第26話 客室にて
「お噂通り、聡明で誠実な賢君でいらっしゃいましたね。やっぱり金桂君だけあって口調は堅いですけれど、思っていたよりもお優しい方でびっくりしてしまいました!」
「確かに。もっと冷徹で、あからさまに侮蔑や嫌悪の眼差しを向けられるものかと覚悟していましたが、それも杞憂に終わりましたね」
「ええ、そうね」
胸中を各々吐露する掩玉と美曜に白琳は首肯する。その様子を翡翠は静かに見守っていた。
今白琳たちがいるのは、外朝の右側に位置する秋光殿。
内廷を一巡りした後、再度外朝に戻るとこの秋光殿内にある客室に通された。
かの御殿は普段、来賓をもてなす場であるらしく、そのためか一室一室がとにかく広い。内装もとりわけ豪華で、真新しい調度品ばかりが白琳たちを迎え入れた。
金桂の女官たちも嫌な顔一つせず懇切丁寧に接してくれるので、まさに至れり尽くせりの状態である。
「会談の場を設けてくれたうえに、ここまで手厚くもてなしていただけるなんて……。何だか申し訳ないわ」
白琳の言葉に、部屋の隅に控えていた中年の女官が反応する。
「とんでもございません。女王陛下直々にお越しくださるのですから、これくらいの接待は然るべきです。反対に粗雑なもてなしは陛下に対する侮辱、無作法というもの。我が国の威信と沽券を自ら貶めることになりますから」
「そ、そうですか……」
熱のこもった返答に、白琳はつい圧倒されてしまう。
「恐れながら陛下。私共に対しても畏まったお言葉は必要ございません。どうか、何なりとお申し付けくださいませ。御付きの方々も、どうぞお寛ぎください」
「いや、しかし……」
翡翠が異を唱えようとすると、女官はかぶりを振る。
「陛下の専属護衛および侍女の方々でいらっしゃるとはいえ、我が国の正式な賓客であることに変わりはありません。理玄様も、御一行には滞在中ゆるりと過ごされるようにと」
「殿下が?」
「はい」
満面の笑みで頷くのを見て、白琳たちは呆けた顔で互いを見合わせた。
そこで、扉が叩かれる音が室内に響く。
はい、と白琳が返事をすると、理玄と金桂の三公たちが入室した。
両国の女官たちはすぐさま叩頭の姿勢を取り、白琳だけが腰かけていた榻から立ち上がって彼らの元へ歩み寄る。
「陛下。お部屋はお気に召していただけましたか?」
仁鵲が微笑みながら問うと、白琳は「はい」と顔を縦に振る。
満足した様子に「それは良かった」と仁鵲は笑みを深めた。
「こちらから願い出た身であるにも関わらず、こんなにも素敵なお部屋を用意していただいて。本当に、何と御礼を申せばいいか……」
「いやいや、御礼を言われるほどのことじゃないから、気にしないで」
「おい、陛下に対して無礼だぞ」
義隼の注意に、紅鶴が「あ」と口元を抑える。
「しまった。つい、いつもの感覚で喋っちゃった。陛下、非礼をどうか御許しください」
「いえ……! わたしは全く気にしていませんから」
顔をあげてください、と白琳が請うと、紅鶴は少し驚いた表情になって、言われた通り面をあげた。
「むしろ、先ほどのように砕けた態度で接してくださった方がわたしは嬉しいです。わたし自身、畏まられるのは好きではありませんし、何より普段通りの皆さんと接したいので」
理玄たち金桂陣は一様に目を丸くし、互いを見合った。先ほどの白琳たちと同じように。
室内は静まり返り、沈黙だけが白琳を戸惑わせる。
——やっぱり、会って早々普通に接して欲しいなんて、厚かましかったかしら……。
「あの——」
勿論、無理にとは言わないのですが。
そう白琳が口にしようとしたところで、紅鶴が呵々大笑した。




