第14話 梟と鷹の睨み合い
東席の方から梟俊たちを宥める声があがった。
白琳と翡翠、それからいがみ合っていた両者もかの人物を見やる。
「このまま口論し続けていても埒が明かないうえに、議題から完全に逸れてしまっている。何より陛下の御前で口論は不敬だと私は思うのだが」
声の主は細目細身が特徴的な男性だった。
彼の名は鶖保。与えられた職位は御史大夫。主に監察を司っている。
歳の頃は恐らく蒼鷹と同じくらいの四十代後半だろう。肩にかかるくらいの長さはある苔色の髪を緩く結わえている。
鶖保は梟俊たち同様、先王銀桀の代から仕えている国吏だ。また王族と深いつながりを持つ大家の出で、後宮があった当時は姪の婀珠を嫁がせていた。
やはり三公の一員にして監察役の御史大夫だけあって、不思議と場を調停させる力に長けている。彼の発言によって梟俊と蒼鷹のいがみ合いは止まり、両者は口を閉ざした。
その場の空気が安定したことに白琳がほっと胸を撫で下ろしていると、鶖保は糸目を白琳に向けて奏上する。
「六軍の主力を一部戻して様子を見るべきか、それとも全軍をもって再戦に踏み切るか。陛下はどちらが良いと思われますか?」
判断を委ねられ、白琳は思案した。
――どちらの選択も、結局は金桂国と対峙することに変わりはない……。
正直に言えば、白琳自身は双方の意見に賛同できなかった。
この戦には終わりが見えない。現に七百年もの間、幾度も停戦と再戦を繰り返してきたのだ。攻撃をしかけた銀桂側が矛を収めない限り、兵たちの命は無惨にも奪われ続ける。
『どうか、この怨嗟に塗れた哀しい世を、笑顔溢れる輝かしい世に――』
ふと、兄の言葉が脳裏を過った。
争いを憂い、平和を望む――切実な願い。それを叶えてみせると、あの日に誓ったのだ。
白琳は揺らぐことのない意志を宿した碧瞳で鶖保を見据え、澄徹とした声音で答える。
「わたしはどちらも良いとは思いません」
予想外の返答に、鶖保だけでなく梟俊と蒼鷹も一様に息を呑む。
「……こりゃあ一体どういう了見だ?」
「お考えを詳しくお聞かせ願えますでしょうか」
蒼鷹と梟俊の低い問いかけに、再び空気が更に重くなり緊張も走る。
だが、白琳は眉一つ動かさずに毅然とした態度を貫いた。
「そもそも、どうして金桂と矛を交えなければならないのでしょうか」
「はぁ?」
まさか、女王様の頭がここまでお花畑だったとは。
蒼鷹が内心呆れると同時に、梟俊と鶖保も白琳の疑問に唖然としている。
「陛下は梟俊から国史を教わったか?」
「ええ」
「なら分かるだろ。陛下の御先祖は自分の国を守るために——自国が乗っ取られないようにするために戦を仕掛けた。国防っていう大義名分があってこそ、現状が成り立ってんだよ」
「けれど、それは結局初代銀桂君の自業自得では?」
意表を突かれ、蒼鷹は言葉に詰まった。
子孫が先祖を愚弄したり、蔑ろにしたりすることはあってはならない。血統を何よりも重んじる銀桂でなら、まず許されないことだ。
ましてや、国の創造主たる先祖を批判することなど。
――小娘の分際で大口叩きやがって……!
蒼鷹だけでなく、他の三公たちの眉間にも深い皺が刻まれた。
しかし、白琳は彼らに反論の余地を与えず、畳みかけるように主張を続ける。
「桂華国が分裂し、七百年以上も敵対する元凶を作ったのは紛れもなく初代銀桂君です。わたしたちは今も尚、たった一人のくだらない私怨によって生み出された怨嗟に縛られている。それは金桂も同じこと。わたしは銀桂女君として――何より初代銀桂君の子孫として、祖先が犯した過ちを償い、現状を正したいと思っています」
「現状を正す、と仰いますと?」
梟俊の問いに、白琳は朗々と答える。
「金桂国に和平を申し入れ、戦争を終結させるのです」




