第24話 邂逅
「ほーう。あれが噂のうら若い純真な女王様か。これはまた、大層お美しい方でいらっしゃる」
片手で庇を作りながら、仁鵲は興味深そうに呟き、
「でも、それなりに女王としての威厳が備わっているようにも見えるね。ちょっと甘くみてたわ」
紅鶴が感心した風に言う。
だが、義隼だけは険ある面持ちでひたすら黙然としていた。
隣に佇んでいた紅鶴は「ほら、そんな堅い顔しない」と片肘で彼の腕をつつく。
「もう二度と理玄のお叱りを受けるようなことはしないってちゃんと宣言したよね。そんな憮然とした態度じゃ、あちら側が誤解して面倒なことになっちゃうかもしれないよ」
「……だからって、一体どんな顔をして迎え入れればいいというんだ」
「こんな顔」
紅鶴が指さした方を訝しげに見ると、にこにこと人好きのする笑みで白琳たちを見つめている仁鵲が。
なぜ彼はこうも、長年敵対している相手に対しても平然かつ明朗な態度を貫けるのか。
自分には理解できないし、その笑顔を真似ることも不可能だと義隼は嘆息する。
「義隼」
そこで、一歩前に毅然と佇む主が視線を銀桂一行に向けたまま助言した。
「何もお前だけが複雑な感情を抱いてるんじゃない。こちらにも少なからずお前と同じ気持ちを持つ者も一定数いるし、向こうにだって俺たちのことを良く思っていない者もいるだろう」
「理玄様……」
「だから、お前は金桂の御史大夫としていつも通り堂々としていろ。仮に向こうから批難や侮蔑の暴言を吐かれたとしても、取るに足らない悪態だと一蹴すればいい。できるな?」
「はい、できます!」
義隼はまるで幼子のように威勢よく返事をした。
その際、仁鵲や紅鶴だけでなく、彼らの背後に控えていた官吏や護衛兵たちも噴き出すのを噛み殺していた。
「本当にお前は、大きすぎる子供のようだな」
「どっ、どういうことですか!」
声をあげて笑う理玄に義隼が赤面したのを最後に、金桂一団は身を引き締めた。
両陣営の接触まで、あと数歩。
あと三歩。
二歩。
一歩——
「遠路はるばる、よくぞ参られた。銀桂女君・桂白琳殿」
「多大なる歓迎痛み入ります。金桂君・華理玄様」
双方の家臣たちは膝をつき、各々拝礼した。
二人の若き王は互いを見つめ合う。
——この方が、僅か八歳で即位したという当代の名君……。王というより、武臣のように見えるわ。
——もっと気弱で儚そうな女君だと思っていたが……。紅鶴の言う通り、多少なりとも女王としての素質や威徳を感じさせる。
屹立する二人の王は、その端正な面差しに優美な微笑を浮かべつつも、それぞれの思惑を抱いていた。
——この会談は千載一遇のまたとない好機。ここで交渉が決裂してしまえば、二度と光ある未来は訪れない。失敗は許されないわ。
——女王の本性を暴くまで、油断は禁物。易々と彼女の口車に乗せられはしない。……だが、もし一縷の望みがあるとするなら、忌々しい怨鎖を断ち切れるかもしれない。
暫時直視し合った後、理玄の方から口火が切られた。
「客室を用意してあるので、明日の会談まで疲れを癒されるがよい。だがその前に、まずは宮廷を案内しよう」
「御心遣い、感謝致します」
理玄が背を向けて禁門の方を見ると臣下たちも立ち上がり、二名の警備兵が門を開け始めた。
金桂の神鳥が刻まれた堅牢な赤門がぎいと低く鳴く。
「付いてこられよ」
「はい」
かくして、白銀の少女王と黒金の青年王は邂逅した。




