第27話 自己紹介
今度は白琳が目を丸くさせ、ぽかんとしてしまう。
「ああ、ごめんね。まさか、銀桂の女王様がこれほど謙虚で愛らしい御方だったとは思わなかったものだから」
「え? あ、いや……その……」
「照れていらっしゃるところもまた可愛いですね」
「っ……!」
仁鵲のさりげない一言に、白琳の頬は益々紅潮した。
「仁鵲。白琳殿が困っているだろう」
「おっと、これは失礼しました」
理玄の諫言に仁鵲が軽く謝罪する。
いえ、と未だ混乱している白琳に苦笑しながら、理玄は言った。
「申し訳ない。この通り、うちの臣下たちは私でも手に負えない曲者ばかりでな」
「おいおい、手に負えないってことは無いだろ。俺を丞相に任じたのはどこのどいつだ?」
「あたしは他の二人ほど曲者じゃないと思うんだけどな。というか、あたしが一番大人びてて普通じゃない?」
「そんなっ! 理玄様は私を曲者だとお思いになっていたのですか⁉ この二人と私が同じだとっ……」
口々に不満を吐き散らかす三公たちに僅かな溜息を吐いて、理玄は続ける。
「白琳殿と同じく、私も家臣たちから恭しくされることを嫌う。それゆえ気楽に構えて欲しいと言ったら、このように少々騒がしい面子になったんだ。それでも良ければ、我々は喜んで貴女の望みを受け入れよう」
金桂の面々は、穏やかな微笑を浮かべて白琳を見据える。たった一人だけ、気難しい顔をして視線を逸らしていたが。
王と臣下という身分の線引きが、金桂には無い。
思い返せば、三公や宮仕えの者たちは誰一人として「陛下」や「殿下」などといった王特有の敬称を用いていなかった。
皆、「理玄様」と——憚ることなくその御名を口にしていた。
——金桂には、身分に対する線引きというものが無いのね。
各々が個を確立し、それを互いに尊重し認め合っている。
——銀桂とは大違い。
自分たちの国も、こんな風になればどれだけ良いか……。
「……羨ましい」
ぽつりと落とされた本心は、理玄以外聞こえることは無く。
「ありがとうございます、皆さん」
三公は心から喜ぶ白琳の笑みに釘付けになり、彼女が抱いた刹那の悲哀に気づかなかった。
「ああ、そうだ。陛下……って、呼び慣れてないからお名前でお呼びしても?」
仁鵲の確認に、白琳は即座に頷く。
「はい。勿論です」
「では、白琳様。俺たちまだ名乗っていなかったので、これを機に改めてご挨拶させていただきますね。俺は金桂国丞相の仁鵲です。以後お見知りおきを」
「あたしは金桂国太尉・紅鶴。六軍の左軍将軍でもあるよ。よろしくね」
「……金桂国御史大夫の義隼と申します」
三者三様の挨拶を経て、白琳も軽く一礼する。
「金桂国三公の皆様にお会いできて、大変嬉しく思います。改めて、よろしくお願いします」
そこで、ふとこちら側の自己紹介もまだだったことに気づく。
「あ、まだわたしの連れをご紹介していませんでしたね。こちらは翡翠。わたしの護衛を務めています」
「銀桂国九卿、光禄勲の翡翠と申します」
丁寧にお辞儀する翡翠の次に、掩玉と美曜の紹介が続く。その後、別室にいた梟俊たちとも合流して正式な顔合わせが行われ、両国の心的距離は一歩近づいたように白琳は思えた。




