第25話 黒金
禁門をくぐり、最初に視界を覆ったのは外朝の中心である鳳華殿だ。
他の御殿よりも遥かに雄壮で、一際金細工の装飾や黒漆の壁が輝いている。
理玄曰く、この鳳華殿は銀桂の鸞桂殿と同じで、即位式などの重要な儀式を執り行う主殿とのこと。他にも、国内の賓客を招いての酒宴や祝祭を催す場としても機能しているらしい。
だが、改めて見れば金桂の宮廷構造は銀桂のそれと殆ど変わらなかった。
強いて言えば、建物の色や装飾、紋様が違う。主に金と黒の二色を基調とした配色で、それは今まさに白琳の前を歩いている青年と同じだ。
——まるで、理玄様のために造られた宮殿みたい。
強堅で、それでいて端麗な気品と美しさを感じさせる金殿玉楼とその主。
一心同体と言わんばかりの近似に、白琳は無意識のうちに理玄と宮殿を忙しなく見比べていた。
宮殿から理玄へと視線を移し変えた時、ふと、彼と視線がかち合う。
「何か」
先ほどから自分が凝視されていることに気づいていたのだろう。
その聡明な紫瞳には、僅かながらに困惑の色が浮かんでいた。
「申し訳ございません。わたしとしたことが、殿下に対し無礼な真似を」
「いや……別に構わない。私に何かおかしなものでも付いていたか」
「いえ、決してそういうわけでは……。ただ、宮廷と殿下が一心同体のように見えて」
「一心同体?」
「黄金と漆黒の色がお揃いですよね」
「なるほど。そういうことか」
理玄も通り過ぎた外朝建築と自身の服装を見比べながら、得心したように呟く。
「あの……差し支えなければ教えていただきたいのですが、なぜ、そのような身なりをされているのですか?」
理玄が問いの真意を図りかねて小首を傾げたので、白琳は慌てて付け足した。
「不躾なことは承知の上ですが、その……先ほど殿下にお目にかかった際、何だか王というより武臣のように感じられて。佩刀もされていますし」
「ああ……」
理玄は愛刀の柄に手を添えながら答えた。
「私自身、着飾るのはあまり好きじゃないんだ。それに、王である以上いつ何処で命を狙われているか分からない。万が一の時はなるべく自分で対処できるよう、常に刀は持ち歩いているし、時折鍛錬もしている」
「殿下自ら、鍛錬を?」
「ああ。臣下たちに守られるだけの無力な存在にはなりたくないからな」
その一言には、強い決意が込められていて。
再び前を向いて内廷の方へ歩いていく彼の横顔も、より凛々しく見えた。
己に厳しく、一切の妥協を許さない。
何より責任感が強く絶対的な権力を手にしても驕ることのない彼の素顔に、白琳は書簡通りのお人だと終始感心していた。




