第15話 女王の意志
まるで時が止まったかのようにしじまが広間に冴え渡る。
あまりに突拍子もない女王の宣言に、三公の面々は硬直していた。
「争いの火種を蒔いたのは正真正銘銀桂です。金桂は正当防衛として銀桂の侵略に防戦しただけに過ぎない。先祖の過失は、わたしが責任を持って落とし前をつけます」
「金桂に頭を下げるっていうのか? そして、七百年にも渡る争乱を引き起こした代償として領土や自国の資源を明け渡すと」
女王陛下は国をお捨てになられるつもりか。
地を這うような低い怒りをもって発せられた蒼鷹の駁議に、白琳はかぶりを振った。
「違います。金桂との二国会談を開き、両国のこれからについて協議するのです」
「金桂と会談? ハッ、笑わせてくれる。そんなの、向こうだって承諾するはずがねえ。仮に会談の場が設けられたとしても、和平条約を結ぶことなど不可能。とんだ大言壮語だ」
「一筋縄ではいかないことは重々承知しています。ですが、誰かが行動を起こさなければ現状を打破することは出来ません。それに、このまま戦を続けていても両国に何の利も無いでしょう」
一向に折れる気配の無い白琳に、蒼鷹はあからさまに舌打ちした。
それは鶖保も同じで、眉根を寄せて厄介者を見るような冷徹な視線を突きつけている。
だが、梟俊だけは何かを見定めるように白琳を凝視していた。その眼差しに厭悪や非難の念は無い。
「両国に何の利も無い、とは?」
反駁するのではなく、むしろ白琳の真意を掴もうとするかの如く何度も問うてくる。
白琳自身も、梟俊の異色な言動に内心驚きを隠せなかった。
——もしかして彼は、終戦と和平に賛成なのかしら……?
こちらが上手く説得すれば、少なくとも梟俊は己の考えに賛同してくれるかもしれない。
味方がいてくれればこんなにも心強いことは無いと、白琳の弁論にも自然と熱が籠った。
「銀桂と金桂の戦力はほぼ互角に思います。現に七百年以上もの間勝敗がつかずに拮抗していることがその証拠。このまま戦っていても、互いに疲弊し無駄な血が流れるだけです」
「無駄な血、ですと……?」
鶖保が最後の一言に反応し、異議を唱える。
「畏れ多くも陛下。兵たちの犠牲は無駄な血などではございません。彼らは母国を守ることを誇りとし、更なる銀桂の繁栄のために我が身を投げ打っているのです。先ほどの陛下の御言葉は彼らに対する侮辱にございます」
「あなたに彼らの何が分かるというの?」
凛然かつ冷厳とした声が残響した。
流石の鶖保も白琳の気迫に驚愕し、僅かにたじろいだ。
自分でも驚いた。まさかこんなにも冷え冷えとした声を出せるなんて思いもしなかった。
それも、三公を相手に。
心の中の自分が驚きを隠せずにいる一方で、現実の白琳はそのまま強く弁駁し続ける。
「確かに、彼らは捨て身の覚悟で戦っているのかもしれない。けれど、それは彼ら自身が望んだことではないわ。わたしたちのような為政者が、彼らに武器を持って戦うことを強制しているから、国のために、愛する人のためにと己に言い聞かせて、命を捧げざるを得ないのよ」
そう。戦うのは自分たちじゃない。
いつだって、何かの犠牲になるのは民ばかりだ。
何の罪もない彼らがこうして長きにわたる争乱に巻き込まれているのも、元はと言えば王族の決裂が原因だ。
これ以上、民に理不尽な苦しみと悲しみを与えるわけにはいかない。
「勝敗が決するまで永遠に戦い続けるということは、これから生まれてくる子供たちをいずれ死地に追いやるも同然です。銀桂の将来を担う彼らは——未来の銀桂民は、憎悪や悲嘆をもって命を奪い合うために生まれてくるのではない」
彼らは、大切な人と共に生きる喜びを知るために生まれてくるのです!




