期の言葉。

 その謝罪は何に対してのものだったのかは分からない。けれど、恐らく母は己の身分のせいで娘を苦しめてしまったことを悔やんでいたのだ。白璙と翡翠には、あれほど自分たちのために尽くしてくれたというのに、何の恩返しもできずにそのまま逝ってしまうことを謝りたかったのかもしれない。




『……謝らないでください、瑠婉さん。むしろ、謝らなければならないのは僕の方です』



 僕は、貴女を守ると約束したのにっ……! 



 瑠婉が息を引き取った後、白琳が母の亡骸に覆い被さって哀哭するなか、白璙もまた悔し涙を流していた。今思えば、兄が泣いているところを見たのはそれが最後だった。


「母が亡くなってから、お兄様は益々わたしのことを気にかけてくれるようになって。……少し、過保護ではないかと思ってしまうところもあったのですが」


 膝元に落としていた視線を持ち上げて、白琳は亡き兄の姿を思い出しながら瑠璃の双眸を細める。


「白璙お兄様と翡翠がいなければ、今のわたしはありません。だから、お兄様が夢見た両国の交誼こうぎ、それから桂華の再興を成し遂げることはわたしのお兄様に対する恩返しでもあります。それに――」


 白琳は一瞬口を閉ざし、それから意を決したように酷薄な運命を打ち明ける。


「わたしもいつ天に召されるか分からないので、少しでも早く兄の願いを叶えたいのです」

「え……?」


 いつ天に召されるか分からない?

 その口振りは、言い換えればつまり自分はいつ死んでもおかしくないということではないか。


 あまりにも衝撃的な一言に、理玄の心臓の鼓動は重く――それでいて激しく波打った。


「それは一体どういう……」

「理玄様も既にご存じかもしれませんが、父は突然の心臓発作で急逝し、玿銀お兄様も不慮の事故で早逝しました。白璙お兄様も病で亡くなり、わたしと同じ年に生まれた異母姉も年端もゆかぬ頃に流行り病で夭逝しているんです」

「……皆、病や事故で亡くなっているのか」

「恐らく、鸞の呪いです」

「呪い?」


 白琳は首肯し、悲哀を帯びた双眸を再度伏せる。


「初代銀桂君が引き起こした戦乱により桂華が二分化し、鳳凰とも別離してしまったことから、鸞は銀桂の王族に付与した長生久視の加護を剥奪しました。また子々孫々に至るまで恨み続けていると言います」


 それゆえ、わたしたち王族は皆短命になってしまった。


 初耳の真実に理玄は絶句する。


 ――王族の死が連続していたことは、単なる偶然では無かったのか……。


「十数年後、わたしも父のように突然病に倒れるかもしれませんし、ひょっとしたら明日何かの拍子に命を落とすかもしれない」

「っ……!」

「いつその時がくるか分からないからこそ、わたしは今この時を精一杯生きて、自分にできることをしていきたいと思っています」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ